『ブレイキング・バッド』を観るべき8つの理由

昨年、アメリカ・ドラマ界の最高峰と言えるエミー賞作品賞を見事に受賞し、有終の美を飾った『ブレイキング・バッド』。シーズン1が始まって以来、エミー賞の常連だった同シリーズは、ファイナルシーズン終了後もイギリスをはじめ、アジア、南米と世界各国で視聴者を延ばし続けている。

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だが、このシリーズは開始当初から注目度が高かったわけではない。どちらかというと、このドラマほど、"食わず嫌い"されてきたシリーズはないのではないだろうか。
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このドラマを一行で説明すると――

「末期がんを宣告されたしがない化学教師が、家族のためにドラッグ精製に乗り出し、ドツボにハマっていく異色ドラマ」

つまり、イケメン刑事が事件を解決するわけでもなく、人気の1話完結型でもなく、謎が謎を呼ぶミステリーでもない。
主人公は50歳のオッサンで、続けて観ないといけない連続モノ、しかもガンやドラッグ、裏社会、暴力といったシリアスな問題を取り扱うという、当時のドラマ界のトレンドをまったく無視した内容で、確かにちょっと敬遠したくなる。

しかし、"それでも"このドラマは大ヒットを飛ばしているのだ。

しかも、シーズン1のビジュアルが強烈だ。

白のブリーフをはいたオッサンが、荒野に銃を持って立つ。

挑戦的だ。こびる姿勢いっさいなし。

何なんだ、このオッサンは...。ただ者ではないと興味をそそる者もいるかもしれないが、まず、女性視聴者はこのビジュアルだけで「果たしてこれに手をだしていいものなのだろうか...」と迷うはずだ。
しかし、もう一度しつこく言うが、"それでも"世界中で大ヒットを飛ばしているのだ。
この"白のブリーフ"を乗り越えた先には、どんな人間ドラマが待っているのか。
まだ疑心暗鬼な"食わず嫌い"の方のために、なぜ、「ドラマ界に衝撃をもたらした観るべき作品」と言われているのか、
その理由を紹介していこう。

理由その1:男の孤独とプライドは、国境を越える!

世界中の男たちが、みんな、ブラッド・ピットのように、かっこよくて、成功して、しかも妻も子どもも大切にするパーフェクトだったらいい。ブラピのような50歳だったらどんなにいいだろうか。

しかし、現実はそんなにうまくいなかない。

妻の尻に敷かれ、安月給を愚痴られ、息子にはじゃけんにされ、それでも家族のためならばと歯を食いしばって仕事にでかける。家のローンの足しになればと、仕事の後にバイトだってする。
父親は忍耐が必要だ。

このドラマの主人公ウォルター・ホワイトは、そういう男だ。
10歳以上年下の妻は、どこか幼く、好き勝手なことを言い、
夫に守られていることに気づかずに、自分が全部面倒を見てると思っている。
いくら家族のために頑張っても、それが当然で、とりわけ感謝されるわけでもなく、彼自身、感謝されることも望んでいない。
高校の化学教師だが、特に生徒に人気があるわけでもなく、尊敬もされていない。
誠実だが、地味で目立たない男。
生徒にバカにされても、バイト先のムカつく上司にこき使われても黙っているのは、プライドがないからではない。
家族のため、というプライドがあるから、自分を殺す。
それが突然、末期がんを宣告されてしまう。
しがない教師の保険では、当然高額医療など保証されない。
どこまでも地味でまじめな父親が、家族のため、お金のために、
自分の唯一の特技である"化学"を使ってドラッグ精製に手を出していく。
もちろん家族には秘密で...。
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仕事で、家庭でうまくいかない時、「本当のオレは...」と密かにめちゃくちゃ強い自分や悪の世界に君臨する妄想を抱いたことはないだろうか。
このドラマは、人生の折り返し地点をとうにすぎた50歳の男が、それを実際に実現していく姿を描く。
そうしてドラマ史上、最もサエないオッサン主人公が、次第に一目置かれる男になっていくのだ。しかも、その"男っぷり"を一番身近な家族は知らない...。
スーパーマンの正体を知らない同僚が、クラーク・ケントをけなすのと同じ構造だ。

しかし、ウォルターは正義の味方ではない。
悪の道を選んだからこその緊張感が、さらに彼をタフにしていく。
バレたら終わり。すべてを失う。
だからバレないためなら、何だってやる。どんな嘘もつく。
荒野で白のブリーフで立つのだって恥ずかしいなんて言っていられない。
ウォルターは、ヒーローでもなく、悪役でもない、「男」という生き物そのものなのだ。こんなキャラクターは今までなかった。

ウォルターを演じたブライアン・クランストンは、2008年からエミー賞主演男優賞を3年連続で受賞した実力派俳優。本日発表になった第68回トニー賞では見事演劇主演男優賞を受賞したばかり。名優アンソニー・ホプキンスは「私が知りうるかぎり、最高の演技」と大絶賛するほど。さらに、『TIME』誌が選ぶ"2013年最も影響を与えた、架空のキャラクター"では本作のウォルターが1位を獲得している。

それはブライアンはウォルターを通して、「男」という生き物を体現しているからにほかならない。誰もが演じてみたいが、演じるのは相当な演技力を要する複雑な役。この前代未聞の難役に挑み、男の意地、孤独、愚かさ、不器用さ、愛らしさ、苦しみ、喜び、そして死と向き合う覚悟、すべてを見せてくれる。
「男」という普遍的な役だからこそ、国境を越えて世界中で共感を生んでいるのだ。

そして、ウォルターに出会った者は言う――「そう、男ってそうだよね」と。


理由その2:世代を超えたオッサン&ワカゾーのコンビが斬新!

ウォルターがいくら最高に深いキャラクターだと力説したところで、やはり世のドラマファンがどうしても期待してしまうのが、イケメンキャラだろう。
本シリーズ、ほとんど唯一と言ってもいい、イケメンキャラが、ウォルターの相棒となるジェシー・ピンクマンだ。
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ピンクマンーー名前からしてチャラい。
そう、チャラチャラで、中身もペラッペラのワカゾーで、ウォルターが綿密に計画を立てても、ジェシーが何かしらやらかして、次々と問題を起こしていくのだ。
ウォルターの元教え子で、息子ほど年は離れているので、
ほとんど出来の悪い息子のように扱われるが、意外に情にもろい人情派。
シリーズを重ねるごとに、どんどんいい男に成長していく。
思わず、見守りたくなる愛すべきダメ男なのだ。

演じるのは、TV界でキャリアを積み、同シリーズで一躍注目の若手俳優となったアーロン・ポール。彼はジェシー役で、エミー賞ドラマシリーズ部門の助演男優賞に09年から4年連続でノミネートされ、10年と12年には同賞を受賞している。最近は、映画『ニード・フォー・スピード』で主演に抜擢されるほか、リドリー・スコット監督の新作など、大作への出演が相次いでいる。

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ライタープロフィール

柏木しょうこ
柏木しょうこ

エンタメ系翻訳家・ライター・企画編集。
『SMASH』『ブレイキング・バッド』などドラマ、映画をはじめ海外映像作品の字幕・吹き替え翻訳ほか、書籍翻訳を手掛ける。主な訳書は『ロング ウェイ ラウンド~ユアン・マクレガ―大陸横断バイクの旅』(世界文化社)『アンジェリーナ・ジョリー 暴かれた秘密』(ぴあ)、『恋とニュースのつくりかた』ほか。『英語で楽しくtwitter!―~好きを英語で伝える本』執筆・監修。現在、ジャパン・ニューズ(旧デイリー・ヨミウリ)にて映画のシーンを語るFrom the Sript(木曜掲載)を隔月で連載中。

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