SPECIAL 特集

ハリウッドを支える日本人たち

サウンドエディター 石川孝子

ミュージシャン希望からあらゆる“音”を紡ぎだす一流の音職人へ!

2004年にエミー賞を受賞した日本人女性がいる。サウンド・エディターの石川孝子さんだ。

TVや映画制作に欠かせない“音響効果”を担当するのが、サウンド・エディター。日本では、いわゆる「音効さん」といわれる職業に当たるが、どうしてどうして日本とはちょっと(どころかまったく?)違う世界らしい。
まずはこの“音響効果”という仕事についての紹介から始めよう。


目次

サウンド(音)はデザインする(作り出す)もの!
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音響効果のことを英語では、“サウンド・デザイン”または“サウンド・エフェクト”と呼ぶ。この仕事は、「サウンド・デザイン」「ハード・エフェクト」「バックグラウンド」「フォーリー」の4つに分かれており、分業制となっている。

「サウンド・デザイン」・「ハード・エフェクト」…物が出す音、架空の生物が出す音を、そのものに聞こえるように作り上げる。たとえば銃や爆弾の音、乗り物、コンピュータ、機械、怪獣、魔法などなど。録音や機材などを使って、さまざまに音を組み合わせて作り上げる。

「バックグラウンド」…シーンの状況を説明するのに必要な音 、たとえば、鳥のさえずりや雨風といった気候、冷蔵庫やコンピュータの待機音などなど。毎日の生活で私たちが何気なく聞き流しているような空間、環境の音。背景となる音。

「フォーリー」…人が出す音を登場人物に合わせて真似た音を録音しエディティングする。たとえば、足音、服のすれる音からキスやおならの音まで。TVや映画の画面を見ながら、フォーリー・アーティストが実際に演じて、必要な音を作り上げていく。フォーリー・ミキサーと組で仕事をする。

ロゴ
音源サンプル
オフィスのバックグラウンド音1
オフィスのバックグラウンド音2

セキュリティーカードをスライドした時の
サウンドエフェクト
ソファーに人が腰掛ける音(フォーリー)
 

 

他に台詞を主に担当するのが「ダイアログ・エディター」。分業が当たり前のハリウッドだから、こうした音の種類によって担当が分けられている。こうした一連のサウンド関係の仕事をする人をまとめてサウンド・エディターと呼び、それぞれのエディターをまとめているのが、サウンドスーパーバイザーだ。そして、上記の全ての音と音楽を画面にあわせてまとめるのが、ミキサーの仕事なのだ。

サウンド・エディターというお仕事、少しイメージがついただろうか? 石川さんが担当しているのは、主にサウンドデザイン・ハード・エフェクトの部分。バックグラウンドの音を同時に手がけることもよくあるそうだ。

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エミー受賞『デッドウッド~銃とSEXとワイルドタウン』の音作りとは…

2004年のエミー賞。サウンド・エディティング部門で見事エミー賞を受賞したのが、日本人の石川孝子さん。2004年のエミー賞授賞式のことは、気持ちが高揚していたのだろう、断片的にしか覚えていないという。
「『デッドウッド』とアナウンスされたときは、(意外で)『ふん?』という感じでしたね(笑)。そしたら周りが立って、おめでとう!なんて言ってる。本当にびっくりしました」。

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デッドウッド~銃とSEXとワイルドタウン』は、19世紀後半のアメリカを舞台にした、いわば西部劇調の人間ドラマ。
「『デッドウッド』は時代が古いので、バッググラウンド音から台詞まで時代にあった古い感じの音を出さないといけない。そういうのが評価されたのかなと。木製の道具の音ってありますよね。あとは牛とか豚(の鳴き声)とか、家もボロいわけだから階段をぎしぎし歩いたり。売春婦の館では、(多くの人が出入りするので)しょっちゅう部屋のドアの開け閉めの音を入れてあげるとか。そういうのは私たちの配慮なんですね。設定から、こういう場所だろうなと、こっちが考えて音を入れてあげるんです」。

TVや映画における音の役割について、石川さんに話を聞くと、いかに重要な存在か思い知らされる。
「たとえば怖い映画があるでしょう。異様な雰囲気がするのは、異様な音を入れてるからですよ。あれが普通の音だったら怖くもなんともない。人が座ってるだけのシーンでも、(地響きの音がすれば)なんとなく怖いなと思うのは、怖いときに地響きの音がするというのが、人間の記憶の中にあるんでしょうね。だから全く同じ映像でも(音を変えれば)どういうシーンにもできちゃうんですよ。そのシーンが外で雨が降ってるシーンになったり、吹雪になったり。宇宙船の中になったり。洞窟のシーンなんかは、実際洞窟で撮影してるわけじゃないんで、ほとんどセット。ぴちぴち水が落ちてきたり、声にエコーがかかってるのは、エフェクトのおかげですよね」。

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バークリーでドラムを専攻、そして“とりあえず”のLA行きが転機に!

映画好きではあったが、別にサウンド・エディターを目指していたわけではない。本当はミュージシャン、音楽関係の仕事につきたくて、高校を卒業後、渡米。ボストンにある有名なバークリー音楽大学に入学した。最初はドラムを専攻していたが、「音楽を演奏して食べていく、それで生活していくのもなかなか難しいものがある」と思い、エンジニアリング(ミキシング)とミュージックシンセシスをWで専攻した。
「音楽スタジオ関係に入りたいと。どうやってレコードって作るのかもわからなかったし、そういうのにも興味があったんです」。

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5年かけて卒業したバークリー。死にもの狂いだった勉強からは解放されたが、もっと辛い試練が待っていた。仕事探しである。
「ボストンからニューヨークまで、とにかく履歴書は100通くらい出しました。ミュージックスタジオで2年間程見習いをしていたにもかかわらず、返事は一つだけ。CDを焼いてくれという仕事でした」。
「やっぱり音楽はやりたかったですけれど、外国人だから(労働)ビザの問題があるんですよ。卒業してからの1年間でなんとかしなきゃいけなかった。アメリカ人と対等になれる人じゃないと、なんであんた(外国人)を雇わなきゃいけないの?となりますからね」。

バークリーで一緒にバンドを組んでいた、後に石川さんの夫となるマット・テンプルさんがロサンゼルスへ行くと聞き、一緒にLA行きを決意した。当時LAでは、大学の専攻で必須だった“プロツール”などコンピュータ音楽のためのソフトウェア知識が貴重がられた。おかげでファンタジー・アクション系のTVドラマ『ヘラクレス』や『ジーナ』の音を作っていた会社に採用されたのだ。音楽業界への夢がハリウッドのサウンド・エディターへの道を開いた。何がどう転ぶのかわからない。

夜明けまで残業して、英雄ヘラクレスや女戦士ジーナが剣をカチンカチンぶつけあう戦闘のシーンなど作り上げていたが、ハリウッドで生き抜くのは本当にタフでなければならない・・・上司が変わると同時に解雇されてしまった。一度はかなり落ち込んだ石川さんだが、気を取り直して就活。
そして、やはり“プロツール”が使えるサウンド・エディターを探していたソニーから、採用される。ソニーでは『ドーソンズ・クリーク』や『レスキュー・ミー~NYの英雄たち』『恋するアンカーウーマン』『ベイウォッチ』『デッドウッド』『ROME』など、TVドラマを中心に多数の作品を手がけた。フリーランスとなった現在は、『BONES-骨は語る』を主に手がけるほか、最近は『ミディアム』のダイアログ・エディターとして台詞部分を担当。活動の幅をダイアログにも広げている。

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『BONES』はこんな音作りをしています!
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仕事のサンプルとして見せて(聴かせて)もらったのも『BONES』だ。爆破のシーンは部屋中に響き渡るような爆音。びっくりした~。
「スタジオで聞くと素晴らしい音なんですけどね(苦笑)。テレビのスピーカーはちゃちいですから。あのテレビから音を出すためには、音を重ねておいてあげないと。(スタジオでは)うるさい音だったのに、テレビで見るとポワンくらいですからね。厚みを入れておかないとテレビではわからないんです」。
爆音といっても一発ドッカーンだけで構成されているわけではなく、いろんな音が重なって完成するのだ。

「(『BONES』は)ラボがね、うるさいんですよ」。
うるさいといってもブレナンやブースのおしゃべりが…ではない。台詞はダイアログ・エディターの担当なので、むしろエフェクトの石川さんは、台詞の邪魔になる大きな音を入れてはならない。
「会話の合間合間のしゃべっていない部分にも必ずハード・エフェクトのバックグラウンド音(コンピュータや機械装置のピー音等)を入れているんです。なかなかテレビでは聞こえないと思う。だけど無いとおかしいし、いかにもセットくさいなってわかっちゃう。セットっぽくしないために、こういう環境なんだよと信じてもらえるような音を入れておいてあげるんです」。

ブレナンやブースのオフィスにはそれぞれのバックグラウンド音を、けれど、音響設備のいいスタジオでもその音はかすかに聞こえる程度。
「こんな聞こえない音のために、何時間も(音作りに)費やしているんです(再び苦笑)」。
その聞こえない音を含め、注文を出すのが、番組のプロデューサーだ。通常、最初にプロデューサーと、音の責任者であるスーパーバイザーが打ち合わせをして、製作側のリクエストを伝える。その後、石川さんたちサウンド・エディターが「スーパーバイザーと一緒に、リクエストを元にそして、自分たちのセンスで音を入れていくんです。『BONES』でも1話につき、だいたい1週間かけてエディティングをします。その間に別にフォーリー/ダイアログさんたちも動いているんですよ。1週間でもキツイです、ああいうアクションものはね。「ボーンズ」のミキシングには2日かけます。ミキサーさんたち(通常ダイアログとエフェクトと分かれ2人いる)と、1日目でだいたい仕上げて、そこで音のプロデューサーさんからの訂正/変更/要望などなどの注文を直す。その人たち(音担当のプロデューサー)は、もっと上のプロデューサーさんの要望を知っているとした上でやるんです。とりあえず1日目の通しのミキシングが終わると、次に偉いプロデューサーさんが来て、訂正ノートを書くんですよ、『これ直しといて』と言って。最後に音と絵を合体させてオンエアになります」。

「長いんですよ」と石川さん。音入れだけでも1週間以上かかるとは…。ちなみにミキシングが終わった翌日オンエアだったりもするそうだ。

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日本での仕事にも興味を持つ石川さんは、今年、日本で公開中の中村獅童主演映画「銀色の雨」のサウンド・デザインを担当した。 鈴井貴之監督には「いつものように(こっちでやっているように)仕事をさせてくれた」と感謝しきりだが、それでも日本の音響効果の現状には残念に思うことも。
「もう少しサウンド・エディターの仕事の重要性がわかってもらえると良いのですが」。
専門化した作業だけに、ハリウッドでもサウンドの仕事を皆が皆、理解しているわけではない。だからこそ、石川さんは講演会で話すこともあるし、インタビューも快く引き受けている。

サウンド・エディターの作業はとても地道だ。スタジオにこもっての作業なので、最近、石川さんは職業病の腰痛に悩まされている。それでもこの仕事が大好きだ。
「もっと音楽をやりたいという個人的な希望は今もあります。でもね、仕事としてはラッキーだと思います。想像力を使って何かを作り上げるというのは」。
作り上げた音は世界中の視聴者が耳にすることになる。たとえそれが、かすかにしか聞こえない音であっても。今度TVドラマを見るときは、台詞以外の音に注意してみてはいかがだろう。海外ドラマ好きのみなさんには、ぜひ、石川さんのような音のスペシャリストたちの仕事にも耳を傾けてほしい。


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石川孝子プロフィール
サウンド・エディター 石川孝子(Takako Ishikawa)

東京都出身。1989年に渡米し、バークリー音楽大学にてミュージックプロダクション&エンジニアリングとミュージックシンセシスをWで専攻。卒業後、ロサンゼルスのポストプロダクション会社「デジタルサウンド・アンド・ピクチャーズ」入社。2000年には「ソニー・エンターティメント・ピクチャー」入社する。2004年、 HBO製作の『デッドウッド~銃とSEXとワイルドタウン』で第56回エミー賞受賞。現在はフリーとして活躍中。

最近手がけたドラマは、『Sit down, Shut up』『Medium』など。現在も『BONES』シーズン5のサウンド・エフェクトを作りこんでいる最中。

http://takakoishikawa.com




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