「死んだあのキャラが再登場したのは、その俳優に会いたかったから」『ゲーム・オブ・スローンズ』インタビュー【13】

米HBOで2011年より始まり、この春放送された最終章をもってついに完結した『ゲーム・オブ・スローンズ』。それを記念して、最終章放送前に行われたキャスト&スタッフのインタビューをお届けしていこう。今回登場するのはクリエイターのデヴィッド・ベニオフD・B・ワイス。10年以上かけて本作と関わってきた二人が、最終章の結末や「スタバ事件」、ベストエピソード、死んでいったキャラクターなどについて思い入れたっぷりに語ってくれた。(本記事は、ネタばれを含みますのでご注意ください)

20191204_GOT13_12.jpg

――ついに最終章を迎えましたが、今の率直なお気持ちは?

ベニオフ:ほろ苦い気分だよ。なんといっても13年もかけた作品だからね。最初にHBOに売り込んだのが2006年で、その前から原作者のジョージ・R・R・マーティンと計画を練っていた。人生の多くをつぎ込んだ作品だから、終わってしまった今となってはやっぱり喪失感もある。作品を愛していたし、みんなと一緒に作るのが楽しかったからね。でも作りたかった作品を作れたという喜びもあるんだ。脚本家や製作者にとって、これは実に稀なチャンスだったと思う。一流の人たちに囲まれて、これ以上の仕事はないよ。まさに一生に一度の経験だ。作品に関われたことを名誉に思うし、永遠に恋しく思うだろうね。

ワイス:僕はちょっと疲れたよ。

――最終章の結末は、最初から思い描いていたものだったんですか?

ワイス:だいぶ昔の話だからちょっと記憶が混濁している部分もあるけど、最終的にこういうストーリーラインにしていきたいというアウトラインが決まったのは第二章の頃だったかな。それをベースに、話が進んでいくにつれて詳細を描き込んでいったわけだけど、実際に脚本を書き始めないことにはどのシーンがどうなるかまでは分からないから、そこは書きながら進めていった感じだ。それでも第四章、第五章、第六章なんかもある程度結末はこうなるというのを見据えてストーリーを作っていた。

20191204_GOT13_08.jpg

――すべてが終わった今だからこそ話せる撮影秘話はありますか?

ワイス:製作中はネタばれしないようにすごく気を遣ってて、その対策の一つとして、様々なロケ地で架空のシーンをでっち上げた。シーン丸ごとではないけどね。ある時、クロアチアでの撮影中、遠くから写真を撮る人たちがいて。その時ジョン・スノウ役のキット・ハリントンとサーセイ役のレナ・ヘディは別々に撮影してたんだけど、キットをレナのところに連れて行って、かがんで彼女の指輪にキスをさせたんだ。ネットに上がることを見越してね。そういった架空のシーンをいくつか撮影して、わざと広まるようにした。そうすることで本当の情報も偽の情報に紛れるからね。今だからこそ、真実を明かせるよ。

――ドラマには多くのキャラクターが登場しましたが、お気に入りのキャラクターは?

ワイス:自分の子どもの中で誰が一番好きか選べっていうくらい難しい質問だね。言えるのは、お気に入りは毎日変わるってことかな。でもそうだな、みんな素晴らしいキャラクターだけど、僕は欠点があるキャラクターの方が好きなんだ。そういう意味でシオンはずっと気に入っているキャラクターだった。最初は酷いこともたくさんするけど、その葛藤などがとてもよく描かれている人物だよね。こうしたジャンルのフィクションにはあまり登場しないタイプのキャラクターだ。彼の境遇には同情もするけど、やってきたことには嫌悪感も覚える。これはアルフィー・アレンの見事な演技によるところも大きいと思う。だから、なんだかんだで、ずっとシオンには愛着があるんだ。

20191204_GOT13_11.jpg

ベニオフ:僕のお気に入りはアリアとサンサかな。僕自身に姉が二人いるし、娘が二人いるせいかも。

ワイス:お姉さんが二人いるの?

ベニオフ:ああ、そうだよ。

ワイス:じゃあ、君はブランだね(笑)

ベニオフ:ともかく、出演が決まった時、彼女たちはまだ子どもで、確か(サンサ役の)ソフィー(・ターナー)が12歳、(アリア役の)メイジー(・ウィリアムズ)は11歳だった。二人一緒にオーディションもして、本物の姉妹に見えるか確かめたんだ。彼女たちはドラマの中では激しく言い争うけど、普段はまるで違う。会ってすぐに親友になってたよ。そんな二人が、物語の中でも実生活でも成長していく姿を見守ることができたのは、とてもいい経験だった。

20191204_GOT13_13.jpg

僕たちはとても幸運だったと思う。選んだ子役が役に合った成長を遂げるかは分からないからね。サンサとアリアの前途は多難で、いい役者が必要だった。でも子役の選定は賭けだから、彼女たちが優れた人間、そして俳優に成長してくれて幸運だった。シリーズに関わった人たちはみんな家族のようだけど、成長していく子どもたちがいたからいっそう家族っぽかったね。だからサンサとアリアは僕にとって特別なんだ。

――俳優の成長に合わせて当初のストーリーから変えた部分はあったのですか?

ワイス:当たり前だけど、彼らもいつまでも子どもではいられないからね。ソフィーもメイジーも(ブラン役の)アイザック(・ヘンプステッド・ライト)も、最初は小さな可愛い子どもだったけど、この間なんてソフィーの結婚式に行ってきたんだから。身長も僕とほとんど変わらないくらいになったし、みんな成長して変わっていったよね。特にアイザックはすごく背も伸びた。幸い劇中ではずっと車椅子だったから、どれだけ背が高くなっているかあまり分からないようになっていたけど。そういう意味では幸運と言えば幸運だった。

ただ、役者の成長に合わせてストーリーラインを変えたかと言えば、この作品においては特にしなかったんだ。役者の成長がストーリーラインを追い越してしまうのはTVシリーズではよくあることだけど、そのための調整をあえてしようとは思わなかった。アリアは最初は11歳の可愛い女の子だったのが、今では立派な一人前の女性になったわけだけど、大人になったといってもみんな初めて会った時と同じように接してる。彼らが成長して大人になってしまったことに関しては、オーディエンスに受け入れてもらうしかないよね。

――死んでいったキャラクターも多かったですが、もし可能なら生かしたかったキャラクターはいましたか?

ベニオフ:そういうキャラクターは何人かいるけど、役というより演じた役者と会えなくなることの方が寂しく感じてしまう。例えば、カール・ドロゴ役のジェイソン・モモアとは私生活でもとても親しくなったので、一緒に過ごすのがとても楽しかったし。なんといってもジェイソンは世界に二人といない存在だからね(笑) 彼が演じたドロゴの物語はやっぱりあそこで終わるべきだったから、仕方がないとはいえ、現場で会えなくなるのはすごく寂しかった。第二章で彼は夢のシーンという形で再登場した(第二章第10話「勝者」)けど、その理由は主に僕たちが彼に会いたかったからだよ(笑)

20191204_GOT13_04.jpg

でも、シリーズ全体を通して、どのキャラクターも死ぬべきタイミングで死んでいったとは思ってるよ。演じた役者に会えなくなって寂しいという思いはこのシリーズで何度も経験しているけど、それだけ素晴らしいキャストに恵まれたということなんだよね。友人の中には同じようにTV業界でいろんな俳優と仕事をしている人も多くて、結構怖い話も聞く。甘やかされてたり、気難しすぎたり。でも『ゲーム・オブ・スローンズ』に関しては、ごくわずかな例外を別にして素晴らしい人に恵まれて、だからこそキャラクターが死ぬとキャストに会えなくなるのが寂しかった。それはジェイソンだけでなく、キャトリン役のミシェル・フェアリーやロブ役のリチャード・マッデンもそうだし、みんなだよ。

ワイス:彼の言う通りで、キャラクターが死ぬ時には本当に悲しい気持ちになるよ。でもだからといって生かしたら生かしたでストーリーとして筋が通らなくなってしまうから、仕方ない部分もある。ジェイソンとは今でも付き合いがあるし、彼以外にも私生活で付き合いのあるキャストは結構いるんだ。

――この作品に起用された当初は無名だったキャストも多いですが、キャスティングのオーディションで印象に残っていることは?

ワイス:最初はキャスティング専用のWEBサイトで各自の動画を見たんだ。だからノートPC上での小さな映像が最初の印象だった。実際に会うとおかしな感じだったな。初めて(デナーリス役の)エミリア(・クラーク)に会った時のことはよく覚えてるよ。その頃、僕らはデナーリスに合う役者が見つからずに困り果ててたんだけど、PC上の小さな画面でエミリアの映像を見て、彼女しかいないと思った。その後ロンドンに行ってオーディションをしたんだけど、面白いことに実際の彼女はとても陽気で常に幸せそうに笑ってて、冗談なんかもよく言ってたよ。本来の彼女はデナーリスとは似ても似つかないのに、「アクション」の声とともにカメラが回ると、まるでスイッチでもあるかのようにまったく違う人間に変わるんだ。そんな彼女の才能と、一緒に働く上で楽しいところが大きな決め手になった。

20191204_GOT13_03.jpg

HBOのオーディションもあって、彼女はロサンゼルスに来てオーディションを受けた。とても良い演技を見せて、オーディションは無事終了したよ。当時HBOの社長だったマイケル・ロンバルドも感心してたね。それで最後にデヴィッドが「ダンスはできる?」って聞いたら彼女は踊り始めたんだ。ロボットダンスとブレイクダンスをね。まったく動じることもなく、恥ずかしがりもせず、ただ楽しいから踊ってるという感じだった。彼女はそういう人なんだ。第一印象がすごく良かった。デナーリスとは全然違う? その通り。エミリアは人を怒鳴りつけたりしないよ(笑)

――お二人それぞれにとってのベストエピソードは?

ベニオフ:「落とし子の戦い」(第六章第9話)にはすごく思い入れがあるね。監督のミゲル・サポチニクとの仕事は楽しかったし、戦闘シーンも見事だ。ラムジーを犬小屋に残してサンサが去る最後のショットは、みんなが現場で見守っていた。彼女はカメラの方へ歩いてきて通り過ぎる。小さな笑みを浮かべてね。夜の撮影だった。何度もやり直して、やっと成功した時、ミゲルを見て頷くと、彼も頷き返してきた。そしてソフィーを抱き締めて、これは特別なシーンになると感じたよ。サンサが復讐する日をずっと待ってたし、あの時点で最も壮大なエピソードだった。だからとても誇りに思ってるよ。

20191204_GOT13_15.jpg

ワイス:僕は「キャスタミアの雨」(第三章第9話)に思い入れがある。正しく映像化できるかすごく不安だったんだ。もしこのシーンを正しく描ければ、登場人物に与える影響を印象づけられ、それがシリーズ成功の鍵となる。ドラマのラストまでの方向性を決定づける重要なシーンだっただけに、凄い重圧だった。監督を担当したデヴィッド・ナッターは、誰よりも多くのエピソードを手掛けた人物だ(編集注:シリーズ全73話のうち9話で監督を担当)。そんな彼にこのエピソードを託すと、予想以上のものに仕上げてくれた。まだ編集が荒い段階のものを見ただけでも、きちんと完成されていることが分かった。その時のことはよく覚えてるよ。最後のミシェル・フェアリーの恐ろしいショットを見た瞬間だ。彼女が倒れて、フレームの外へ消える。それは僕たち二人にとってとても大きな瞬間だった。きちんと映像化できたと確信した瞬間だったからね。

20191204_GOT13_14.jpg

――これだけ壮大な世界観、物語を構築していくのは非常に大変だったと思いますが、制作していく中で特に苦労したことは?

ベニオフ:世界観が壮大だから、全体をまとめるのに苦労したよ。それに欠点を探られるから何か一つでも間違えると、すべてが台なしになる恐れがあった。例えばもしミシェル・クラプトンが衣装担当じゃなかったら、あそこまで美しい衣装ではなかっただろうし、セットが正しくなかったり、配役を誤ってこの世界観にそぐわない俳優がいてもダメだ。不適当な台詞があったりね。実際にこれはあったんだけど、幸運にも編集できた。とにかく規模の大きさに苦労したね。「不信の自発的停止」という古い言葉がある。フィクションは受け手を信じさせることで成り立っている。その没入感を途切れさせてしまうと作品が楽しめなくなるんだ。

ワイス:コーヒーカップ一つでね(編集注:最終章で起きた「スタバ事件」のこと)。それだけで作品全体が永遠に不完全なものになってしまう。

ベニオフ:カップが映り込まないように細心の注意を払ってたはずなんだけどね...。

ワイス:でもドラマ制作がいかに難しいものなのかがみんなに伝わったなら、たまにはいいかもね。

20191204_GOT13_07.jpg

――逆に楽しかった思い出は?

ワイス:10年以上もあると、思い出は数えきれないよ。あまりに長すぎて、もう覚えてないことも多い。重労働だったしね。でも初めてクロアチアに行った時のことは印象深い。キングズ・ランディングは第一章ではマルタで撮影していて、あそこでロケに使える部分はすべて使ったよ。その後、より作品に合うロケーションを探してクロアチアに行き着いた。別に楽しかったとか、大騒ぎしたとかじゃない。ただ、第二章を撮ったドブロヴニクという古い町はまさしくキングズ・ランディングで、現地にある場所をそのまま使ったシーンも多い。町を歩いていると、長年夢見た世界の中にいる気分になったよ。

ドブロヴニクにある庭園は撮影で何度も出した。『サウスパーク』でネタにされるほどにね(笑) あの庭園で何度も撮影した理由は、本当に美しい場所だったから。アドリア海を臨むよく手入れされた屋敷があって、もう仕事という感覚ではなかったよ。誰もが休暇を過ごしたくなるような場所なんだ。あまりに美しくて物語の世界にいるようだった。そこでイスに座って穏やかな気分でセットを眺めてた。背景にはアドリア海。衣装を着た役者たちも仕事だということを忘れてしまいそうで、互いに今は仕事中だと言い聞かせてた(笑) それくらい素晴らしい場所だったんだ。

ベニオフ:僕にとって一番の思い出は、アイスランドの氷河の上で、撮影後にスタッフやキャストのみんなで雪合戦をしたことかな。冬のアイスランドでの撮影が良かった点は、昼が短くて5時間くらいしか撮影できなかったことだね。スタッフは暗い中で後片付けや翌日の準備があったけど、それでも作業時間は短かった。雪合戦の後はみんなで小さなモーテルに戻って酒を飲んでた。これがアイスランドでの過ごし方だよ。撮影は少人数だったけど、本当に楽しかった。とても美しい国で素晴らしい時間を過ごせたよ。

20191204_GOT13_02.jpg

――最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

ベニオフ:『ゲーム・オブ・スローンズ』を見てくれて本当にありがとう。この作品は日本文化の影響も受けていて、ラニスター家の鎧は侍からヒントを得ているんだ。僕たちは二人とも日本に憧れて育った。武士道とか、忍者とかね。僕が初めて持った武器は手裏剣だったくらいだよ(笑) 今、物語を作る上で、こうしたことは僕らにとってとても大きな糧になっているんだ。それは原作者のジョージも同じで、だから日本の人たちに僕たちの作品を気に入ってもらえてすごく嬉しいし、光栄に思うよ。

ワイス:日本の人に気に入ってもらえる作品にすることが一つの基準になっていたんだ。それは僕たちにとって大きな目標だった。だから気に入ってもらえたことで夢が叶ったよ。

<『ゲーム・オブ・スローンズ』リレーインタビュー>
「どう終わってほしかったかという考えに捉われてはならない」【1】メイジー・ウィリアムズ(アリア・スターク役)
「サンサやアリアも自分を見つけていったのは素晴らしいこと」【2】メイジー・ウィリアムズ(アリア・スターク役)&ソフィー・ターナー(サンサ・スターク役)
「ジェイミー・ラニスターを演じてみたかった」【3】アイザック・ヘンプステッド・ライト(ブラン・スターク役)
「ティリオン、ジェイミーとのブロマンスは最高だった」【4】ジェローム・フリン(ブロン役)
「原作の精神に最後まで忠実だった」【5】ジョン・ブラッドリー(サムウェル・ターリー役)&ハンナ・マリー(ジリ役)
「ラムジーの死をネタばれされたの」【6】ジョン・ブラッドリー(サムウェル・ターリー役)&ハンナ・マリー(ジリ役)
「最初の読み合わせで二人クビになった!」【7】ニコライ・コスター=ワルドー(ジェイミー・ラニスター役)&グウェンドリン・クリスティー(ブライエニー役)
目がうるうるなのは涙じゃなくアレルギー!?【8】ニコライ・コスター=ワルドー(ジェイミー・ラニスター役)&グウェンドリン・クリスティー(ブライエニー役)
「30年後も僕たちはウェスタロスの話をしているだろう」【9】ジェイコブ・アンダーソン(グレイ・ワーム役)&ジョー・デンプシー(ジェンドリー役)
「素晴らしい悪役が死ぬ度、少しの間、喪失感を味わう」【10】ジェイコブ・アンダーソン(グレイ・ワーム役)&ジョー・デンプシー(ジェンドリー役)
「メリサンドルを定期的に罵ってるよ」【11】リアム・カニンガム(ダヴォス・シーワース役)
玉座に座るべきはブライエニーとトアマンドの子?【12】クリストファー・ヒヴュ(トアマンド役)
「シリーズ完結は新たな始まり...」作品担当者が語る、本作の日本上陸と鉄の玉座が生まれた経緯

20191204_GOT13_jacket1.jpg
20191204_GOT13_jacket2.jpg

■商品情報
・『ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章>』
12月4日(水)ブルーレイ&DVD発売
【初回限定生産】ブルーレイ コンプリート・シリーズ...42,727円+税
【初回限定生産】DVDコンプリート・シリーズ...34,545円+税

・『ゲーム・オブ・スローンズ 最終章』
ブルーレイ&DVD好評レンタル中
12月4日(水)ブルーレイ&DVD発売
【初回限定生産】ブルーレイ コンプリート・ボックス...11,818円+税
【初回限定生産】DVDコンプリート・ボックス...10,000円+税

※R-15:本作には一部に15歳未満の鑑賞には不適切な表現が含まれています

発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

公式サイトはこちら