『ゲーム・オブ・スローンズ』完結は新たな始まり?作品担当者が語る、名作ドラマの日本上陸と玉座が生まれた経緯

今年ついに完結した『ゲーム・オブ・スローンズ』。全八章にわたり続いた同作を今一度振り返るべく、ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントで同作のマーケティングを担当されている笠井朝子(かさい あさこ)さん富永裕未(とみなが ゆみ)さんを直撃! 世界的大ヒット作が日本でどのように受け入れられていったか、これほどまでに人を惹きつける魅力、プロモーションの舞台裏などについて興味深い話を聞かせてもらった。(※本記事は『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章までのネタばれを含みますのでご注意ください)

――様々なストーリーとキャラクターが入り組んでいる『ゲーム・オブ・スローンズ』の魅力とは? お二人のお気に入りのキャラクターは誰ですか?

笠井さん:私が思う魅力は、キャストと緻密なストーリー、予想を裏切る展開、壮大なスケールですね。そして作品については言い尽くされていると思うので、女性プランナーとしての視点で語らせてもらうと、『ゲーム・オブ・スローンズ』は女性の成長物語と女性賛歌だと思うんです。だって気づいたら女性ばかり残っていますよね。デナーリス、サーセイ、アリア、ブライエニー、オレナ・タイレル、ヤーラ・グレイジョイなど、女の闘いだというところも面白かったです。あとは家族の物語で、血は水よりも濃しというところがいろんな意味で最後に出たなと思います。

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そんなポイントを特によく表しているキャラクターだと思うのはスターク家の姉妹、サンサとアリアですね。サンサは最初は夢見る女の子だったのに、あり得ないくらいの苦痛を味わされます。そこからの起死回生、最終的に北の女王になっていく様には素晴らしいものがあると思います。アリアも同じように父親を失い、さらに母親と兄も助けられず、復讐の鬼と化して視聴者みんなの無念を晴らしてくれる。この二人ってすごく家族らしいですよね。アリアって一匹狼かと思ったらとても家族思いで、どちらを取るか悩んでいたジョン・スノウに「私たちは家族だ」って言いますし。そのあたりの描き方とかが面白かったな、というのが私の意見です。

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富永さん:作品の魅力については、笠井が説明した通りですので(笑)、キャラクターで言うと私はジェイミーとブライエニーの関係がすごく好きですね。ジェイミーって最初は本当に悪い人という印象ですよね。まあ、彼が第1話で事件を起こしたことによってこの物語は始まるわけですけど。そんな彼を見ていくうちに、人って変われるんだな、と思って、人間のいいところが出てくるのがすごく魅力的でしたね。ブライエニーのはかない恋も素敵だなあと思います。

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――お二人の熱い思いが伝わってきました。そんな本作、日本ではファンタジー作品はあまり人気がないこともあって当初はプロモーションで苦労したという今では信じられないような話も耳にするのですが、どのように広めていったのですか?

富永さん:私は第七章から担当しているのですが、最初から担当していた前任者によると、ファンタジーものはやはり受けにくいということから、スペクタクル・アクション作品で、セクシーなシーンも多いという形で売り出したそうです。ただ聞いた話では、放送局のHBOはかなり気合が入っていて、シリーズ第1話の日本語字幕版を引っ提げて本国からチームが来日し、作品のプロモーションを行ったそうです。「これだけいい作品だから日本でも力を入れて売ってほしい」と。作品を持って放送局の人間が来日するなんて話は他に聞いたことがありませんから、それだけ特別な作品だったことが伝わりますよね。

――日本でもすっかり人気になったという手ごたえを得たのはいつですか?

富永さん:第一章~第三章のボックスセットを発売して、それが予想より売れた時です。その頃から、著名人の方々がTwitterとかで本作が面白いとつぶやいてくださるようにもなりました。

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笠井さん:バッと広がったというよりも、本当にじわじわと口コミで広がっていった印象ですね。普通、海外ドラマって第1シーズンで大きくプロモーションをして、それ以降はどんどんレンタル数なども含めて規模が小さくなっていくんです。それが常識なんです。でもこの作品に関しては逆に大きくなっているんですよね。

富永さん:ビックリしたのが第六章に比べて第七章の数字が上がっていたことで、本当に人気が年々増えてきているなと実感しました。今では認知度もすっかり上がりましたし、タイアップ等のお声がけもすごくて、『ゲーム・オブ・スローンズ』と一緒に何かをやりたいというお話をよくいただきますね。

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――これまでに行ったプロモーションで特に印象深いのは?

富永さん:鉄の玉座を作ったことですね。HBOと半年くらい交渉したんです。2017年の東京コミコンに向けた目玉として作ったのですが、、私自身も予想しなかったくらいに連日、長蛇の列ができてまして(笑) 何度も整列を呼びかけていたら、最後は声がガラガラになりました。でも嬉しかったですね。

笠井さん:あれは目の当たりにした瞬間でしたね。熱狂的なファンがこんなにいるんだっていう。

富永さん:そうですね。SNS上とは違う、生の声を聞いた気がしました。

――東京コミコンでの長蛇の列、私もよく覚えています。ほかのイベントでもよく見かけますが、あの玉座をどうやって作られたのですか?

富永さん:コミコンにあったら面白いんじゃないかっていう本当に思いつきからのスタートだったのですが、上司のOKをもらえたので、HBOに連絡したんです。とはいえ、作るのがかなり大変だから、既に製作された手頃な大きさのドラゴンとかじゃダメなのかって聞かれましたね。でもどうしても玉座がいいんだと粘ったところ、撮影で使われている玉座を作った業者を紹介してもらえて、同じ型から作ってもらったんです。出来上がったものを大きな木箱に入れて海外から直輸入しました。すごく高価で貴重なもので、あの玉座があるのは世界でも珍しいんですよ。

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――2011年から続いてきたストーリーが完結しました。ついに終わったことについての思いを聞かせてください。

富永さん:悲しいというか、ほろ苦いというか、ついに終わっちゃうんだなという思いはありましたね。10年近く続いたシリーズを支えてくださったお客様、そして最近『ゲーム・オブ・スローンズ』を知ってくださった新たなお客様の方々にも楽しんでもらおうと、『ゲーム・オブ・スローンズ』期間限定バーを企画したり、今後も渋谷のロフトで「ゲーム・オブ・スローンズ展」を実施する予定です。

笠井さん:私もロスは半端ないです。でも「終わりは始まり」じゃないですけど、私が所属しているのは旧作を活性化させるチームなので、最終章を多くの方に見てもらえるように第一章から見てくれる視聴者を増やしていくことが我々の役目になります。この作品はスピンオフが作られたりテーマパークができたりツアー旅行も行われたりと、どんどん広がりを見せて、コンテンツとして生き残っていくと思いますから、来年も支えていきたいですし、後世に残したい名作ですね。日本は『ゲーム・オブ・スローンズ』後進国って言われているんです。これだけ流行っていても、世界中の熱狂に比べたらそこまでではないらしくて。でも見方を変えれば、まだ伸びしろがあるということなので、終わりは始まりという風に捉えたいです。2018年に第一章だけ出した4Kもこれからまた出せますし。

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――8月半ばには製作総指揮を務めたデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイスが来日しましたね。放送終了後はアメリカでもなかなか取材ができなかった彼らをあのタイミングで招けたことはいかがでしたか?

富永さん:まず東京を選んでくれたというのが誇らしかったですね。彼らのインタビューの中にもあったのですが、日本のユーザーに認めてもらえたのは自分たちにとって一つの大きな成果だと言ってくれたのはすごく嬉しかったです。漫画「キングダム」の原(泰久)先生と鼎談させていただいたのも大きくて、イベントが始まる前の舞台裏で3人は初めてお会いになったんですけど、お話が止まらなくて(笑) とにかくデヴィッドとダンの人間力が素晴らしかったんです。質問の一つひとつに丁寧に答えてくれて、イベントの予定が遅れても嫌な顔一つしませんでしたし。私が彼らと接したのは数日だけでしたが、『ゲーム・オブ・スローンズ』以前に製作総指揮としてTVドラマを製作したことがなかったデヴィッドとダンにHBOがこれだけの大作を託した理由が、実際にお会いしてみてよく分かりましたね。

笠井さん:すごく日本オタクでしたね。黒澤映画や小津映画といった日本のコンテンツについて熱く語っていて、ジェイミーの鎧は日本のものに影響を受けているといったことも話していました。あと、手塚治虫展やジブリ美術館に行ったりして。小説や漫画もたくさん読むみたいで、「今、面白い小説ない?」ってよく聞かれました。「キングダム」も日本語だったのに全巻を持ち帰られていましたし。クリエイター同士だからか、原先生ともすごく通じ合っていらして、言葉の壁ってないんだな、と思いましたね。

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――鼎談イベントは私も取材させていただいたのですが、デヴィッドとダンがとても素直に作品を楽しんでいて、『キングダム』の予告編を見ながらデヴィッドがそこで流れている曲を鼻歌で歌ったり、クリエイターならではの視点で原先生に質問しているのが印象的でした。

笠井さん:最後、「今までで一番いいプレスイベントだった」と言ってもらえて本当に良かったです。

――いよいよ最終章、そして全章を収録したコンプリート・シリーズが発売されます。様々な特典が付いていますが、特にオススメのポイントを教えてください。

富永さん:ブルーレイ コンプリート・シリーズと300セット限定生産のブルーレイ コンプリート・コレクションに収録されている特典映像のキャスト座談会ですね。90分以上あって、今まで本シリーズに出たキャストたちが入れ替わり立ち替わり登場して話す形になっていて、あまり詳細は言えないのですが、メインキャストたちはもちろん、懐かしい顔ぶれも登場するんです。みんなが気兼ねなく話していて、裏話もあったりして楽しいですよ。『ゲーム・オブ・スローンズ』を第一章から見てきた方はもちろん、最終章で知ったという方も楽しめる内容になっています。

ブルーレイのコンプリート・シリーズには30時間以上という、あまり例を見ないボリュームの映像特典が収録されていますし、ブルーレイとDVDの両方に日本限定のクリアファイル、ステッカー、名家紹介ガイドも付いています。『ゲーム・オブ・スローンズ』でよくある、これ誰だっけ?というお悩みもこのガイドがあれば大丈夫だと思います。

――『ゲーム・オブ・スローンズ』は終わりましたが、早くもスピンオフ企画が動き出しています。ターガリエン家にまつわる話のシリーズ化も決まりましたが、どんな点に注目されていますか?

笠井さん:スピンオフの情報が日々変わるので私たちにも分からない部分は多いんですけど、既存のファンをがっかりさせるものにはしてほしくないですね。本家とのつながりは興味深いと思うので、ファン目線でもビジネス目線でも、まったくのアナザーストーリーにはしてほしくないです。ただ、すごく期待はしています。

富永さん:『ゲーム・オブ・スローンズ』を今後もフランチャイズ作品として盛り上げていきたいと思いますので、スピンオフが来た暁には『ゲーム・オブ・スローンズ』ファンはもちろん、新しいファンも取り込めるようなものになっていたらいいですね。「堅牢な家(ハードホーム)」「落とし子の戦い」といったエピソードを監督したミゲル・サポチニクがショーランナーとして参加するので、クオリティは担保されていると思います。戦いのシーンとか凄いんじゃないでしょうか。

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――ここからはお二人のお仕事についてもう少し聞かせてください。そもそもワーナー・ブラザースに入社されたきっかけは?

笠井さん:とにかく映画がすごく好きだったんですよね。大学の時に映画製作を手伝ったり、レンタルビデオ店でバイトしたりしていたので、自然とこの道に入りました。

富永さん:私は3年前に入社しました。やはりもともと映画や海外ドラマが好きで、大学でも映画の勉強をしていたのですが、大学の卒論でJ・J・エイブラムスについて書いたことから彼の作品にハマって、アメリカ留学中に彼のもとで働きたくて製作会社Bad Robot Productionsでインターシップの面接を受けたりもしました。その時、彼もオフィスにいて興奮しましたね。会議中だったので話しかけられなかったんですけど、その時のJ・Jに関わる仕事が何かしたいという気持ちが今の仕事に繋がったと思います。今は彼がプロデュースしている海外ドラマ『ウエストワールド』にも関われることができて、実現したいことを言い続けることって大事ですね(笑)

――J・J・エイブラムスが手掛けているものは多いので、いつか来日してくれるかもしれませんね。

富永さん:そうしたら泣いちゃうと思います(笑)

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――お二人がお考えになる、プロモーションのコツみたいなもの、どの作品でも毎回気にするポイントなどはありますか?

笠井さん:ターゲットを明確にする、消費者の目線に立つ、というのは当たり前ですが、さらに我々の場合はどうすればその作品が受け入れられるかを考えることですね。すでに完成した作品を売るために、良さは何なのかを自分の中でよく噛みしめて、ニーズを捉えて宣伝・商品作りをしていくことです。それに加えて必要なのが情熱で、『ゲーム・オブ・スローンズ』の場合は情熱を持っている人が社内に大勢いるので、それが結集していい宣伝ができたんじゃないかと思いますね。自分がその作品の一番のファンになるように意識しています。

ほかに必要なこととしては、マーケティングなのでデータを追うのはもちろん、トレンドも意識しています。あとはAmazonなどのユーザーコメントを読んだりとか。

富永さん:アメリカ現地の情報も日々追うようにしています。誰が出演しているのかとか、現地でどのくらい話題になったかとかいったことがセールスポイントになったりするので。ほかには、他社さんの海外ドラマのサイトなどでどんなキャッチコピーやキーアートを使っているかもよくチェックしますね。

――キーアートもポイントなんですね。

富永さん:セルもそうですけど、レンタルでは特に重要なんです。使用するキーアートは何度も試行錯誤を繰り返して決めていますね。

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――そして『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章のキーアートはこちら(ジョン・スノウが玉座に座っているもの)なんですね。

富永さん:ダンとデヴィッドもお気に入りです。「これすごくいいね。欲しい!」と言われたので、来日後、彼らにポスターを贈りました。元の画像は少し暗かったのですが、時間をかけてデザイナーに明るくしてもらったりして、こだわっています。

――ちなみに、『ゲーム・オブ・スローンズ』最終章の画像では多くのキャラクターが玉座に座っていますが、その中からジョン・スノウを選ばれた理由は?

富永さん:レンタルは5巻分あるので、ジョンは1巻目で、2巻目以降はキャラクターが変わりますけどね。最終章のメインはやはりジョン・スノウかな、というところで、社内で相談した結果、こうなりました。

<『ゲーム・オブ・スローンズ』リレーインタビュー>
「どう終わってほしかったかという考えに捉われてはならない」【1】メイジー・ウィリアムズ(アリア・スターク役)
「サンサやアリアも自分を見つけていったのは素晴らしいこと」【2】メイジー・ウィリアムズ(アリア・スターク役)&ソフィー・ターナー(サンサ・スターク役)
「ジェイミー・ラニスターを演じてみたかった」【3】アイザック・ヘンプステッド・ライト(ブラン・スターク役)
「ティリオン、ジェイミーとのブロマンスは最高だった」【4】ジェローム・フリン(ブロン役)
「原作の精神に最後まで忠実だった」【5】ジョン・ブラッドリー(サムウェル・ターリー役)&ハンナ・マリー(ジリ役)
「ラムジーの死をネタばれされたの」【6】ジョン・ブラッドリー(サムウェル・ターリー役)&ハンナ・マリー(ジリ役)
「最初の読み合わせで二人クビになった!」【7】ニコライ・コスター=ワルドー(ジェイミー・ラニスター役)&グウェンドリン・クリスティー(ブライエニー役)
目がうるうるなのは涙じゃなくアレルギー!?【8】ニコライ・コスター=ワルドー(ジェイミー・ラニスター役)&グウェンドリン・クリスティー(ブライエニー役)
「30年後も僕たちはウェスタロスの話をしているだろう」【9】ジェイコブ・アンダーソン(グレイ・ワーム役)&ジョー・デンプシー(ジェンドリー役)
「素晴らしい悪役が死ぬ度、少しの間、喪失感を味わう」【10】ジェイコブ・アンダーソン(グレイ・ワーム役)&ジョー・デンプシー(ジェンドリー役)
「メリサンドルを定期的に罵ってるよ」【11】リアム・カニンガム(ダヴォス・シーワース役)
玉座に座るべきはブライエニーとトアマンドの子?【12】クリストファー・ヒヴュ(トアマンド役)
「死んだあのキャラが再登場したのは、その俳優に会いたかったから」【13】デヴィッド・ベニオフ&D・B・ワイス(クリエイター)

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■商品情報
・『ゲーム・オブ・スローンズ<第一章~最終章>』
12月4日(水)ブルーレイ&DVD発売
【初回限定生産】ブルーレイ コンプリート・シリーズ...42,727円+税
【初回限定生産】DVDコンプリート・シリーズ...34,545円+税

・『ゲーム・オブ・スローンズ 最終章』
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12月4日(水)ブルーレイ&DVD発売
【初回限定生産】ブルーレイ コンプリート・ボックス...11,818円+税
【初回限定生産】DVDコンプリート・ボックス...10,000円+税

※R-15:本作には、一部に15歳未満の鑑賞には不適切な表現が含まれています。

発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

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Photo:

笠井朝子さんと富永裕未さん
『ゲーム・オブ・スローンズ』×『キングダム』鼎談イベント
『ゲーム・オブ・スローンズ』
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