『ツイン・ピークス』『スタトレ』『ウォーキング・デッド』キャストも…2022年に亡くなったドラマスター【後編】

2022年ももうすぐ終わり。今年も、ドラマ界で活躍した人を中心に、惜しまれながらこの世を去ったスターたちを一部ではあるが、前・後編に分けてあらためて振り返りたい。

ニシェル・ニコルス

『スター・トレック』のウフーラ役で知られるニシェル・ニコルスは、7月に89歳で逝去。1966年にスタートした『スター・トレック/宇宙大作戦』をはじめとした一連の作品にウフーラ役で出演し、アフリカ系アメリカ人女性で初めて主要キャストを演じただけでなく、ウィリアム・シャトナー演じるカーク船長とのキスシーンはTV史におけるアフリカ系アメリカ人と白人による初のキスシーンとして記録されるなど、数々の壁を打ち破った存在だった。その活動はキング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・ジュニアからも評価されていたという。2015年に脳卒中に襲われたニシェルは2018年には認知症と診断されていた。

ルイーズ・フレッチャー

『スター・トレック』つながりでは、ルイーズ・フレッチャーもあの世へと旅立ってしまった。ルイーズといえば1975年の映画『カッコーの巣の上で』で演じた鬼のような看護師ラチェッド役があまりにも強烈だが、実は『スター・トレック/ディープ・スペース・ナイン』にも6シーズンにわたって出演。権力に固執するあまり、司教(ヴェデク)の一人から最高指導者(カイ)へとのし上がるウィンというキャラクターで深い印象を残した。9月に88歳で亡くなった彼女について、『スター・トレック』公式サイトは「彼女の役柄はシリーズフィナーレに向けて盛り上げる上で欠かせない存在であり、ファンが大好きなヴィランになりました。フレッチャーがこの世界にもたらしてくれた貢献は決して忘れません」と綴っている。ルイーズはそのほかにも『シェイムレス 俺たちに恥はない』でフランクの母ペグを演じるなど、キャリア終盤は多くのドラマに参加していた。

ニッキー・エイコックス

『SUPERNATURAL スーパーナチュラル』で悪魔に身体を乗っ取られたメグ・マスターズを演じたことで知られるニッキー・エイコックスは、11月に47歳でこの世を去った。死因は明らかにされていないが、1年以上前にニッキーは白血病と診断されていた。『SUPERNATURAL』のクリエイターだったエリック・クリプキは、訃報を受けて自身のTwitterにメグがろうそくの火を吹き消すGIFを投稿している。

ブラッド・ウィリアム・ヘンケ

『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のシーズン4から同性愛者の刑務官デジ・ピスカテラを演じていたブラッド・ウィリアム・ヘンケは、11月に56歳で逝去。怪我で引退する前はNFL(アメリカンフットボールリーグ)選手だったブラッドは、190cmを超える長身と鍛え上げられた肉体を生かし、『ER 緊急救命室』『デクスター ~警察官は殺人鬼』『LOST』『GRIMM/グリム』『キャッスル ~ミステリー作家は事件がお好き』『MACGYVER/マクガイバー』といった人気ドラマの数々に参加。『フューリー』『ブライト』『パシフィック・リム』といったアクション映画での活躍も光った。

ウィルコ・ジョンソン

『ゲーム・オブ・スローンズ』で首切り人のイリーン・ペインを演じたウィルコ・ジョンソンは、11月に75年の生涯を終えた。全英のアルバムチャートで1位を獲得したこともあるブルース・ロックバンド、ドクター・フィールグッドの元ギタリストとして知られたウィルコは、10年前に末期がんと宣告されていた。『ゲーム・オブ・スローンズ』は最初で最後の俳優活動だったが、舌を切り取られたために口がきけない首切り人を、セリフがないにもかかわらず強烈な存在感で演じた。

タイラー・サンダース

『まほうのレシピ』とスピンオフ『まほうのレシピ~ミステリー・シティ~』にレオ役で出演し、エミー賞にもノミネートされていたタイラー・サンダースは、6月に18歳で早すぎる死を迎えることに。身内によれば彼は鬱病を抱えていたそうで、フェンタニルによる事故死と断定された。2015年に10歳でキャリアをスタートさせたタイラーは、『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』でジェイク・オットーの若かりし頃を演じており、『まほうのレシピ ~ミステリー・シティ~』は初のレギュラー作品。『ザ・ルーキー』や『9-1-1: Lone Star』にも参加していた。

ミッチ・ライアン

コメディドラマ『ふたりは最高! ダーマ&グレッグ』のグレッグのちょっとおとぼけな父親エドワード・モンゴメリー役で知られるミッチ・ライアンは3月、心不全により88歳で死去。50年以上のキャリアで100本を超える作品に出演してきたベテラン俳優であり、映画ファンには『リーサル・ウェポン』のピーター・マカリスター将軍役が印象的かもしれない。

モーゼス・J・モーズリー

『ウォーキング・デッド』では様々なキャラクターが若くしてその生涯を終えることになったが、ミショーンのペットゾンビの一人を演じたモーゼス・J・モーズリーは31歳で死を迎えることに。1月にジョージア州で見つかった彼の遺体には銃創があったという。まだ捜査中なのか、彼がどうして遺体で見つかることになったのかは不明なままだ。モーゼスはドラマ版『ウォッチメン』や『Queen of the South ~女王への階段~』にも出演していた。

ケネス・ウェルシュ

作品関係者が立て続けに亡くなることが最も多かったのは、『ツイン・ピークス』かもしれない。1989年に始まったシリーズなのでその分、関係者が高齢化しているのも仕方ないとはいえ、6人ものキャスト・スタッフが黄泉の国へと旅立ってしまった。

まず5月に訃報が報じられたのは、『ツイン・ピークス』シーズン2にカイル・マクラクラン演じるクーパー捜査官の元相棒、ウィンダム・アール役として出演していたケネス・ウェルシュ(享年80)。カナダ出身のケネスはおよそ60年にわたるキャリアの中で200本以上の作品に出演。『ツイン・ピークス』を機にアメリカでの仕事が増え、『X-ファイル』『LAW & ORDER ロー&オーダー』『ザ・プラクティス/ボストン弁護士ファイル』『ヤング・スーパーマン』『スターゲイト:アトランティス』『スター・トレック:ディスカバリー』などにも出演していた。

ジュリー・クルーズ

続いて6月にはジュリー・クルーズが65年の生涯を終えた。シンガーソングライターのジュリーは1989年のシングル「Falling」のインストゥルメンタル・バージョンが『ツイン・ピークス』のテーマソングとして使われ、本人も歌手役などで劇中に何度も登場。1986年の『ブルーベルベット』の時からジュリーと仕事をしていたデヴィッド・リンチ監督は、「偉大なジュリーが亡くなったと知ってとても悲しい。これを機に、彼女が作った素晴らしい音楽の数々を再び聴き、彼女がいかに優れたミュージシャンだったか、そしていかに素敵な人間だったかに思いを馳せたい」と述べている。

レニー・フォン・ドーレン

7月には、シーズン2と映画版でハロルド・スミスに扮したレニー・フォン・ドーレンが長患い(病名は不明)の末に63歳で死去。1980年代前半から『特捜刑事マイアミ・バイス』などに出演していたレニーは、2000年以降も『CSI:マイアミ』『クリミナル・マインド FBI行動分析課』『宇宙探査艦オーヴィル』などにゲスト出演していた。

デヴィッド・ワーナー

7月にはさらにもう一人、『ツイン・ピークス』シーズン2でトマス・エッカートを演じたデヴィッド・ワーナーも、1年半に及ぶがんとの闘いの末に80歳で永眠。ピーター・オトゥールらと共演した1981年のTV映画『炎の砦マサダ』でエミー賞を受賞しているデヴィッドは、やや強面な見た目を生かして200本以上の作品に出演しているが、映画ファンには『タイタニック』のローズの婚約者の側近ラブジョイ役が特に有名かもしれない。ドラマ経験も豊富で、晩年には『刑事ヴァランダー』で主人公の父親役を演じていた。遺作となった2018年の映画『メリー・ポピンズ リターンズ』で共演したリン=マヌエル・ミランダらがその死を悼んでいる。

アル・ストロベル

そして12月には、“片腕の男”として知られるアル・ストロベルが83歳で逝去。10代の時に交通事故に遭い左腕を失ったアルは、『ツイン・ピークス』シリーズで悪魔を断ち切るために腕を切り落とした“片腕の男”、そして靴のセールスマンであるフィリップ・マイケル・ジェラードという重要な役どころを務めた。ボビー・ブリッグス役のダナ・アッシュブルックは「愛するアル。彼は本当にスウィートな人で、素晴らしいストーリーテラーだった。彼が片手でタバコを巻く姿は、ピュアな魔法のようだった」と、友を惜しんでいる。

アンジェロ・バダラメンティ

アルの死のおよそ10日後には、シリーズの作曲家アンジェロ・バダラメンティが85歳で永遠の眠りについた。バダラメンティは『ツイン・ピークス』のテーマ曲を手掛けてグラミー賞を受賞したほか、同作のサウンドトラック・アルバムは25カ国でゴールドディスクを獲得するなど、シリーズの成功に大きく寄与している。もともとは『ブルーベルベット』で主題歌を歌うイザベラ・ロッセリーニの歌のコーチとして雇われたことでリンチと出会い、『ロスト・ハイウェイ』(1997年)、『ストレイト・ストーリー』(1999年)、『マルホランド・ドライブ』(2001年)などでもタッグを組んだ。

Photo:『ツイン・ピークス』公式Instagramより