米FOXってどんなTV局?TV界に革命を起こし続けるネットワーク・米 FOXの魅力とは?【不定期シリーズ企画 アメリカのTV局に潜入】

アメリカで、ABC、CBS、NBCの歴代「3大ネットワーク」にFOXを加えて「4大ネットワーク」と言う呼び方が一般的になって久しい今日この頃。日本でもFOX系チャンネルが展開され、海外ドラマファンには馴染みのあるネットワークではないでしょうか。しかし、日本のFOXチャンネルと本国アメリカのFOXはやっぱり別もの。そこで今回の「アメリカのTV局に潜入!」シリーズでは、ケヴィン・ベーコン主演ドラマ『ザ・フォロイング』も放送されている米FOXの魅力や歴史をひも解いていきます。

――4大ネットワークと呼ばれるまで

米FOXの歴史を語る上でまず言及すべきは、その名からも想像できるように、世界的にも有名な映画会社の20世紀FOX。当社は、1950年代初頭から映画だけでなくTV番組の制作などを開始し、TV界への進出を狙うようになりました。しかし、なかなかすんなりうまくはいかず、一時はネットワークの立ち上げに参加するも敢えなく撤退。しばらくTV番組のプロデュースのみにとどまっていました。

転機が訪れたのは1985年。メディア王ルパート・マードック率いる巨大メディア企業のニューズ・コーポレーションが20世紀FOXの親会社TFCホールディングスを買収。続けて、ニューズ・コーポレーションがニューヨーク、ワシントン、ロサンゼルスなどの米国主要都市の独立TV局を吸収すると、20世紀FOXは、これまで培ったTV番組製作のノウハウと買収した独立局を通して、3大ネットワークと対等に競えるネットワークを立ち上げることを宣言。翌年の1986年、現在のFox Broadcasting Company(FOX)が誕生しました(ちなみに、現在はニューズ・コーポレーションがエンターテイメント部門を分化して、Fox Entertainment Group傘下の放送局となっています)。

FOXというブランドが世間に定着したのは、1989年に開始して今でも続いている、シニカルな大人向けアニメ『ザ・シンプソンズ』のブレイクによります。現在でも同番組だけでなく『ファミリー・ガイ』『アメリカン・ダッド』『Bob"s Burger』といったアダルトアニメを放送する日曜日のプライムタイムは、FOXが最も視聴率を稼いでいる時間帯となっています。日本で日曜の夜のアニメと言えば家族みんなで観るほのぼのアニメが定番ですが、FOX提供のアダルトアニメは内容がブラックで過激。でも、アニメだからこそ許される表現や辛辣なユーモアが、アメリカ人のツボにはまっているようです。この『ザ・シンプソンズ』を始めとするFOXアダルトアニメ人気は衰えることを知らず、2013年からは土曜日の深夜にもアダルトアニメ枠を設けています。

 

アニメだけでなく、シットコムやジョニー・デップを一躍有名にしたドラマ『21ジャンプストリート』などで着々と知名度を高めていったFOXですが、次に狙ったのは米国で最も視聴率を稼げる番組、アメリカンフットボールの試合中継。90年代に入ると、CBSが持っていたNFLのカンフェレンスのひとつ、NFCの放映権を高額の価格で買い取ります。さらに、親会社のニューズ・コーポレーションが、3大ネットワークと提携していた地方TV局グループを買収してFOX傘下としてその放送域を拡大します。こうして視聴率のとれる番組を充実させ、放送域を拡大したことで、90年代半ばには他の3大ネットワークと共に「4大ネットワーク」と呼ばれるようになり、FOXの最初の目標通りに、3大ネットワークに負けずとも劣らないネットワークへと成長を遂げたのでした。

 

――型破りで斬新なドラマを提供

FOXが本格的にドラマで力量を発揮するのは90年代に入ってからのこと。日本で「海外ドラマ」というカテゴリーを一般化したとも言える青春ドラマ『ビバリーヒルズ高校白書/青春白書』に始まり、「ビバヒル」のスピンオフのソープオペラ的ドラマ『メルローズ・プレイス』も人気を得ます。ビバヒルは、裕福な若者たちの生活を描く青春物語にとどまらず、ドラッグやアルコール、差別、銃問題などのごく一般のアメリカ社会に暮らす若者たちが共通して抱える問題をも取り上げ、ただ美しいだけの青春物語にとどまらずにダークでリアルな面も描いたことが、一般視聴者の共感を呼んで大ヒットにつながりました。日本では、吹き替え声優の言い回しが特徴的だったのも話題に。またSF作品『X-ファイル』は、FOXの番組で初めてニールセンランキングのトップ20に入り、この頃からTVネットワークとしてのFOXの作品が米国だけでなく世界にも浸透していきました。

90年代後半から放送された法律コメディドラマ『アリー・myラブ』は、法律事務所が舞台なのに恋愛がテーマだったり、登場人物の激しい妄想を使った珍しい演出やシュールなギャグ、ミュージカルのように音楽を活用するなど、型破りな面が多いチャレンジングな米FOXらしい作品です。また、1998年から2006年まで続いたロングランのシットコムで、俳優アシュトン・カッチャーの出世作でもある『ザット"70sショー』もFOXの代表作のひとつ。70年代を舞台に、当時の経済状況や政治、フェミニズムやセクシズム、など複雑なトピックをドタバタコメディで笑いに変えながら表現しているところが視聴者に受けたようです。

2000年以降は、ビバヒルを彷彿させたティーン向けドラマ『The O.C.』や、ハチャメチャながらもどこか人間臭い天才医者が難病を解決する『Dr. HOUSE -ドクター・ハウスー』、24時間に起きる出来事がリアルタイムで展開し、1話1時間、1シーズン24回で放映するという新コンセプトのアクションサスペンスドラマ『24 -TWENTY FOUR-』が話題となりました。これらドラマが放映されていた2004−2005年は、米FOX史上初めて、18才から49才の視聴者層の視聴率第一位に到達することになりました。まさにFOXの黄金期と呼べる時代です。

 

最近では、昨年惜しまれつつ終了したSFサスペンス『FRINGE/フリンジ』や、日本でも大ブームとなったミュージカルドラマ『Glee/グリー』も、高視聴率を誇った番組。コアなファンが多かった『FRINGE』に対して、『Glee』は21世紀ミュージカルTVドラマの先駆けとして幅広い層から莫大な支持を獲得しました。ジュリア・ロバーツジェニファー・ロペスなどのセレブも『Glee』ファンとして有名です。残念ながら『Glee』は、時の流れと共に免れることのできない視聴率の減少と、主演の一人コーリー・モンテースの急逝の影響もあり、2014年のシーズン6を最後に打ち切りになることが決定しています。

 

2012年以降、新番組の不作続きだと言われていましたが、昨秋、シーズン1が放送されたミステリードラマ『スリーピー・ホロウ』は、FOX史上最高の初回視聴率を記録して大好調。今後も人気は続きそうです。続く2013年1月にシーズン1が始まった、FBIエージェントと連続殺人犯+殺人犯を崇拝するカルト集団との追走劇『ザ・フォロイング』は、映画俳優ケヴィン・ベーコンがTVドラマシリーズ初主演ということもあって放映前から期待されたドラマ。ケヴィン・ベーコンの演技やその作り込んだサスペンスストーリーはもちろん、暴力シーンや犯行の演出がかなりショッキングだったことでもさらに注目を浴びました。今春からはシーズン2も始まり、ますますハラハラドキドキ度と過激度を増していくのか気になります。さらに、シーズン8まで続くという息の長い作品となった『24 -TWENTY FOUR-』の続編『24: Live Another Day』も近日公開で、話題には事欠きません。

 

このようにFOXが今まで放送してきた代表的作品をざっと挙げてみると、斬新な手法やストーリー展開を用いた、まさにこれまでの常識を超えたインパクトの強い作品ばかりであることがわかります。そのため、過激なシーンやスキャンダラスな演出に厳しい批判を受けることも多々ありますが、常に新しいものや刺激を求める好奇心旺盛な視聴者に支持されている革新的なネットワークです。

――リアリティショーのパイオニア

放送コードギリギリの過激な番組作りが得意なFOXは、もちろんリアリティショーも得意としています。『全米警察24時 コップス』は1989年から2013年まで米FOXで放送された警察ドキュメンタリー/リアリティショーは、警察官の活動を追跡する、一切の演出やナレーションなしのドキュメンタリーですが、実際の出来事を覗き見しているような気分にさせるリアリティショーの先駆け。様々な国で放映され、世界的にも有名なリアリティ番組のひとつです。

 

21世紀を迎えると、視聴者参加型のリアリティーショーがブームとなりました。まずは『ジョー・ミリオネア』や『誘惑のアイランド』などの恋愛リアリティ番組が登場。その低俗さ、過剰な演出や出演者の品性に欠けた行為に苦情が殺到したにも関わらず、挑発的なコンセプトを視聴者が面白がり、一時的に大ブレイクしました。

2002年には、英国の『ポップアイドル』を基にしたアイドルオーディション番組『アメリカンアイドル』が始まります。視聴者も審査員として参加できることから瞬く間に全米が夢中になり、2003年〜2011年の間の米国TV番組視聴率ナンバー1となりました。この番組から生まれた「アイドル」も次々とスターとなり、歌手を目指すアメリカ人の登竜門的な番組です。もうひとつのオーディション番組『Xファクター』や、有名シェフゴードン・ラムゼイが出演するクッキングリアリティショー『Kitchen Nightmares』『マスターシェフ』『ヘルズ・キッチン』の人気も定着しています。

従来のやり方に追従することなく、常に新しいもの作りを追求するFOX。創設から順調にクオリティの高い作品を増やし、提携ステーションを増やし、視聴者を増やし、スポンサーを増やしと、3大ネットワークを越える勢いを見せて、2004年から2012年までは18才〜49才の視聴者層の視聴率トップとなり、2007ー2008年シーズンは全米で最も視聴率の高いネットワークの座まで登りつめました。しかし、人気にはいつか陰りがくるもので、2012−2013年シーズンの視聴率は一気に第3位にまで転落。流行り廃りの早いTV界でトップに居続けるのは難しいようです。

ただ、FOXなら、リスクをものともしないチャレンジ精神で、またまた世間をあっと言わせるような新しい試みで挽回できる予感がします。アメリカのネットワークは、パイロット・シーズンという一定の期間で、数あるパイロット版から一握りの作品のみをシリーズとして起用すという方法をとっていますが、先日、FOXは、このシステムを古い「非効率的な」ものとして今後はパイロットシーズンを設けないとし、これからはシリーズ化を前提として効率よくパイロット版を製作していくことを発表しました。このように時代の先を読み、TV界に革命を起こし続けるFOX。これからも視聴者を驚かせるような作品をどんどん提供してくれることを期待したいです。

<Photo>
『ザ・シンプソンズ』
(c)2010-2011 Fox and its related entities. All rights reserved.
『24 -TWENTY FOUR-』
(c)2010 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『Glee』
(c)2013-2014 Fox and its related entities. All rights reserved
『全米警察24時 コップス』
(c)2010-2011 Langley Productions, Inc. All rights reserved.
『アメリカンアイドル』
(c)George