
名作ドラマ『ブレイキング・バッド』のクリエイター、ヴィンス・ギリガンが今後描くキャラクターについて方向性を変えるかもしれない。米Varietyが伝えている。
悪役が本来の役割を失い、憧れの対象に
生真面目な高校の化学教師ウォルター・ホワイトが、病気で余命わずかと診断されたことから、残される家族のためにドラッグ作りに着手、裏社会でのし上がっていく姿を描いた『ブレイキング・バッド』で歴史に残るアイコニックなアンチヒーローを誕生させたギリガン。しかし世界情勢が変わった今、再び善人が輝くためにスポットライトを当てるべき時が来たと感じているようだ。
2月15日(土)に開催された全米脚本家組合賞(WGA賞)の授賞式で、TVにおける文学を発展させ、TV脚本家という職業に多大な貢献をした人物を称える賞であるパディ・チャイエフスキー・ローレル賞のTV脚本功績賞を贈られたギリガン。そのスピーチで「次世代のヒットドラマが、もう少し理想的な世界に戻り、ヒーローが善人であるような作品になることを心から願っている」と述べた。
「ウォルター・ホワイトは史上最高のバッドガイの一人。でも正直なところ、もう少しインスピレーションを与えるようなキャラクターを生み出したことで評価されたいと思う。2025年の今こそ、声を大にして言うべきだ。だって現実世界では悪党たちが好き勝手に暴れ回っているような時代に生きているんだから。彼らは自分が好きなようにルールを作って、どんなことを言おうとも結局は自分たちのことしか考えていない。誰のことを言っているか? ここはハリウッドだから察して」
ギリガンはポップカルチャーにおける悪役が魅力的になりすぎてしまったことを認めており、誤ったメッセージが伝えられてしまったかもしれないと考えている。「マイケル・コルレオーネやハンニバル・レクター、ダース・ベイダーやトニー・ソプラノといった素晴らしいキャラクターが生み出されると、世界中のみんなが釘付けになって“めちゃくちゃかっこいい。あんな風にクールになりたい”って思い始めてしまう。そうなると、悪役は本来の“警告”としての役割を失ってしまうんだ。神よ、お助けください。彼らは憧れの存在になってしまった。だからこそ今の世界には昔ながらの“偉大な世代”のような、与えることを優先し、親切や寛容さ、自己犠牲の精神をただのお人好しのものだとは思わないヒーローが必要なのかもしれない」と、『ゴッドファーザー』『羊たちの沈黙』『スター・ウォーズ』『ザ・ソプラノズ/哀愁のマフィア』のバッドガイズを引き合いに出しつつ、今後求められるキャラクター像について自身の見解を明かした。
「私は政治的な発言はしない。こういう場で一度もやったことはなかった」とVarietyに述べたギリガン。そんな彼は家族から「政治的な話をするな」と言われていたにもかかわらず、今回スピーチで立場を表明することに決めたそう。国で起こっていること、そしてそれがあまりにも速く進行していることを目の当たりにして、どうしても声を上げずにはいられなかったのだとか。
「もう一度、ヒーローや善良な人々を称えるべきだという考えを話さなければならなかった。年を重ねるごとに、私たちはますます多くの番組や映画、小説などを通して様々な物語に触れ、どこかでその本質が見失われてしまった。悪党はもっと警告的な存在であるべきなのに、憧れの対象になってしまっているように感じる。もし悪党が多すぎる物語があれば、私たちは誰を応援すべきなのか? 脚本家、俳優、物語を紡ぐ者、アーティストには、この世界をこうあるべきだ、またはそうできるかもしれないと見せる力があると思う。どんな世界に住みたいか。死を意識するようになって、ウォルター・ホワイトに誇りを感じる一方で、自分の墓石に最初に刻んでほしいのはそれなのかを疑問に感じるようになった」とギリガンは締めくくった。
ギリガンの代表作である『ブレイキング・バッド』と『ベター・コール・ソウル』の全シーズン、『エルカミーノ:ブレイキング・バッド THE MOVIE』はNetflixにて配信中。(海外ドラマNAVI)
参考元:米Variety
Photo:『ブレイキング・バッド』©2008-2013 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.