ミッシェル・クルジック『TOUCH/タッチ』独占インタビュー(後編)

ミッシェル・クルジック2000年代に入って、僕がアメリカの業界に拠点を移す以前から、実は注目していたアジア系女優がいる。

舞台での演技に目を見張ったその女優は、めきめきと頭角を現し、映画『べガスの恋に勝つルール』や人気ドラマ『コールドケース』『グレイズ・アナトミー』『ダーティー・セクシー・マネー』『CSI:マイアミ』『フリンジ』と、次々とヒット作品に名を連ねてきた。

その女優が、ミッシェル・クルジックだ。
彼女はアメリカの映画、TVドラマ、そして演劇界でも、高い評価を受け、そして新たなアジア系スター女優への可能性をも秘めている、最もHOTな才能の一人なのだ。

そしてミッシェルは、まもなく日本でも放送の話題作『TOUCH/タッチ』の第1シーズン、第6話に、堂々のゲストスターとして登場する。

その放送に先駆けて、彼女に、今回はインタビューを試みた。

インタビュー前編はこちらからご覧ください

尾崎:『TOUCH/タッチ』について聞かせて下さい。この作品は、今年日本でも大きな話題作になるはずですから。

ミッシェル:あなたは、アメリカで見ているの?

尾崎:はい、放送済みのエピソードは全てね! 『TOUCH/タッチ』のシリーズの中でも、あなたの出演回は大好きでした。

ミッシェル:ありがとう。

尾崎:一番心に響くエピソードの一つだったよね。

ミッシェル:Oh、ありがとう!! でも、すべてのエピソードが感動的よね。

尾崎:あの回の撮影はどこで行ったんですか?

ミッシェル:ロサンゼルスよ 。

尾崎:撮影はロケですか? それとも、セット?

ミッシェル:スタジオで撮影。FOXだったかな...。

尾崎:中国系アメリカ人の役ですよね? これから見るファンの皆さんのために、ネタバレはできませんけど。

20121003_c06.jpgミッシェル:そう、アジア人の物語ね。私は強い女性のイメージがあってこの役が回ってきたんだと思うわ。

尾崎:オーディションでこの役を得たのですか?

ミッシェル:そうです。

尾崎:じゃあ、競争相手がいて、この役を勝ち取ったんですね。何次テストまであったんですか?

ミッシェル:1回だけ。

尾崎:1回だけ、プロデューサーたちと監督とですか?

ミッシェル:そうね。

尾崎:その際には、ティム・クリング(『TOUCH/タッチ』のトップクリエーター)には会いました?

ミッシェル:いいえ、彼には会える機会がなかったのよ、結局。私が会ったのは脚本家、プロデューサー、監督です。ティム、大好きだけどね。彼、もの凄い才能の持ち主よね。

尾崎:ミッシェルも舞台『Made in Taiwan』の脚本とかを自分で描きますよね。映画化の場合も自分で書くの?

ミッシェル:ええ、自分でオリジナルの脚本は書いたわ。

尾崎:女優として、そして脚本家として、ティムの執筆力をどう思いますか? そしてこのTVドラマ『TOUCH/タッチ』をどんな印象で捉えていますか?

ミッシェル:彼は非常に高いレベルの難しさに挑んでいるわよね。あのドラマはとても心情的です。しかし、心情を表現し、なおかつ効果的な作品を、どうやって書いたらいいのかは、普通は誰にもわからない。なぜなら、脚本次第ではメロドラマになってしまうでしょ。この作品は、俳優がとてもリアルに演出されていることと、物語はファンタスティックな書き方がされていて、そのバランスの取り方と、そういう類のストーリーテリングの手法を彼は掴んでいるんだと思うの。私、最初は主要キャストのオーディションを受けたの。だからその時に脚本のシノプシスを読むことができたんだけど、これはとても巧みに書かれた本だなって思ったと同時に、メロドラマにもなり得るって思った。でもティムだからこその作風で書かれているし、彼自身の素晴らしいテイストで、人間ドラマと偉大な自然の仕組みを、私たちが信じられるように描いている。他の脚本家だったら上手くはいかないわ。それに、このドラマの雰囲気から、フィーリングを感じ取ることが出来るのよね。いい作品だと伝わって来る。そういう作品と出会うのって難しいわ。すべてが刑事モノで殺し合っ たり、コメディで非現実的だったら大変。このドラマは見て、感じて、泣けて、とてもいい作品よね!
ミッシェル・クルジック

尾崎:ティムとは、パイロット版(第1話)の撮影の際にお会いして、彼の現場で数シーンだけ演じることができたんですけど...。

ミッシェル:エピソード、見たわ!

尾崎:彼はとても穏やかで、優しく紳士的でした。脚本の細やかで複雑な構築や表現力は本当に驚異的ですよね。

ミッシェル:それに革新的よね。『HEROES/ヒーローズ』を見てみても、非常に興味深いキャストよ。そして今回の『TOUCH/タッチ』のキャストもそう。とても惹かれるアンサンブルだわ。彼は世界を視野に入れて物事を考え、アメリカ人だけが観たい作品ではなく、世界的に興味を抱かれるような物語を描いているのよね。将来的にも、こういう世界規模に根ざしたストーリーテリングが求められるでしょうね。

尾崎:国際的かどうかという視点で見る時、僕はあなたがこの作品に出ているのを見た時はとても嬉しかったです。役どころについては秘密にしておきますけどね。

ミッシェル:それはよかったわ、そうでないと私が困っちゃう。某ドラマシリーズでは、すべてが徹底した秘密主義で私がTwitterで何かを言おうもんなら、大事だったわ(笑)。

尾崎:もうこのドラマは世界中で放送済みだけどね。あなたの出演作がすでに100か国以上で、ほぼ同時に放送され、観られていることについてはどう感じていますか?

ミッシェル:そうよね、言ってくれてありがとう。言われて実感したわ(笑)。国際的にHOTな作品ね!  凄いわ。

尾崎:特別なことだよね。多くの人があなたのエピソードをすでに目にしている。何か月も後まで、あなたの演技を見るのを待ちわびなくていいんです。

ミッシェル:素敵なことよね。金馬奨(ゴールデン・ホース映画祭)ノミネートの時の気持ちを聞かれた時にも言ったけど、ロサンゼルスに住んでいると、ハリウッドが俳優にとって唯一の仕事場みたいに考えが狭くなりがちだけど、でも違うわよね。もっと活躍の場があるわ。観客が増えているから。たとえば中国では今、数多くの劇場が建設されてオープンするわ。市場が国際的なって観客が増え、ハリウッドはそれを追いかけて行くわ。

尾崎:これから『TOUCH/タッチ』を見るであろう、日本のファンに伝えたいことはある?

ミッシェル:『TOUCH/タッチ』には、思うんだけど、信じることの力、様々なことを誓う力が描かれていて、最初は不可能に思えることでも、私は、みんなが「そうなるかもしれない」って追い求めて、思い続けて生きることが出来れば、それは人生をもっと美しいものにしてくれるし、もっと面白いものになると思う。

尾崎:同感です。すべてのことが関係しているし、どこかで巡り会えることってあるしね。

ミッシェル:「誓い」には力が宿っていると思うの。
尾崎英二郎
尾崎:最後にもう一つ、「俳優」というテーマで質問させて下さい。アジア系のアメリカンの俳優や僕ら日本人の俳優にとって、ハリウッドの業界に参入するということは容易ではありませんよね。キャスティングプロセスや、オーディションに際して、ミッシェルは何を一番心掛けていますか?

ミッシェル: まず 、一番最初に俳優 が知っていなければならないことは、「なぜ俳優でいるのか?俳優として何を言いたいのか?」それはどんなアーティストも同じだと思う。「あなたの声」は何なのか。脚本家として、俳優として、画家として、ダンサーとして。何を世界に生み出し、提示したいのか?そのことを自分自身が知ることが大切。2つ目は、このビジネスに参入していくなら、本当に深くクラフト(演技、技術)を学ばなければならない。たとえば、ある監督と仕事をしたいのであれば、その監督の作品群を見ること。ある俳優と働きたい場合も同じ。他の分野の学問と同じように、真剣に勉強をしないとダメなの。そこを育み、成長しない限り、何も起こらないのよ。多くの俳優は、オーディションで拒絶されたから、自分には機会が与えられないから、自分が表現する場が無いんだって思いがちになる。アーティストとして、そういう時にはとても傷つくわよね。だから、学んで、備えなければいけないの。

ミッシェル・クルジック他に私が言えることは、俳優がオーディションの部屋に入って行く時ね、審査する側の人たちは、あなたに対して「上手くいって欲しい」と思っているだけなのよ。彼らが、あなたに会うためにその場に来ているの。だから、その部屋に入ったら、「この瞬間は自分のもの」って感じるべき。「自分のステージに上がるんだ」ってね。そして、自分自身に対して、審査する人たちに対して、思いきってリスクをとって挑戦すること。失敗は時に、味方になることがあるし、間違いを犯すことが、道を開いてくれることだってあるんです 。私だって過ちが怖かったし、失敗して崩れるのは避けたいって、いつも感じていました。でも今、私にとっての女優という仕事は、昔より面白くなってきているの。なぜなら、若い時って、ただ「上手く、正しくやりたい」って思うだけでしょ。それがもっと成熟して、年齢や経験を重ねて、自分自身からもっと何かを生み出せるって感じるようになったの。

尾崎:昔の自分と比べ、今は不安は減りましたか?

ミッシェル:いいえ、不安は増しているんじゃないかって思う。若い時って、そんなに物事を恐れてないわよね。でも、今はその恐れを理解できているからこそ、もっとハードに思いきって飛び込むことが出来るのよ。若い時にはもがいて空回りするだけ。今は、不 安自 体は大きくはなるけど、仕事を経験した結果として、学んで、その不安をむしろ生かす術を知ったんだと思うの。時には「恐れ」って「強さ」になるのよね。

尾崎:確かに、その通り。

ミッシェル:恐れる気持ちって、エネルギーだから。そのエネルギーの使い方さえ知っていれば、実はもっと面白くできるんです。若い時って、あまり考えずにオーディションの部屋に入っていって、サッと演じちゃって、ある意味、安全なのよね。でしょ?

尾崎:うん、非常によくわかる。

もう一つだけ。アジア系アメリカ人女優として、どのようにこの業界での挑戦に向き合っていますか?アジア人の役柄は変化してきているでしょうか?改善されてきてますか?チャンスは増えていると思いますか。

ミッシェル:必ず問われる部分よね。私たちは業界のメインストリームでは、なかなか多くの目に触れないから。状況はよくなってきていると思う。アジア人にも過去に比べたら、多くの機会があると思います。観客が国際的になる中、物語もそれに合わせ、広がりを見せないといけない。その変化は素晴らしいと思います。していると思います。役の数そのものは、まだまだ足りていないと思うけど、それは決してアジア人が認められていないということではなくて、物語の書き手がもっと多くの人種や世界に踏み込まなきゃいけないんだと思う。そして、もし演じたい役があっても、それが手に出来ない、ならば、自分でそういう役を生み出す必要もあります。今では多くの俳優が自分のオリジナルの物語を書き、プロデュースしているし、情熱がそこにあって、実際いい作品があるのよ。彼らも「声」を上げてメッセージを伝え、自分の存在を皆の目に触れさせようという、同じ闘いに挑んでるんです。創作する、開発するって、凄くいいことなんだと思う。
20121003_c05.jpg
======
ミッシェル・クルージックは、映画やテレビドラマに度々登場する一方で、自分で脚本を書きながら、一人芝居などでNYの舞台にも立って来た。
その彼女だからこそ、ここまで確立された考え方を言いよどむこともなく、質問と同時に次々と答えていけるのだと思う。彼女の知性と、強さは、彼女が演じる役柄にやはりよく映し出されている。それが笑いを誘う役であろうと、涙を誘う役であろうと。
彼女が登場する『TOUCH/タッチ』シーズン1のエピソードは、予想もつかない展開に心を打たれるが、ここでもまた彼女の真剣で温かな人柄が、存分に活かされている。

是非、期待して欲しい。

きっと日本でも、彼女の新たなファンが多く生まれるに違いない。