今、巷では映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(Captain America: Civil War)』の予告編や最新情報が次々と公開され、期待度が膨らんでいます。米国でのプレミア上映も終わり、批評家たちのレビューも解禁され、その評判もうなぎ上りです。
"Civil War"という名称は、「内戦」を意味します。通常、米国で The Civil War と言えば、1800年代に起きた南北戦争のことを指します。そう、あのリンカーン大統領の時代です。奴隷制存続をめぐってアメリカを二分し、米国内の歴史上、初めて近代的な機械や兵器を主要戦力として用いた戦いです。
マーベルの「シビル・ウォー(Civil War)」は、現代劇です。大人から子供まで、誰でも知っている "Civil War"という言葉を、コミックの世界に取り入れたことがまず画期的であり、アクションと政治劇とを織り交ぜたこの一大イベントは、ファンたちの間でも非常に重要な位置づけになっているのです。
まるで南北戦争のように、マーベルの原作コミック「Civil War」の中でも、地球上の数多くのスーパーヒーローたちが「administration, registration :(行政の)管理、登録」と「freedom: 自由」の狭間で揺れ、世界が分裂します。そして友情にも裂け目が...。
さて、映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は、『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー(The First Avenger)』と『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー (The Winter Soldier)』に継ぐシリーズ第3作目ですが、MCUの全体像の中でも、『アベンジャーズ』とその続編『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン(Age of Ultron)』にもほぼ直結するストーリーラインとなっています。
ですから、タイトル・ロールのキャプテン・アメリカ(クリス・エヴァンス)だけでなく、アイアンマン(ロバート・ダウニーJr.)、ブラック・ウィドウ(スカーレット・ジョハンソン)、ホークアイ(ジェレミー・レナー)ら、『エイジ・オブ・ウルトロン』までに登場したおなじみのキャストの面々がほとんど一堂に会します。もちろん、セバスチャン・スタン(ウィンター・ソルジャー)、さらにポール・ラッド(アントマン)も!!
ところが、これらアベンジャーズとその周辺のキャラクターの中でも、かなり主要なメンバー二名が『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』には登場しません。
その二人とは...
マイティ・ソー Mighty Thor こと、アスガルド王国の雷神ソーと、怒りとともに緑色の巨体に変貌する超人ハルク Hulk です。
ハルク(マーク・ラファロ)は、『エイジ・オブ・ウルトロン』の終盤で行方不明になっているので仕方がありません。
しかし、ソーは!? ソーには地球上にジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)という astronomer:天文学者・天体観測者の恋人がいるので、人間界の危機を放ってはおけないはずなのです。
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目次
ラグナロクが来てしまった
では、なぜ「シビル・ウォー」の戦いの場に彼は居ないのか?
シビル・ウォーでスーパーヒーローたちが分裂し、地球の安全が脅かされている間に、ソーの故郷である神々の国アスガルドは、滅亡の危機に晒されているのです。
Ragnarok has come.
ラグナロクが来てしまった。
(※ ラグナロク:「運命の日/審判の日/最終戦争」と捉えられている伝説的な大事変のこと)
これは、小説版のマーベル『シビル・ウォー』の序盤に、アイアンマン/トニー・スタークがアスガルドの使者から聞かされる言葉です。ちなみに、原作であるコミックもそれに基づく小説も、映画版ではその内容がかなり脚色されているようです。登場するキャラクターたちの顔ぶれも大幅に異なります。但し、原作も映画も、対立軸や時間軸などの大切な部分は変わってはいないはず。
映画『マイティ・ソー/ラグナロク Thor: Ragnarok』(マーベル・シネマティック・ユニバース MCU 第17作目の予定)と、まもなく世界公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(Captain America: Civil War)』(MCU第13作目)は、時系列的に、ほぼ同時期に起こっているのです。
小説の中で、アスガルドの使者はさらに告げます。
From this day, there will be no further contact between Midgard and Asgard.
今日より、ミッドガルド(地球)とアスガルド王国の間は、これ以上のつながりを失う。
The age of gods is done.
神々の時代は終わったのだ。
いったい何がソーたちの身に起こっているのか!?
さぁ、ここまで書くと、映画版『シビル・ウォー』までにマーベル世界をなんとか知っておきたいと思っている読者(新たなマーベルファン)の皆さんも、
「神々:gods」... 「アスガルド:Asgard」...「ラグナロク:Ragnarok」...
わけわからん?????
となると思いますが、アベンジャーズの一員であるソーのことを少し理解しておきたい方は、このコラムの第5回(雷神ソーと、彼の武器のハンマーについての解説)も是非お読みになって下さいね!
ソーの弟ロキ
ソーには、弟が居ます。その名はロキ。"アスガルドのトリックスター"(trickster: 詐欺師、悪戯者)と呼ばれており、一筋縄ではいかない男です。
演じるのはトム・ヒドルストン
映画ではソー(クリス・へムズワース)の弟ロキを英国俳優トム・ヒドルストン(映画『クリムゾン・ピーク』や最新海外ドラマ『The Night Manager』でも注目!)が演じています。
映画『マイティ・ソー』(MCU第4作目)でこのユニバースに初登場したロキは、『アベンジャーズ』(第6作目)で再登場。この中で、ロキは異星人兵チタウリ(Chitauri)たちの艦隊と手を組み、地球の征服を試みます。この兄弟二人の背景とそれぞれの性格を知らずして、映画『アベンジャーズ』で起きたNY決戦の意味を知ることはできません。
兄は人類の味方、弟は地球の敵...
国や世界の治安を守るアイアンマンやキャプテン・アメリカ、他のアベンジャーたち、そして国際平和維持組織 S.H.I.E.L.D. の力を集結させても、危うく敗れ去るギリギリまで追い込まれてしまったのが、地球が初めて別次元(異星)世界からの襲撃に晒されたNYの戦いでした。
そのNYでの戦いの凄まじさがアイアンマン/トニー・スタークらの心情に及ぼした影響を知れば、『エイジ・オブ・ウルトロン』と、さらには最新作『シビル・ウォー』へと続くヒーロー同士の"衝突"と"友情の分断"への流れをより深く理解できるのです。
アスガルドの王国の未来を担う一人であるはずのロキ。その彼がなぜ、地球の制覇などを目論み、アベンジャーたちと戦うことになったのか?
実は、彼はソーの義弟、血のつながりがありません。
『マイティ・ソー』の中に、ソー、ソーの父オーディン、母、ロキ、そして彼らの仲間の関係と 感情が手に取るように分かる名シーンがいくつかあります。
アスガルドの王位継承式のシーンが、この壮大な兄弟の物語の発端です。
アスガルドの王オーディン(アンソニー・ホプキンス)、王妃フリッガ(レネ・ルッソ)、弟のロキ、幼なじみのシフ(海外ドラマ『ブラインドスポット タトゥーの女』でも人気のジェイミー・アレクサンダー)やホーガン(浅野忠信)ら、そして臣下の者たちが見守る中、ソーが意気揚々と笑顔をたたえて儀式の場に現れます。
王の座を継ぐ者のシンボルでもあるハンマー:Mjolnir/ミョルニア(日本ではムジョル二アの表記が一般的)を軽々と片手で放り投げ回転させながら歩いてきます。シフは呆れ顔。ソーは、母である王妃にウインクします。ホーガンら仲間たちは顔を微妙にしかめています。
この時の、父である王(ホプキンス!!)の目の演技に、是非ご注目下さい!
一言も発さずとも、表情を一切動かさずとも、感じていることが判り、観ている観客の心が凍り付く瞬間です。こういう名優の演技があればこそ、"神話" ベースのヒーローの設定に説得力が生まれているのです。
同時に、有頂天になっているソーとしてのクリス・へムズワースの演技も秀逸です。迷いがなく、楽観的。悪く言えば、場の空気を読んでいないのですが、その満面の笑みはなぜか憎めず、多くの愛を注がれて育った感じが伝わるのです。
Bang!!!
ここで王オーディンがその手に持っている槍の柄で、床を叩きます。
儀式の場は一瞬にして静まりかえります。
そして王がソーに向けて語り始めます...
オーディン:Thor Odinson, my heir, my first born.
my heir とは、我が継承者・後継ぎ。my first born は、先に生まれた我が子(長男)。
この「my heir」という言葉を父が口にした瞬間のロキの顔、トム・ヒドルストンの演技も素晴らしいのです。こういうリアクションのショットは一瞬。ロキは何も言えません。しかし、やはり感情が見事に伝わります。
王オーディンはさらに語ります、
オーディン:I have defended Asgard and the lives of the innocent across the Nine Realms from the time of the great beginning.
私は太古の時代から、アスガルドと9つの世界に住む者たちの命を守り続けてきた。Though the day has come...
しかし、この(王位を継承する)日が来たのだ...
the Nine Realms とは、アスガルドやミッドガルド(地球)を含む9つの宇宙の領域・世界のことで、
from the time of the great beginning とは西暦900年代の昔からの歴史です。
ところが、まだまだ神格者として未熟であった長男ソーは、この重要な王位継承の時期に、とりかえしのつかないミスを犯してしまうのです。
王位継承 儀式の最中に、かつてからの敵であるフロスト・ジャイアント:Frost Giants(別のRealms である Jotunheim ヨトゥンヘイムに住む氷の巨人たち)が、オーディンの宝物殿に侵入。
儀式を邪魔され中断を余儀なくされたソーは、王オーディンの許しも得ず、ロキ、シフ、ホーガンらを従えて、ヨトゥンヘイムに攻め込んでしまいます。
気の荒い性分が欠点であるソー。
彼と仲間たちは、ヨトゥンヘイムの地に飛び込み、氷の巨人の王ラウフェイとその配下の大群に囲まれ、初めて身の危険を察知します。
ロキはこの時、ソーを止めようと囁きます。
ロキ:Thor, stop and think.
ソー、思いとどまれ。
Look around you, we"re outnumbered.
周りを見てみろ、数的に敵わない。
場をわきまえろ、兄弟。
ラウフェイは、地に響くような低い声で威嚇します。
貴様の行動が、どんな事態を招くかわかるまい。わしはわかる。
(※"You know not ~" は古文的な言い回し。古典演劇などでも多用されている。この映画の監督ケネス・ブラナーはシェイクスピア劇の名優でもある)
直ちに去れ、許されるうちにな。
ロキはラウフェイの言葉に応じようとします。
寛大なる申し出に従います。
Come on, Brother.
行こう、兄弟。
ソーはロキに促され、悔しさを噛み締めながら立ち去ろうとします。しかし、その時...
足早に帰るがいい、お姫様よ。
くそ。(「あっ、言ってしまった...」という気まずさ)
アスガルドの王位継承者に放った「little princess」という言葉が、ソーの堪忍袋をキレさせます。
瞬間に我を忘れたソーは、その手に持つハンマー:Mjolnir に怒りを込め、全力でラウフェイめがけて振り抜きます!!!!!
ソーの向こう見ずな性格が一発で分かる「一振り」を、どうか映画『マイティ・ソー』で観て下さいね♪
この「一振り」が、アスガルドの戦士たちとヨトゥンヘイムの巨人たちを、一気に戦闘状態へと陥れます。
長年の間、守られてきた和平の均衡が、ソーの強引なリーダーシップによって一瞬にして破れ、両王国はまたもや戦争の危機に至りました。
このことに激高したオーディンは、その愛情故に、厳しい罰としてソーから能力を奪い、アスガルド: Asgard の王国から別の世界・次元である Midgard:地球・人間界へと追放してしまうのです。(このコラムの第5回を参照!)
兄が追放された今、王位は、どうなる?義弟ロキが継承できるのでしょうか...?
ロキの苦悩
氷の巨人たちが侵入した「オーディンの宝物殿」:Odin"s treasure room または Odin"s weapon"s vault (treasure は宝。vault は貯蔵室、金庫)に、ある時、ロキは立ち入ります。
"モノ"に触れた瞬間...
ロキを諭すオーディン。
驚くべきことがロキの身に起こります。
何が起きているのか理解できないロキ...
僕は呪われているの?
いいや。
僕は、何なんだ?
お前はわしの子だ。
それだけではないよね?(もっと何かあるのでは?)
ロキはここから激しくオーディンに詰め寄ります。そして、 ついに父オーディンの口から、真実を引き出します。この作品の屈指の名シーンの一つと言ってもいいでしょう。
ロキは秘密を正直に打ち明けたオーディンに、感情にまかせ、さらに暴言を浴びせます。
ロキ:You know, it all makes sense now ! Why you favored Thor all these years !
ようやく理解できたよ!なぜソーをずっと贔屓(ひいき)にしてきたかもね!
Because no matter how much you claim to love me,
あなたが僕を、どんなに愛していると言い張っても、
you could never have a ◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ sitting on the throne of Asgard !
◯◯◯◯◯◯◯◯◯◯ をアスガルドの王位の座につかせられるわけはないからだよっ!
それまでも、長年に亘りソーに対する積年の嫉妬の思いがあったロキですが、この揺るぎない事実が兄弟や家族の関係に決定的な亀裂を生んでしまうのです。
ソーがアスガルドを追放されても、自分がこの王国の後継ぎにはなれないと知ってしまったロキは、さらに疑心と策略に満ちた生き方を歩んでしまうことになります。
邪神となったロキに手を差し伸べたのは…?
自分が育った Realm で継承者となれず、ついには堕落してしまうロキ。邪神となったロキに、密かに手を差し伸べる者がいます。
映画『アベンジャーズ』の、あの◯◯の場面に姿を現す、マーベル世界でも最大級の要注意キャラクター...
その悪の支配神の名を、"サノス:Thanos" と言います。
サノスは、ロキに、黄金色で特殊なパワーを有する Scepter(槍のような武器)と チタウリ艦隊の指揮権を与えます。そしてロキが、「制覇」を企んだ文字通りその"矛先"は、ソーが愛して止まない Realm、つまり地球。人間界を襲撃することを決意したのです。
ロキたちの地球侵入の黒幕であったサノスは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にも登場してくるので、この『アベンジャーズ』の登場場面を絶対に覚えておいて下さい。
(※ サノスが地球を襲わせたのには、別のもっと大きな理由もあります! それはまた近い将来に語りましょう)
『シビル・ウォー』から先の、シネマティック・ユニバース(フェイズ3:Phase 3)で、アベンジャーズやガーディアンズたちの最大の敵になるのが、サノス(『ガーディアンズ~』からジョシュ・ブローリンが演じています!!)という、この悪の権化です。
人気キャラクターの再登場について
トム・ヒドルストンは、最新のインタビューで、『マイティ・ソー/ラグナロク』(2017年公開予定)が、彼の"ロキ"としての出演はおそらく最後になる、と語っています。
これだけの人気キャラクターが、これ以降マーベルの映画世界に完全に登場しなくなるとは思えませんが、守秘義務の厳しさでは有名なマーベルでは、俳優に《未来の計画》をすぐには明かしません。俳優自身も何が起こるか分からないのです。
アイアンマン/トニー・スターク役のロバート・ダウニーJr.が、『アイアンマン4』の可能性は否定しながらも『シビル・ウォー』というMCUの続編に出演を果たしていることを考えれば、ロキの再登場、再々登場は当然あり得ると見ていいでしょう。
しかし現時点では"最後"、と語っているからには、それ相当の深い物語と演技を『ラグナロク』で見せてくれるのでしょう。期待大です。
コラム <Vol. 7>をお楽しみに...
(※注意:このコラムの文中のキャラクターの名称や、監督名・俳優名・女優名などは、"英語のコラム"という主旨から、原語または米語の発音に近いカタカナ表記で書かせて頂いています)
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「初心者にもわかる! マーベル・ユニバースの英語」シリーズ過去記事
Photo:『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』 (C)2016 Marvel. 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』 (C)Marvel 2015 クリス・ヘムズワース(『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』) (C)2013 MVLFFLLC. TM & (C)2013 Marvel.All Rights Reserved. トム・ヒドルストン (C)Kazuki Hirata/www.HollywoodNewsWire.net 『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』左からソー(クリス・ヘムズワース)とオーディン(アンソニー・ホプキンス) (C)2013 MVLFFLLC. TM & (C)2013 Marvel. All Rights Reserved. トム・ヒドルストン (C)2013 MVLFFLLC. TM & (C)2013 Marvel. All Rights Reserved. ジョシュ・ブローリン (C)Kazuki Hirata/www.HollywoodNewsWire.net