『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』サム・エスメイル監督インタビュー

若き天才ハッカーを描いたサスペンス・ドラマ『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』。9月に授賞式が行われるエミー賞にも6部門でノミネートされている大ヒット作だ。待望のシーズン2がAmazonプライム・ビデオにて現在、日本独占配信中だが、それに合わせ届いたキャスト・スタッフのインタビューを2回にわたってお届けしよう。

第2回目となる今回登場するのはサム・エスメイル。2014年に、ジャスティン・ロング(『New Girl ~ダサかわ女子と三銃士』)とエミー・ロッサム(『シェイムレス 俺たちに恥はない』)が共演した『COMET -コメット-』で長編映画監督デビュー。時間と空間にとらわれない斬新なストーリー展開と独特の映像美で話題となったが、そんなサムが原案、製作総指揮、脚本、そして監督を務めたのが今作『MR.ROBOT』だ。ドラマの誕生秘話や、キャスティング、新シーズンの見どころなど語ってくれた。

 

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(本記事は、『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』シーズン2の展開を示唆するような記述をはじめ、シリーズ1のネタばれとなる情報を含みますのでご注意ください)

――シリーズ誕生のいきさつについてお聞かせください。『ミスター・ロボット』はどのようにして生まれたのですか?

いくつかのことが積み重なったと言うか...。僕は若い頃、すごいIT系オタクだったんだ。ずっとその文化に魅力を感じていたので、映画監督として、そして脚本家として、それを題材にした映画やテレビ番組を開拓してみたくて...。あまり語られることのないこの文化について語りたいという僕の熱意が、またとないタイミングで実現したんだ。

――『ミスター・ロボット』は当初、長編映画を想定して作られたそうですね。テレビドラマだと考え直したのはなぜですか?

僕がくどい人間だから(笑)長編映画として脚本を書き始めたんだけど、90ページくらい書いて、第1幕の半分にも行っていないことに気づいたんだ。当時、僕のマネージャーであるアノニマス・コンテント社のチャド・ハミルトンたちが製作した『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』の放送が始まった。僕はそのドラマが大好きだったから、自然な流れで『ミスター・ロボット』もテレビドラマシリーズにしようと思ったんだ。

――放送にこぎつけるまでは大変でしたか?

テレビの仕事をしたことがなかったので、業界のことが何もわからなかった。だから、この番組は長い劇場用映画だというつもりで脚本を書き、撮影したんだ。それが、シーズン2に入って、自分で全エピソードを監督することにした理由だよ。ただ単に、そうした方が僕の映画製作者としての考え方にフィットするから...。変な話だけど、USAネットワークはそんなすべてに価値を見出してくれたんだと思う。僕はまだ今でも、なぜ彼らが僕を信頼してくれたかわからないんだ。テレビ番組を仕切ったことのない男に、3エピソードの監督と、5エピソードの脚本を任せるなんて。そのうえ、こんな奇妙で、異様ともいえる型破りな番組だよ。実際のところ、彼らは単に題材を気に入って、応援したいと思ってくれたんだろうね。とても勇気のいることだったと思うし、彼らにはとても感謝しているよ。

 

――主演のふたり、ラミ・マレックとクリスチャン・スレイターのキャスティングについてお聞かせください。

エリオット役には何人かをオーディションした。みんな素晴らしい俳優たちだったよ。だからこそ脚本の欠陥が次々と浮き出てきた。正直言ってこのキャラクターが、とても冷淡で説教くさく思えてきてしまったんだ。なんだか嫌な奴になってしまった。そんな時、ラミがオーディションで、このキャラクターに脆さを与えてくれたんだ。突飛なことを口走っていても、それをさせているのは痛みと孤独なんだと感じさせる。それを見て気づいた...。他の俳優の演技にはなかったやり方で、エリオットに人間味を与えていると。ラミがいなければエリオットというキャラクターは成立しなかったね。

――クリスチャン・スレイターについては?

クリスチャンについてはいつも冗談で言ってたんだけど、彼をキャスティングしたいという思いがもはや潜在意識に住み着いてる感じだったんだ。僕は『今夜はトーク・ハード』や『ヘザース/ベロニカの熱い日』が大好きで...。ミスター・ロボットのことを書く時に、決してクリスチャン・スレイターを意識してたわけじゃない。でも、頭の奥底にあったんだろうね。僕が好きな映画で彼が演じていたのはああいうキャラクターだったから...。僕にとって、彼はこの役にピッタリだったんだ。

――エリオットの話に戻りますが、このキャラクターには、ご自身がどのくらい投影されていますか?

僕は自分の知っていることを書いている。決して凄腕のハッカーではないけど、エリオットの人間的な部分については、実に多くの共通点があるね。

――あなたにとって、このストーリーの焦点となっているのは、エリオット自身の内なる悪魔との闘いですか? それとも、彼と世界全体との対立ですか?

僕にとってこれは、一人の人間を追ったストーリーだ。常に彼の心の遍歴を描いている。不正がはびこるシステムや彼の政治的見解についてのプロットは、この作品のテーマというわけでも、ましてストーリーというわけでもない。僕に言わせれば、そこに重点を置いた作品は説教くさいだけで、感情に訴えないものになってしまう。だから必ず心掛けているよ。これは彼の内面との戦いについてのストーリーであって、"レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン(機械文明/権力への怒り)"的なメンタリティについてのストーリーではないんだとね。

――ドラマの舞台はハッカーの世界です。あなたご自身はいいハッカーですか? ニューヨーク大学在学中に問題を起こしたことがあると伺いましたが。

ハッカーとしては全然ダメだね。努力したんだけど。プログラマーとしてもひどかった。忍耐力に欠けるらしい。ニューヨーク大学在学中に、コンピューター研究室でアルバイトをしていたんだけど、当時のガールフレンドのEメールをハッキングしてね...。ただ彼女を驚かせたかっただけなんだけど、IPアドレスをたどられていとも簡単に捕まってしまった。仮進級を食らってバイトもクビになったよ(笑)

――『ミスター・ロボット』新シーズンの見どころは?

シーズン2は、シーズン1とはかなり違うものになる。「同じものは期待しないで」と言っておくよ。ストーリーが別のステージに移るんだ。さっきもこのドラマは長編映画だと言ったでしょ? そう考えるなら、その比較は最初の30分と次の30分を比べるようなものだ。このふたつを比べるなんてできない。だけど今シーズンの特徴として挙げられるのは、キャストのアンサンブル性だね。シーズン1の最後に悪魔コープのハッキングという爆弾が落とされ、登場人物たちは今、全員が散り散りになっている。だから今シーズンは、それほどエリオットの一人称だけでは展開しない。さまざまなストーリーラインを広げて、それらがどのように交差し、ぶつかり合うかが描かれるんだ。

――シーズン2は全エピソードをご自分で監督なさるんですよね?

「なぜそうすることにしたのか?」「やってみた感想は?」ってこと? 僕は、ストーリーの伝え方に関しては、ビジュアル面にとても思い入れがあるんだ。だから純粋にクリエイティブな視点から、自分で全エピソードを監督した方がしっくりくると思った。それに製作的な視点でも、いろんなことを効率化できたと思う。このストーリーには映画的なタッチがあるから、同じロケ地をエピソードをまたいでそこまで何度も使わない。だから製作の立場からすれば、ひとつのロケ地に行った時にはシーズン内の3エピソードの撮影をいっぺんに済ませてしまうほうが、従来のテレビのやり方よりも合理的だったんだ。

――シーズン2最大の課題は何でしたか?

映画作りの工程は細かく段階分けされている。脚本を書き、準備を進め、撮影し、それから最終的に編集に入るでしょ? でもテレビでは、そういうことを全部別々にやっている時間はない。常にオーバーラップしているんだ。それは本当に大変だったよ。撮影と並行して、2週間後に行くロケ地の下調べをしないといけないし、監督として撮影をこなしながらも週末には編集に立ち会い、エピソードを何話分か完成させなきゃならないんだ。全エピソードを監督しなかったシーズン1でさえ大変だったのだから、もちろんシーズン2ではさらなる課題になったね。

――シーズン1のラストは、f・ソサエティのハッキングをスキップして、攻撃の後に時間が飛びます。見られなかった出来事はシーズン2で描かれますか?

ええ(笑)

――シーズン2を2部構成のエピソードで開始することにした理由は?

他の映画やテレビ番組も同じだと思うけど、編集室に入って編集を始めると、必要なものが何か気づいてくるんだ。そしてプレミアエピソードの時に気づいたのは、僕たちが最初からフル回転するには、たくさんの設定や登場人物が必要だってこと。でも、1エピソードでやるのは難しくて...。それに1エピソードの中にふたつの異なるストーリーが入っていたから、前後編に分けようという結論に至ったんだ。賢明だったと思うよ。

――エリオットと視聴者との関係がシーズン2でどう変わるか少しだけ聞かせてください。

彼は僕たちをあまり信用しておらず、そのことをまったく隠そうともしない。彼は、シーズン1で自分が知らなかったこと「ミスター・ロボットの正体」を僕らが知っていたと思ってる。だから僕たちに耳を傾けないんだ。僕たちが否定しても彼は気にしない。彼の頭の中でそう決まっているから。つまりこの不信を抱えたまま、シーズン2は進んでいくことになるね。

 

――新キャラクターを紹介していただけますか?

まずは、グレイス・ガマーから。シーズン1の最後に、f・ソサエティのハッカーたちは目的を果たした。悪魔コープのシステムを停止させたんだ。この千年紀に一度の犯罪を受けて、捜査当局の描写が必要になると思った。グレイス・ガマーが演じるのは、サイバー犯罪課の中堅捜査官ドミニク・ディピエッロ。瞬く間に登場人物の輪に巻き込まれていくよ。

――クレイグ・ロビンソンとジョーイ・バッドアスもキャストに加わりましたね?

ええ。クレイグ・ロビンソンが演じるのはレイという謎めいた近所の男で、エリオットの味方となり、彼と心を通わせる役どころだ。彼の正体は今の段階では謎ということで...。ジョーイ・バッドアスが演じるレオンと一緒に画面に映ると、一見バディ・コメディーみたいだよ。彼はエリオットといつも一緒にいる。シーズン2の序盤で、エリオットはいわば自分の存在を社会から抹殺した状態になってるんだが、その間もレオンにだけは連絡を取るんだ。

――違っていたら訂正していただきたいんですが、シーズン1にヒッチコックみたいな感じでカメオ出演されていませんでしたか? もしそうでしたら、シーズン2にも出演されますか?

シーズン2のネタバレはできないんだけど、シーズン1では通行人役でヒッチコック気分を味わったよ。

――シーズン1のどこに出ていらっしゃいましたか? 何話に遡って探せばいいでしょう?

パイロット版を見たらいいんじゃないかな(笑)

――『ミスター・ロボット』は何シーズンを予定されていますか? ストーリーが向かう結末は既に決まっていますか?

そうだね...。長編映画を想定してこのストーリーを書き始めた時に、エンディングが頭にあったんだが、テレビシリーズになった今でも、まだそれでいこうと思ってる。たぶん、4~5シーズンになるんじゃないかな。もう全部のエピソードの内容を考えたかって? とんでもない。だからこそ素晴らしい脚本家たちと、隅々までディテールを詰めてるんだからね。でもポイントとなる展開は大体頭の中に出来上がっていると言っておこう。

――『ミスター・ロボット』が放送されて一番うれしかったのはどんなことですか?

一番うれしかったのは、正直なところ、尊敬する本物のハッカーやIT業界の人たちから、この作品が好きだというだけではなく、細部に至る正確な描写を評価するコメントをもらったことだ。最高の達成感だね。ハッキングやコンピューター・テクノロジーを扱ったドラマや映画をたくさん観て育って、その点はかなりストレスだったから(笑)そういう映画の大半は本当にありきたりで題材を殺すものになってしまう。だから、IT業界をリアルに表現するという課題を『ミスター・ロボット』で達成できてうれしいよ。

『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』シーズン1&2はAmazonプライム・ビデオにて配信中。

Photo:『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』サム・エスメイル監督
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