話題沸騰ヒーローアクション『レジェンド・オブ・トゥモロー』吹替版演出家・藤本直樹氏にインタビュー【後編】

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――ここからは藤本さんご自身のお話を伺います。藤本さんは舞台演出のご出身ですが、舞台演出を離れた後にACクリエイトに入社されたのですか?

それが全然違うんですよ。舞台やらなくなってから、出版社で働いていたんです。そこが倒産して、ACクリエイトの出版部門の募集があったので、面接に行ったんですよ。その時は、吹替という仕事があることすら知らなかったんですよね。映画字幕翻訳家でACクリエイトの代表でもある菊地浩司さんに、「うちは吹替の制作もしているんだ、やってみる?」と軽~く言われて、吹替の制作部に放り込まれたんです(笑)

レジェンド・オブ・トゥモロー

――外画に関連した仕事に就こうという考えは無かったのですか?

一度、芝居をやめて、仕事をしていたので、その気持ちは全く無かったです。まさかこういう形でまた芝居に関わるとは思っていなかったですね。これも縁だったのかなと思います。

――舞台演出と吹替演出について、どういったところに類似点や相違点を感じていますか?

台本があって、芝居を作るという点では一緒ですね。ただそれをどう表現するかというところなんですよ。吹替はもとの絵があるので、その枠の中でどうやるかというところがあって、舞台は舞台空間の中での空間芸術なので、そこは違うんですけど。あと、マイクの前という違いはありますが、芝居を作るという点では共通点の多い仕事だなと思いますね。なので、芝居をちゃんと見れないといけないんですよね、そこは演出と名乗っちゃってますから(笑)僕は舞台育ちなので、そういう点ではやりやすい仕事だと思っています。

――吹替演出の仕事として気をつけていることや、心がけていることがありましたら、教えてください。

やっぱり、自分の預かっている作品だと思うんですよね。自分がゼロから作るというよりも、あくまでも裏方仕事なので。今回の『LOT』でいうとワーナー・ブラザースさんからのご依頼ですけど、依頼先のクリエイティブな部分でどういうことが必要か、まず意向を聞きます。それを受けて僕らが意識するのは、ユーザーさんがどう受け止るかというところですね。演出のエゴだけだとダメだと思うんですよ。ユーザーに答えながら、一方で演出のカラーを出していかないといけないと思うんです。そこをやる上での準備として、同時期にリリースされる作品とかは、すごく気にしますね。

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――どういう点を気にされるのでしょうか?

ユーザーさんにまた同じような作品をやっているのかと思われたくないので、独自色をどう出していくかという点ですね。どうオリジナリティーを出していくのかと考えながらも、そこは吹替なので、もとの映像から大きく外せられないというのはあります。こっちは裏方仕事なので、やっぱり作品と役者を栄えさせてナンボだと思うんですよ。本当に自分たちが目立っちゃいけない仕事ではあるので、裏方というのはすごく意識しますね。

――吹替演出として一番大事に思っていることは?

演出家としては、キャスティングが一番のキモだと思っています。意外とキャスティングでしか独自色というものは出せないんじゃないかと考えていますね。演技指導というものありますけど、本当に演技指導が出来る人は少ないんじゃないかなと僕は思いますよ(笑)役者さんが演じていて、こういう気持ちでみたいな演技指導がありますけど、それは役者さんが一番出来るんですよ。そこのバランスを見て映像にアジャストさせるのはこっちの仕事だと思うんですけどね。結局、僕らは裏方なので、作品と役者をどう良く見せるかということに注力して、その結果として、そこが光った時が一番うれしいですね。

――キャスティングという面では、舞台ご出身なので座組というような形をとって、長年、藤本さんの下で吹替をされている方などはいらっしゃいますか?

それはないですね。そこは適材適所で、担当する作品によりますね。役者さんがこの人じゃ無いとダメというのはありません。その作品と役に合うと思ったら、お願いします。

――それでは最後に、『LOT』の吹替演出という立場から、大変だった点や魅力をお願いします。

全話大変でした(笑)アメリカ側がやりたい放題やっているんですよ。西部劇だったり、宇宙空間での戦争だったり、70年代だったりと毎話ごとに舞台設定が変わるんです。そこが今回一番大変でしたね。舞台設定が毎回違うので、2本録りだと午前中と午後で違いますから(笑)これが本当に大変でしたね。アメリカ側が遊びすぎなんですよ(笑)

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――遊びすぎているほうが、視聴者側からしても面白いかもしれませんね。

そうですね。役者さんも楽しかったんじゃないかなと思いますよ。最後までモチベーションを保って演じられたんじゃないでしょうか。ドラマの中の遊び心というものが、映像を見ていても前面に出てきているのを感じるんですよ。そこが視聴者に伝わって欲しいなとは思いますね。そこに日本のボイスキャストが合わさって、すごく面白くて、吹替版としても近頃ないような作品に仕上がっています。僕が演出していますけど、不思議なものが出来てますね(笑)

――DCコミックスのドラマはどの作品も本当にクオリティーが高いですね。

クリエイターの愛情というものを感じますね。それと、ドラマのクリエイターたちが日本の80年代から90年代にかけての週刊少年ジャンプのアニメーションなど、日本のアニメーションをよく見ているんじゃないかなと感じました。映像作品としての作りが似てるんですよね。アメリカのクリエイターたちがドラマとしてこういう答えを出して、日本に持ってきているので、それに対して僕らもそれを見て育った世代なので負けられないなと。単に真似るだけじゃなくて、彼らなりの答えを出してきていますよね。だからこそ面白い作品となっているんだと思います。外画吹替と言いますけど、芯の部分は芝居作りだと思うんですよ。そこを受け止めて答えていかないといけないと思うんですよね。こんな大人になっても子供みたいに出来るんだなと、『LOT』は演出していても面白い作品ですよ。

――ありがとうございました。

『レジェンド・オブ・トゥモロー <ファースト・シーズン>』は、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントよりデジタルセル先行配信中、2016年10月5日ブルーレイ&DVDリリースおよびデジタルレンタル配信開始。

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Photo:『レジェンド・オブ・トゥモロー』(C)2016 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.