大ヒットドラマ『キャッスル~ミステリー作家は事件がお好き』で8シーズンにわたり主役コンビの一人、ケイト・ベケットを演じたスタナ・カティック。彼女が主演する新作ドラマ『アブセンシア~FBIの疑心~』がWOWOWプライムにて3月24日(土)15:00より日本初放送となる。本作は、2017年の秋にAXNにてスペイン、ポーランドなど15ヵ国で放送され、2018年2月にAmazonを通してアメリカで配信されたクライムサスペンス。スタナが演じるのは、連続殺人事件の捜査中に行方不明となり、その6年後に突如発見されるFBI捜査官のエミリーだ。
2016年に『キャッスル』が終わって以来、初の主演ドラマとしてこの国際的なシリーズを選んだスタナ。米Entertainment Weeklyのインタビューに応じ、本作に出演した理由や『キャッスル』降板劇、大きく変わりつつあるエンターテイメント業界について語ってくれた。
――この作品のどこに惹かれたのですか?
アンチヒーローのサバイバーについての話というアイデアが気に入ったの。もともとエージェントたちに伝えていたのよね、「次にどんなことがやりたい? どんな仕事を探せばいい?」と聞かれた時に「誰かの母親役はやらないわ」って。「なぜ?」と聞かれたけど、誰かの母親とかガールフレンドって本筋とは関係ないキャラクターが大半なのよ。だから彼らに言ったの。「本筋に絡まないような役はやりたくないの。そういう企画は送ってこないで。私がやりたいのは、ストーリーにちゃんと関わる役だから。そういう役なら、主役でなくても構わないわ」って。母親やガールフレンドの主な役回りって、詰まるところ、誰かを心配することなの。何かの旅に乗り出す子どもや、主人公である恋人やパートナーのことを、大丈夫かと気にしてるだけなのよ。そんな時にこの脚本を読んで、すごく興味を引かれたの。主人公であるエミリーは、いろんな要素を詰め込んだ人物で、クールで、さらにストーリーに深く関わるキャラクターだから。
私が心配していたのは、物語上で重要な役割を担う複雑なキャラクターではなく、ステレオタイプの役をオファーされることだったの。でも、『アブセンシア』は全然違った。だからぜひ演じたいと思ったの。その頃にちょうど第二次世界大戦とホロコーストを生き延びた女性たちについての本を読んでいたから、悲惨な経験を経て再び生きようとするたくましい女性を演じるのは素晴らしいと思った。それも出演を決めた理由の一つね。
この作品では、エグゼクティブ・プロデューサーとして働く機会も得られたわ。以前にもその職を経験したことはあった(編集部注:短編ドキュメンタリーのほか、『キャッスル』のシーズン8で製作を担当)けど、今回はミーティングに入れてもらえて、製作現場に深く関わることができた。編集過程に立ち会ったりしてね。プロデューサー用の机に座って仕事をするのは全く新しい経験だった。ストーリーテリングの一部になれてすごくワクワクしたの。特にこういう時代だしね。今のハリウッドで働く女性の一人として、そうしたスタッフの一員として迎えられてみんなと一緒に仕事ができたことは素晴らしい機会だったわ。
――あなたが演じるエミリーについてもう少し聞かせてください。ケイト・ベケットと比べて、彼女はどんなキャラクターですか?
ケイトは凄い人よ。彼女を演じるのは本当に楽しかった。だけど二人を比べるのは難しいわね。だって『アブセンシア』はサイコスリラーで、『キャッスル』はロマンチックなドラメディと全然違う作風だから。エミリーはかつてFBI捜査官だったけど、それは重要な要素ではないの。ストーリーを描く上での設定に過ぎないのよ。
彼女は6年間行方不明で、死んだものと思われていた。そして彼女がいないことが普通のこととなっていた世界にいきなり戻ってくるの。すると、夫はすでに別の女性と再婚していて、幼かった息子は成長して他の女性をママと呼び、心の支えだった父親は病に倒れ、兄はアルコール依存症になっている。誰もがすっかり、彼女のいない日常が普通のものと思っていたの。そこへ再びエミリーが現れたことで、それぞれが隠していた秘密が徐々に明らかになっていくのよ。
何よりエミリーは逃亡者となることを余儀なくされてしまう。彼女はFBI捜査官としてシリアルキラーと目される相手の後を追っていた時に捕らわれてしまい、裁判でその相手が彼女を殺した罪で有罪判決を下された日に、実は生きていたことが分かる。それがストーリーの始まりなの。でも生還した彼女は突然、恐ろしい殺人事件の容疑者と見なされてしまい、身の潔白を証明しなければならなくなる。そんな面白くてクレイジーなファミリードラマなの。殺人事件の犯人が一体誰なのかが、時限爆弾のようにハラハラさせながら明かされていくのよ。
――こうしたサイコスリラーは他の作品よりも面白いですか?
(規制が多いネットワークの番組と比べて)ケーブルの番組はこういう挑戦的なジャンルをやるいい機会だと思うわ。アンチヒーローであるキャラクターとその意味を見出すのは面白いもの。『ピーキー・ブラインダーズ』みたいな素晴らしい作品を作りたいの。あの作品のキャラクターたちは実にいろんな形でうまく結びついていて、思わずぞっとしてしまいそうな暗部も描いているけれど、脚本家たちが絶妙なバランスで物語を綴っているわ。
もちろん、俳優としてキャラクターを掘り下げていくのは楽しいしね。機械的に仕事するんじゃ何も面白くないもの。コメディであっても、演じる人物の心理や人間関係を深く探っていくのは興味深いものよ。
――『キャッスル』での経験によって、出演作の選び方が変わったりしましたか?
面白い質問ね。各シーズンが24話構成のドラマに出演するのは本当に大変なの。それに引き換え、ケーブルのいいところは撮影期間が3ヵ月で済むところね。特にこの作品の場合は特殊で、全10話の撮影を同時進行で行ったの。つまり、午前中に第7話のシーン、午後になったら第1話のシーン、夜には第5話のシーンを収録するといった感じにね。
――そのたびにエミリーの心理状態が全く異なるのを演じ分けるのは大変そうですね。
ええ、決して簡単じゃなかったわ。そういう撮影法ってインディペンデント映画みたいよね。そんな本作でもう一つ特に気に入っているのが、国際色豊かなキャストとスタッフで作られていることね。みんなが全力を尽くして、でき得る限りで最高のストーリーを綴っていくの。それがまさに私のやりたいことなのよ。でも、別にシリアスな作品にこだわっているわけじゃないわ。コメディだって歓迎よ。
――『キャッスル』からの降板が決まった時、どんな気分でしたか?
あの一連の経緯については、実はいまでもよく分からないの。傷ついたし別れは辛かったけど、あれから2年経つのね...。ただ、あの作品ではたくさんの素晴らしい人たちと出会ったし、みんなで力を合わせてとても特別なものを作ることができた。ネットワークで8シーズン続くだけのヒット作を生み出すことってそうそうないのよ。振り返ってみると、素晴らしい仕事だった。貴重な経験になったし、人々に感動を与えるようなラブストーリーを伝えることができたから。そんな作品に関わる一人となれたことには感謝しかないわ。観た人たちにとってもずっと特別な存在であってくれたら嬉しいわね。
――『キャッスル』で人気を得たあなたにはたくさんのオファーがありましたよね。そこでなぜ国外のドラマを選んだのですか?
今のエンターテイメント業界って、昔の西部開拓時代みたいなもの、一種の無法地帯だと思うの。ドラマ界ではケーブル局もかなり増えて、様々な形で新たな番組が作られている。メディアや映画も少し前までとは大きく変わってきている。フランスやドイツの会社がいくつものプロジェクトを進めていて、そのうち何本かはアメリカに輸入されている。NetflixやAmazonが配信している作品の中にもアメリカ以外の国で製作された作品が存在するわ。(スウェーデン/デンマーク/ドイツ合作のドラマである)『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』をアメリカで観る気分ね。これって記念すべきことだと思うの。世界との扉が大きく開かれたことで、これからの数年はすごく興味深いことになるはずよ。
――『アブセンシア』のシーズン2はあるのでしょうか?
その質問には私は答えられないわ。Amazon次第ね(笑)
『アブセンシア ~FBIの疑心~』はAmazon Prime Videoにて配信中。
Photo:
スタナ・カティック
(C)AVTA/FAMOUS
『アブセンシア~FBIの疑心~』
(c)2017 Sony Pictures Television Inc. All Rights Reserved.
『キャッスル』撮影風景
(C)NYNR/FAMOUS