「彼に何が起きたのか?」心の有り様を全身で物語る オスカー俳優マハーシャラ・アリ初主演『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』

"記憶は嘘をつく――"事件の深い闇に引きずり込まれ翻弄された刑事が、35年の時を越え驚愕の真相に迫る米HBOのクライムサスペンス『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』シリーズ最新作『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』。シーズン3となる本作で主演を務めるのは、『ムーンライト』『グリーンブック』で2度のオスカー助演男優賞に輝いた実力派俳優マハーシャラ・アリ。彼の"初主演"の演技について、映画・海外ドラマライター今祥枝が徹底解説しているので紹介しよう。

「2016年の『ムーンライト』では心優しいドラッグディーラー役。2018年の『グリーンブック』では公民権運動の時代を背景に、あえてアメリカ南部を演奏旅行する実在のピアニストを演じて、2度のアカデミー賞助演男優賞を受賞するという快挙を成し遂げたマハーシ ャラ。2000年に俳優としてプロデビューを飾った舞台で主演を務めて以来、約20年にわたり脇役で存在感を発揮してきた。そんな彼が切望し続けてきた映像作品での"初主演"となるのが『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』だ。

マハーシャラが演じるのは、1980年にアーカンソー州の片田舎で起きた幼い兄妹の失踪事件によって、大きく人生を狂わせていく刑事のウェイン・ヘイズ。ドラマでは事件当時、再捜査が行われた1990年、そして再び事件の記憶を呼び起こされる2015年の3つの時代が並行して描かれる。ベトナム戦争のPTSDを抱えながら事件の捜査に当たる若かりし頃、家庭を持ちデスクワークについている10年後、さらにアルツハイマーを患う初老の現代。当然ながら見た目の変化はヘアメイクなどでも演出しているし、俳優なら演じ分けるのが当然ではある。だが冒頭、白髪で眉間に深い皺が刻まれたヘイズの顔のアップが映し出された瞬間、強い衝撃を受けて、思わず画面を食い入るように見つめてしまう。言葉で語らずとも、不安げに見開かれた瞳と苦渋に満ちた表情を見ただけで、ヘイズという人間が背負っているものの大きさ、人生の過酷さが伝わってくる。視聴者は"彼に何が起きたのか?"と思わずにはいられない。ものの数秒で物語の世界に引き込むマハーシャラの演技は、最後まで緻密で張り詰めたテンションが緩むことはない。

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本作は事件の真相をめぐるサスペンスであると同時に、時間と記憶についての物語でもある。人間を形作っているものが記憶であり、時の経過がどれほど残酷なものであるか。戦争で心に傷を負っていた1980年のヘイズが捜査にのめり込んでいく姿には、陰鬱さの中にも狂気がにじむ。そこに事件の記憶が加わり、1990年のヘイズは事件から10年の間に抑圧されていたものが表面化するか のような、ギラついた感情を時折見せて危うさは増したように思える。それらの記憶を失いつつある現在、まるで迷宮のような複雑で出口の見えないヘイズの心の有り様を、マハーシャラは全身で物語る。ついに事件の真相がわかる時、ヘイズは苦しみからついに逃れることができるのだろうか? この幕切れはマハーシャラのキャリアの中でも屈指の名演技であり、圧倒されると同時に忘れ難い余韻を残す。

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マハーシャラは2018年秋、『グリーンブック』の撮影後に7日間の休暇をとっただけで、約7ヶ月にわたる本作の過酷な撮影に臨んだという。そもそも企画段階ではヘイズは白人の設定だったが、マハーシャラがこの役を熱望したため設定を変更したという経緯がある。3つの時代を演じ分けながらも、次第にシームレスになっていく時間と記憶の関係性を体現するマハーシャラ。"静かだが力強い"という印象は従来のマハーシャラの演技にも共通するが、哲学的な示唆に富んだ、複雑多岐に渡る感情を想起させる役作りを徹底してやり切ることを可能にしたのは、マハーシャラが主演であるからにほかならないだろう」

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3つの年代が交差しながら事件の真相に迫っていくストーリーが、観るものを一気にその世界観に引き込むシリーズ第3弾。綿密で重厚、鳥肌が立つ程にハイクオリティーなアンソロジードラマと評判の本作『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』はブルーレイ&DVDがワーナー・ブラザース ホームエンターテイメントより10月2日(水)にリリースとなる。「事件当時」「事件から10年後」「事件から35年後」と、3つの時間軸を描く本作の製作過程での苦労などについて、ブルーレイ&DVDの特典映像に収録されているインタビューでキャストとスタッフが明かしている。

「(特殊メイクで)外見を丸ごと変えるんだ。顔のシワを増やし、特殊スーツで体を太らせた。皆より4時間も前に出勤だ」とマハーシャラ。

製作スタッフは「普段は気に留めないものこそ、リアリティーの鍵になる」と語り、本作に登場する電気器具や標識は各年代に合わせたものを使用していることに触れている。また、1980年のシーンでは「障がいを持つアメリカ人法」が制定される前のため、障がい者用駐車スペースがない事にも言及し、本作がいかに社会背景を意識し、当時を再現するために細部にまでこだわり抜いてことがわかる。

さらに各年代のキャスト陣の"声"の違いにも注目したい。「それぞれの年代で声のトーンは当然違う。1980年では田舎育ちの感じをだそうと方向づけをしたんだ。1990年には10年の結婚生活の影響が出ている」とマハーシャラが明かす。ニック・ピゾラット監督も、マハーシャラ扮するウェイン刑事が記憶を辿りながら事件に向き合う2015年の演技を見て「声域まで違うのには驚いたね」と振り返る。

撮影に発音指導者を入れるなど、全スタッフが一丸となってこだわりを徹底したことで作品への没入感が生まれ、視聴者が圧倒される、何度も見返したくなる作品が生まれた。ぜひ特典映像を観て、綿密に計算された本作の新たな発見も楽しんでみてほしい。

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『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』商品情報

10月2日(水)
・ブルーレイ コンプリート・ボックス(3枚組)11,818円+税
【映像特典】130分以上 ノーカット版本編を含む豪華映像特典収録(予定)
※予告無く変更となる場合がございます。
・DVDレンタル Vol.1~Vol.5 各2話収録 ※Vol.1.5のみ1話収録
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

Photo:『トゥルー・ディテクティブ 猟奇犯罪捜査』 © 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved.HBO ® and related channels and service marks are the property of HomeBox Office, Inc.