完璧。圧倒的な水準でテレビドラマ界を席巻!!! 『True Detective/トゥルー・ディテクティブ』の深みに迫る(前編)

"REVOLUTIONARY"
「革命的だ」という批評家の言葉に嘘はない。

 

決して、数多くのドラマを観ているわけでもなく、まだ手つかずの秀作はいくつもあることを白状した上で、それでも僕が渡米してからの7年間で、食指が動いて鑑賞してみた作品の中では、このドラマは群を抜く。

「最高」

最高峰の出来映えの1本、と迷わず言える。
観たかったドラマがここにある。

『True Detective』は、二人の刑事が事件を解決する、
犯罪捜査のドラマ。そこまでは、どこにでもある設定だ。
しかし、これまでにないほどの壮絶さと興奮で、事件が幕を閉じる。

極力、ネタバレはしない。これからこのドラマを観ようという皆さんに、このドラマの面白さを、第1話のオープニングタイトルからすべて堪能して欲しいからだ。(この番組冒頭で、印象深いテーマと共に流れる、しびれるセンスのタイトルデザインさえもが、某映画祭では受賞を果たしている)

何が、他の刑事ドラマと違うのか?

まず、8話で「完結」であるということ。
どんなに評価が高くても、面白くても、この物語を次のシーズンに引っぱってビジネス的に延長させることはなく、8回の放送の構想で、完全に終焉させる潔さだ。
(計画されている第2シーズンは、別のキャストで、別の事件を追うことになるらしい)

そして8話で1つの脚本であるということ。
脚本はクリエイターであるニック・ピゾラットが1人で手がけ、全8話をケイリー・ジョージ・フクナガが一人で監督した。それだけに、全編を通じて、揺るぎない作家性で貫かれている。

通常にあるような、1話で、いくつかの伏線をひも解き、ひとつの事件を解決する刑事物とは異なり、8話で、ある一人(?)の奇怪な形跡を遺す犯人の行方を捜査していく。このモンスターともいえる凶悪犯罪者を、二人の男が、なんと17年間の歳月をかけて追跡するのだ。

その二人とは、今、ハリウッドで最も勢いがあるマシュー・マコノヒー
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』であらゆる映画賞の主演賞を総ナメにしたことは誰もが知る快挙だ。そしてもう一人が、映画『ハンガー・ゲーム』シリーズの一筋縄ではいかない人物像が印象的で、人気の衰えを知らない名優ウディ・ハレルソンだ。

米国の南部ルイジアナ州を舞台に、地元の刑事マーティン・ハート(ウディ)と、
他州から転勤してきた刑事のラスト・コール(マシュー)が、前代未聞の殺人事件に直面する。マーティンは、一見、温和な家庭人。一方、ラストは心の奥の見えない刃で真実をこじ開けるような鋭さを持っている。
二人の俳優が、これまでのそれぞれのキャリアで演じてきたような設定とは真逆のキャラクターにお互いが配役されているのが、実に興味深い。

 

特に、マシュー・マコノヒーの演技を(過去の出演作品の多くがロマンティック・コメディだっただけに)食わず嫌いだった視聴者がいたとしても、本作を見たら、惚れ込んでしまうだろう。それほどの魅力を、彼が放っている作品だ。

550ページの脚本が紡ぐ物語は、8時間に亘る、隙のない映画のようだ。
撮影隊とマシューやウディらは、6ヶ月をかけて8話を撮影した。マシューは、120ページが平均の映画脚本の撮影と比較し、キャラクターを演じるのに、一層抑えた演技を貫くための忍耐力を特に要したと語っている。結末までのテンポ、トーンが、2時間の映画よりもはるかに落ち着いて進むからだ。

このドラマの演技は、そうそう他では観られない。

"ながら視聴"を許さない静けさ。次々と目まぐるしく展開する通常の時間枠のドラマでは表現できない、多くを語る沈黙。もはやテレビの領域を超え、一般的なヒット映画でも、この水準の演技を繰り出すのは難しい。まったく、"芝居"をしているような節回しや、声の劇的な抑揚も、明瞭な滑舌もない。セリフを、そこで初めて思いつき、感じたままに喋っているかのように映る、見事さなのだ。だから、設定を信じて見入ってしまう。

この演技には、本当に惹かれる。

(※コラム「アメリカのドラマ/映画の演技になぜ人々は惹かれるのか?」も併せてお読み下さい)

すべてが淡々とした経過で進むこの刑事ドラマは、かなりリアルな時間の流れを表現しているらしい。実際の難事件の捜査では、どう省略して描いても、"60分"で解決するような安易で出来過ぎた展開など起きないのだ。

そういうスタンスをとりながらも、『True Detective』には、驚くほど
ドラマチックな展開も、サプライズもしっかりと用意されている。

マシューが、アカデミー賞主演男優賞受賞後に放送された最終話の第8話は、
視聴者数が100万人以上跳ね上がり、オンラインで配信した直後にはサーバーが
ダウンするという現象が起き、ニュースにもなった。

僕は8話目の結末を、「あっ!!!」と声を上げたまま、背筋を伸ばし、口をあんぐりと開けたまま見入っていた。
上質のカタルシスを、誰もが感じることは間違いない。

「なぜ、たった8話なんだ...」
終わって欲しくない...と、心から感じたドラマは珍しい。

映画『ジェーン・エア』(出演:ミア・ワシコウスカマイケル・ファスベンダージェイミー・ベル)で鬱々としながらも、美しいロマンスを表現した映像で観客を魅了したフクナガ監督は、このドラマでは『アニマル・キングダム』の撮影監督と、さらに『ダークナイト』シリーズや『インセプション』そして本年度期待の『インターステラー』で空撮ショットを担当する超売れっ子撮影マンとチームを組んでいる。

すべてのショットの生んだ照明の光り、そして何かを語りかけてくるような空から俯瞰でとらえた地上の映像が実に美しい。この点も、「最高」という言葉で称えるべき特徴の1つだろう。

 

蛇足だが、フクナガ監督はデビッド・リンチ氏がかつて一世を風靡した米ドラマ『ツインピークス』の影響も少なからず受けているそうだ。『ツインピークス』は、僕が初めてハマり、レンタルビデオ店に通い詰めたドラマシリーズだった。『ツインピークス』には、猟奇的な怖さがありながらも、コミカルとも言える軽い描写も度々見られた。

しかし『True Detective』は、完全なる、緊迫感の持続するシリアスなドラマだ。
かつてリンチ氏のヒットシリーズが、大ブームを起こすほど視聴者を魅了した「底が見えないミステリアスな闇」をさらに生々しく深め、鮮やかな原色を排除し、進化させたような仕上がりである。

リアルで切迫した犯罪捜査と、不器用な友情、
徹底した"マン・ハント(追跡)"のスリル、
繊細な心理を描写し、奇怪さを煽る音楽、

完全なる密度の映像と、最高に贅沢な演技陣の結実がそこにある。

ある批評家は、こう言った

"Close to perfection"

「完璧に近い」と...。


Photo
"REVOLUTIONARY" True Detective 看板  撮影 尾崎英二郎
True Detective (2014) - filmstill (c)amanaimages