1990年代、世界中で社会現象を巻き起こし、SFドラマの金字塔となった『X-ファイル』。その驚異的な大ヒットにあやかろうと、米FOXネットワークは1999年、同作のクリエイターであるクリス・カーターを起用した野心的な新作ドラマをスタートさせた。しかし、その期待とは裏腹に、本作はわずか3エピソードの放送で打ち切られるという、あまりにも早すぎる幕引きを迎えることとなる。
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『X-ファイル』の社会現象に便乗したFOXの野心作
その幻の作品とは、コミックを原作としたSFドラマ『ハーシュ・レルム』だ。ジェームズ・ハドナルとアンドリュー・パケットによる同名コミックにインスパイアされていたが、決して忠実な実写化ではなかった。
原作コミックは「仮想現実の中に入り込み、富豪の跡取り息子を捜索する私立探偵」を追うストーリーだ。これに対し、クリスが手がけたTVドラマ版は「サイバースペース内で暴走した高官を暗殺する任務を帯びた、トム・ホッブス中尉」の死闘を描く物語へと大胆にアレンジされていた。しかし、結果として『ハーシュ・レルム』は『X-ファイル』のような熱狂的なファン層を獲得できず、批評家からのレビューも冷ややかなものに終始した。
FOXは早々にシリーズの打ち切りを決定。これにより本作は、数ある「打ち切られたコミック原作ドラマ」のリストにその名を連ねることになった。撮影済みだった残りの6エピソードは、翌2000年にケーブル局のFXでひっそりと放送され、最終的には全9エピソードが2004年にDVDとしてリリースされている。
クリスは後年のインタビューで、本作がいかに多くの障壁に苦しめられたかを次のように振り返っている。
「野球の試合(の裏番組)の時期にプレミア放送が重なってしまったことも常に厳しい競争でしたし、局はプロモーションをほとんどしてくれませんでした。彼らにはいくつかの統計や予測があって、最初からもっと高い視聴率が取れると思い込んでいたのでしょう。だから、人々を呼び込むために宣伝費を投じる必要はないと考えたのだと思います」
局の油断と戦略ミス、埋もれた時代背景
FOXの最大の過ちは、本作がクリスの手がけるSFジャンルであるという理由だけで、最初から固定ファンがついてくると思い込み、ネットワークとして総力を挙げたバックアップをしなかった点にある。実際のテレビ界は、そこまで甘くはなかった。
「私たちは『X-ファイル』の視聴者が流れてきてくれることを期待していましたが、局は『X-ファイル』よりも前の時間帯にプレミア放送を組んでしまったため、実質的に『X-ファイル』を呼び水として活用することができませんでした。今の時代、テレビには観るべきものが無数にあり、完全にその中に埋もれてしまった、というのが事の真相だと思います。誰も放送されていることすら知らなかったのです」
もし本作が、モルダーとスカリーによる捜査の一環として組み込まれていれば、事情は違ったかもしれない。『X-ファイル』屈指の傑作クロスオーバーエピソードになっていた可能性すらあるだけに、実にもったいない選択であった。
高額な制作費、そして時代を先取りしすぎたアイデア
クリスによれば、本作が他局に引き継がれなかったのは、制作費が高額すぎたことが原因だという。しかし、それから数十年の間に「仮想世界」というアイデアは、映画『マトリックス』や『レディ・プレイヤー1』、さらにはドラマ『アップロード ~デジタルなあの世へようこそ~』、『ペリフェラル~接続(コネクト)された未来~』、『レヴェリー 仮想世界の交渉人』といったヒット作を通じて、映画・テレビの双方で深く掘り下げられていくことになる。つまり、『ハーシュ・レルム』はあまりにも時代を先取りしすぎていたのだ。
さらに、打ち切り後も本作はさらなる論争の中心となった。クレジットに「クリエイター:クリス・カーター」とだけ表記されていたため、原作コミックの作者であるジェームズとアンドリューが、FOXを相手取って訴訟を起こしたのだ。最終的に裁判官はネットワークに対し、原作者への「〜にインスパイアされた(Inspired by)」というクレジット表記を命令。これにより、各エピソードに彼らの名前が追加されるという、苦い幕引きとなった。
クリス・カーターの天才的な発想力をもってしても、時代の早さと局の戦略ミスには抗えなかった。そんなテレビ史の裏に隠れた異色作として『ハーシュ・レルム』は今もファンの間で語り継がれている。
クリス・カーターが手がけたSFドラマの金字塔『X-ファイル』シーズン1~11はディズニープラスで配信中。『ハーシュ・レルム』はVHSが発売中。(海外ドラマNAVI)






