「この物語はフィクションです。実在の人物・出来事とは一切関係ありません」
・・・みたいなテロップがドラマの冒頭やエンディングに出ることがある。
「あくまで架空だけど話がリアルすぎ」「実際の事件にヒントを得たストーリーだったり、あまりに有名な出来事・人物を参考にしていたりして、ネタ元が特定・想起されやすい」などの場合に使われる、一種のエクスキューズのようなもの。
海外ドラマでは、現実世界で起きたことをベースにストーリーを作るケースはかなりある。
『ニュースルーム』(2012-)などは、社会問題や国際紛争などの史実そのものが題材。実際の事件をもとに製作することで、それらが「なぜ起こったのか」を検証・分析、核心に迫って真の問題を提起する役割も果たしている。
ここ十数年のテレビシリーズでもっとも多く扱われた重大事件は、おそらく「アメリカ同時多発テロ」だろう。数多くの番組で、直接9.11に言及、もしくは間接的に触れるエピソードが作られた。
アメリカで『24 -TWENTY FOUR-』(2001-10)の放送が始まったのは、9.11の2か月後。
大統領候補暗殺計画・政府機関に潜むテロリストのスパイ・飛行中の民間機爆破・・・と、ドラマ内で立て続けに起こるテロと毎日テレビに映し出されるニュース映像に、現実との奇妙なつながりを感じ、そのリアルさに恐怖を覚えた人も多かったはず。
しかし、9.11の半年も前、すでにあの光景を予知していたかのようなドラマが!
『X-ファイル』でコミックリリーフ的存在だった3人組が主役の『ローン・ガンメン』(2001)。
2001年3月放送の第1話では、クライマックスで、ボストン行きの国内線旅客機がマンハッタンの世界貿易センタービルに突っ込みそうになる。
「冷戦終結後、ソ連という《敵》の不在で武器が売れなくなり、市場は在庫の山。しかし、街なかに旅客機を墜落させたテロリストとその支援国家という《新たな敵》が生まれれば、彼らに報復の空爆をけしかける者たちが出てきて、国内外で戦争の気運が高まり、また武器が売れる」――
本作のテロは、国防総省内部の人間による策略で未遂に終わったが、なんだかどこかで聞いたような話。
こんなふうに、架空だったはずのストーリーと似たことがのちに起こって、結果的にドラマが「未来を予言」してしまうことがある。
『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット』(2011-)は、「9.11のようなテロを予測する目的で構築された監視システムを利用して、ニューヨーク市内の全ての凶悪犯罪を未然に防ぐ」ドラマ。
だが、シリーズ開始のおよそ1年後、(現実世界の)ニューヨーク市は米マイクロソフト社と提携し、テロ・犯罪予防のための監視・情報検索システムを開発すると発表した。
市内の監視カメラ映像や警察への緊急電話を収集して、瞬時に過去の犯罪記録などと照らし合わせるというもの。まさにドラマの世界が現実に・・・《マシン》が実現する日も近い!?
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●大統領選挙の行方も予想?
アメリカ人にとって「合衆国大統領選挙」は、オリンピック以上に盛り上がる(ほぼ)4年に一度の国民的イベント。
テレビや映画でも格好の題材で、2000年の大統領選・フロリダ州での再集計をめぐるブッシュVSゴアの争いを描いた『リカウント』(2008)、2008年大統領選挙を副大統領候補:サラ・ペイリンを中心に描いた『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』(2012)などは記憶に新しい。
過去の大統領選に絡む事件や噂をもとにした「いちおう架空の」ストーリーもある。
『スキャンダル 託された秘密』(2012-)のディファイアンスの一件は、ブッシュとケリーが戦った2004年大統領選の「電子式投票システム不正疑惑」とそっくりだった。
そして、アフリカ系初の合衆国大統領が誕生した2008年の大統領選挙。
バラク・オバマの当選を後押ししたのは、『24 -TWENTY FOUR-』の頼れる黒人大統領=デヴィッド・パーマーの存在とも言われるが、アメリカにその素地を作ったのは『24』だけではない。
『ザ・ホワイトハウス』(1999-2006)で、バートレットの次の大統領を決める選挙は、民主党:サントス下院議員と、共和党:ヴィニック上院議員の争いだった。若いサントスと老練なヴィニックの対決は、2008年のオバマVSマケインの大統領選と重なる。
劇中で予備選が始まったのは2004-05年放送のシーズン6。大統領が決まる一般投票日のエピソードは2006年の4月に放送された。
オバマが正式に予備選出馬を宣言したのは2007年2月。翌夏に民主党の指名を獲得、大統領に当選したのは2008年11月。
オバマの大統領就任は、サントス大統領の誕生から2年半後のこと。
60年代生まれと若く、エネルギッシュでルックスも魅力的なオバマとサントス。「アフリカ系」「ヒスパニック系」の違いはあるものの、どちらもマイノリティー人種初のアメリカ合衆国大統領。
つまり、オバマ大統領の誕生は『24 -TWENTY FOUR-』が環境を整え、『ザ・ホワイトハウス』が予言したものだった!?
●女性の合衆国大統領はいつ?
では、期待されて久しい「女性初のアメリカ合衆国大統領」はどうか。
『マダム・プレジデント~星条旗をまとった女神』(2005-06)のマッケンジー・アレンも、(ごく短期だが)『スキャンダル』のサリー・ラングストンも、大統領(男性)が職務執行不能になったおかげで副大統領から大統領に就任。
アメリカ合衆国ではないが『バトルスター・ギャラクティカ』(2004-09)のロズリンもまた、継承順位が43番目だったのに、上位の人物がみんな死ぬか行方知れずになったため、棚ぼた的にコロニアルを率いることになった。
テレビドラマでは、合衆国法典に基づく大統領権限の継承順位により、いわば「お鉢が回ってきて」大統領になったケースがほとんど。どうやら、21世紀になっても「男性の現大統領に万が一のことがない限り、女性大統領は生まれないだろう」という先入観が強いよう。
そんな中、少例ではあるが『24 -TWENTY FOUR-』シーズン7/8(2009-10)のアリソン・テイラーは、みごと大統領選に勝って正式にホワイトハウスの住人になった。
『ポリティカル・アニマルズ』(2012)も、シーズンを重ねていれば、エレインが選挙に勝利して大統領就任・・・という展開になっていたかも?
ドラマの世界で「女性候補が選挙で男性候補を下して大統領に当選」という形がメジャーになったころ、現実の世界でも、女性の大統領を受け入れる準備が整ったといえるのかもしれない。
ただし、北欧・デンマークではドラマの世界がすでに現実となっている。
デンマークのドラマで初めて女性の首相が描かれた『コペンハーゲン/首相の決断』(2010-)。
デンマーク王国初の女性首相:ヘレ・トーニング=シュミットが就任したのは2011年。『コペンハーゲン』シーズン1放送の1年後だった。
40歳代の知的美人でコペンハーゲン在住、経済やビジネスに詳しい夫と二人の子どもがいる・・・というのもドラマの主人公・ビアギッテと同じ。総選挙で自党が過半数を取ることはなかったが、野党の間で話し合った結果、首相になるというプロセスもドラマと酷似。
これも、現実がドラマにようやく追いついた例ではないだろうか。
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●じゃ、次に起こりそうなのは?大胆予想してみる!
せっかくなので、今回のNAVIアワードのリスト作品を中心に、「もしかしたら予言となるかもしれない」ものを考えてみよう。
【混乱、荒廃した世界を予言!?】
『アンダー・ザ・ドーム』さながら、突然、街が壁に囲まれるってことはたぶんないだろうが、『REVOLUTION』の世界が「絶対ありえない」とは言い切れない。
「あの日」以来、エネルギー不足の危機を垣間見、電力問題に直面した国からすれば、そんなに現実離れした話とも思えず。「全世界が電力とテクノロジーを失う」というのはかなりムリがあるが、未知のエネルギーや技術をむやみに利用しようとした結果、人間の欲が暴走して予想外のハプニングが起こる可能性も!?
誰もが「世界の終わりはそう簡単に来ない」と思ってはいるが、《その時》は、ドラマみたいに意外と突然やってくるものなのかも。
【お騒がせ有名人の改心を予言!?】
海や山などで遭難、行方不明に→なんとか生き延び、数週間・数カ月後に発見→救出される→マスコミ大騒ぎ→一躍有名人に・・・というのはときどきあるが、ここはやっぱり、一般人ではなく、ゴシップ誌常連のいわゆる富豪の放蕩息子(娘)や、面倒ばかりやらかす困ったセレブに体験してもらいたい。
中途半端なリアリティショーの企画なんかじゃない、娯楽感いっさいナシの「超過酷なリアルサバイバル」。そのハードな経験を通じて、『ARROW / アロー』のオリバーのごとく生まれ変わった姿を見てみたい気はするのだが・・・
【移民社会の落とし穴を予言!?】
アメリカの不法入国者問題は相変わらず存在。ヨーロッパにも移民問題を抱える国は多い。政府の対応や不法移民に不満を抱いている人も少なくない。実際の動機が何であれ、『ブリッジ~国境に潜む闇』『THE BRIDGE/ブリッジ』のような事件が続発しないとも限らない。
日本でも、労働人口減少・少子高齢化問題対策で「移民を受け入れるべき」との意見もあるが、果たして・・・?
そもそも「ストーリーのリアルさ」が持ち味の作品は、予言ドラマになる確率も高い。
上記以外にも、実際の社会問題を前提にした法廷ドラマや医療モノ、現代社会の闇を背景とした犯罪捜査ドラマなどは、今後、類似事件が現実に起こる可能性はじゅうぶんにある。
エピソードレベルでいえば、これから先、もっと多くのドラマが「未来を予言」することになるかもしれない。
「劇的で、現実に起きる可能性はあるが、物語や設定はあくまでフィクション」であることは、エンターテインメントとして優れたドラマの条件のひとつ。
リアリティの追求だけが「良い作品」を生むのではないし、ただ現実を模倣すれば高品質のドラマができるというワケでもない。
ただ、ときに、現実がドラマに倣ったかと思うほどの展開にびっくりさせられることも。
「テレビドラマは作り物」「フィクションだから」と侮れない。
綿密な取材とリサーチを重ね、よく練られた脚本が支えるドラマには、的確に今をとらえ、時代の先を見据え、未来を読む力があるからだ。