
人気推理ドラマ『名探偵ポワロ』でタイトルロールを演じたデヴィッド・スーシェは、先代が築いたポワロのイメージに反発し、その裏には名探偵像を巡る知られざる苦悩があったようだ。
ポワロ像を守りたかったデヴィッド・スーシェ
米Slash Filmによると、原作の小説シリーズを生み出したアガサ・クリスティーは、70年代に公開された映画『オリエント急行殺人事件』を観て、コミカルに描かれたポワロ像に嫌悪感を抱いたと公言している。
1989年~2013年まで13シーズンにわたって放送された『名探偵ポワロ』に主演したデヴィッド・スーシェは、ポワロ役を演じるにあたり、翻案作品に対するクリスティーの見解を意識していたようだ。
過去のインタビューでデヴィッドは、常にクリスティーはポワロを非常に真面目な人物として描いたと主張し、ポワロは几帳面で風変わりな人物だが決して滑稽な人物ではないため、シリアスなキャラクターとして演じるべきだと考えたと語っている。また、ポワロのコミカルなキャラクター像は、シドニー・ルメット監督の映画『オリエント急行殺人事件』(1974)で、アルバート・フィニーが誇張した演技でポアロを体現したことが影響しているとも指摘していた。
しかし、デヴィッドがポワロ役を引き受けた時、この名探偵を道化者と見なす監督がいたという。シリーズ初期で10話を監督したエドワード・ベネットもその一人だった。デヴィッドは、ポワロを真面目な人物として演じることにこだわったため、関係者は一緒に仕事をするのが容易ではなかっただろうと認め、こう語っていた。
「ポワロを面白く、笑い者にしたがる監督がいました。かなり困難な状況だったし、そのせいで私は扱いにくい人間になってしまいました。だから今、私のことを厄介だと思った人たちに謝りたいです。アガサがポワロに望むことだけをするために、頑として譲らなかったからです」
当時を振り返ったデヴィッドは自身の言動に思うところがあったようだが、彼の演技アプローチは功を奏し、『名探偵ポワロ』は13シーズンも続く長寿シリーズとなった。
現在、ポワロの魂は名優ケネス・ブラナーの中で生き続けており、『オリエント急行殺人事件』(2017)をはじめ3本が公開されている。
『名探偵ポワロ』はPrime Video、U-NEXTなどで配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:『名探偵ポワロ オリエント急行の殺人』© ITV PLC