鬼才デヴィッド・リンチが手掛けたことで知られ、今もなおカルト的な人気を誇る『ツイン・ピークス』。海外ドラマ史に残る名作でありながら、「このドラマを全て理解している」と胸を張って言える人はどれくらいいるのだろうか?と思ってしまうほどに、難解な点も多い。それが『ツイン・ピークス』の魅力でもあるわけで、ファンは千差万別な解釈と、その共有を楽しんでいる。
今回は、そんな『ツイン・ピークス』に登場する個性豊かなキャラクターおよびキャストたちの秘密に迫っていきたい。
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目次
もう一人のデイル・クーパーと、もう一人のハリー・トルーマン
ローラ・パーマー殺害事件の捜査に乗り出す、FBI捜査官のデイル・クーパーと保安官のハリー・トルーマン。実は、我々が生きる現実世界に同じ名を持つ人物が存在していたという。
クーパーの名前は、1971年「D.B.クーパー事件」の犯人とされる男に由来している。その男は身代金を手にパラシュートで飛行機から飛び降り、そのまま姿を消した伝説のハイジャック犯で、数十年が経った今も、その正体は暴かれてない。
一方ハリーは、セント・ヘレンズ山近郊にあった「スピリットレイク・ロッジ」のオーナーの名前に由来する。1980年、以前より異変が報じられていたセント・ヘレンズ山は、123年ぶりに噴火。オーナーは火砕流により死亡したと推定されている。不思議なのは、噴火が予想されていたにも関わらず、彼が避難を頑なに拒んでいたこと…。
ただの死体としてしか登場しない予定だったローラ・パーマー
シェリル・リーは当初、死体になったローラ・パーマーに扮するだけの役割だった。しかし、彼女の演技力を目の当たりにしたリンチが、ローラ・パーマーの従姉妹にあたるマディ・ファーガソンという役柄を書き下ろしたという。
他とは一線を画すような異質な魅力を放つ人物を見つけるのに長けているリンチだが、才能を見出す審美眼もピカイチ。物語にローラやマディが登場することによって、そしてそれらをシェリルが見事に演じきることによって、より謎めいた空気が作品全体に充満し、シリーズに深みを与えた。
ジョシー役は監督の元カノが演じる予定だった
製材所の経営者の未亡人で、保安官のハリーと密かに交際しているジョシーことジョスリン・パッカード役には、当初イザベラ・ロッセリーニがキャスティングされていた。ロベルト・ロッセリーニ監督とイングリッド・バーグマンの間に双子の姉として生まれ、ランコムのモデルを14年間務めるなど、誰もが認める美貌の持ち主として知られるイザベラ。1986年公開の映画『ブルー・ベルベット』ではその演技力で高い評価を得たが、同作で監督を務めていたのがリンチだ。
イザベラとリンチが交際していたというのは有名な話だが、『ツイン・ピークス』の頃には、その関係に終止符が打たれていたとのこと。別れたカップルが一緒に仕事をすることほど気まずいものはないし、周りのキャストたちにとっても、この変更は最善策といえるかもしれない。
イザベラの代わりにジョシーに息を吹き込んだのは、上海出身のジョアン・チェン。切なげな表情が印象的で、彼女の演じたジョシー以外のジョシーは今では想像もつかないほどだ。
“片腕の男”とTVドラマ『逃亡者』
作品の中に「引用」を見つけるのは、いつだって楽しいもの。『ツイン・ピークス』は、最も印象的なキャラクターの一人“片腕の男”によって、1963年のテレビドラマ『逃亡者』にオマージュを捧げている。
アル・ストロベルが演じる“片腕の男”は、元々はパイロット版のみに登場する予定だったというが、1992年公開の映画『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』や2017年に製作されたリバイバル版『ツイン・ピークス The Return』といった関連作品でも大活躍。他のどんな人物でも替えがきかない、物語にとって重要な役割を果たした。
日本人俳優“フミオ・ヤマグチ”
自らの死を偽装して日本人実業家に成りすましていたキャサリン・マーテル。撮影時、キャサリンを演じたパイパー・ローリーもまた、黒澤明などの映画に出演している日本人俳優“フミオ・ヤマグチ”に成りすましていたという。
これは他のキャストたちに対して、キャラクターや筋書きを伏せる必要があると判断したリンチの指示によるものだったそう。ノーマ・ジェニングスに扮したペギー・リプトンは、イザベラ・ロッセリーニ(前述の通り、リンチの元カノである)が変装しているのでは?と疑いの眼差しを向けていたという。
フィルム・ノワールに由来する役名
『ツイン・ピークス』には、フィルム・ノワール(一般に1940年代から1950年代後半にハリウッドで盛んに作られた犯罪映画)の引用が散見される。例えば、保険外交員のネフというキャラクターが登場するが、これは1944年公開の『深夜の告白』の主人公であり、保険会社の敏腕外交員であるウォルター・ネフと同じ名前。
監督であるリンチ本人が演じているFBI地方局長ゴードン・コールもまた、1950年公開の『サンセット大通り』に登場するキャラクターの名前からとられている。『サンセット大通り』はリンチのお気に入りの作品だそうで、そこに登場するゴードン・コールは、バート・ムアハウスがクレジットなしで演じた、実に地味な脇役である。
ボブは予期せぬキャスティングだった
物語をより奇妙で恐ろしいものにしたのは、ボブというキャラクターの存在が大きいだろう。しかし、このボブを演じたフランク・シルヴァは当時、俳優をしながらセットの道具係として『ツイン・ピークス』の撮影に参加していたスタッフだったという。
ローラの母親であるサラがトラウマ的なことを思い出しているシーンを撮影中、スタッフの写り込みを発見したカメラマンが、そのことをリンチに報告。写りこんでいたスタッフは、シルヴァだった。この偶然の出来事を通して、リンチはボブという役を正式な登場人物として起用することを決定したそうだ。
参照元:米ScreenRant
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Photo:『ツイン・ピークス』公式Instagram(@twinpeaks)より