あおり運転から始まる報復合戦!『エブエブ』でオスカー制覇のA24最新ドラマ『BEEF/ビーフ』に釘付け

映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(以下:『エブエブ』)で第95回アカデミー賞®️主要7部門を独占しながら、世の映画ファンを賛否の渦に巻き込んだ気鋭の制作会社A24。「これでこそ時代の寵児!」と心の中でガッツポーズをしたものだが、最新ドラマシリーズでまたしても真骨頂を魅せてくれた。4月6日よりNetflixで配信がスタートした『BEEF/ビーフ ~逆上~』。これがとにかく面白い!【ドラマレビュー】

『BEEF/ビーフ』レビュー

『BEEF/ビーフ』あらすじ

L.A.郊外で建設業を営むダニーは、ホームセンターの駐車場でメルセデスのSUVを運転する女性エイミーに激しくクラクションを鳴らされ、なぜか中指まで立てられ、一気に怒りのスイッチが入る。二人は激しいカーチェイスを展開し、その日以来、行く先々で遭遇する憎き相手と小競り合いを繰り返しながら報復合戦はどんどんエスカレート。やがて家族や仲間を巻き込んだとんでもない大事件に発展していく。

さまざまな社会問題を浮き彫りに

主演を務めるのは、『ウォーキング・デッド』のグレン役で知られ、A24制作の『ミナリ』や『NOPE/ノープ』など映画界でも活躍するスティーヴン・ユァン(ダニー役)と、Netflix映画『いつかはマイ・ベイビー』のアリ・ウォン(エイミー役)。あおり運転から始まる負の連鎖…ひねくれた性格が体中からにじみ出ている二人(とくにエイミーにムカッ!)が事あるごとにバチバチ激突するのだが、マルチバースへの“ジャンプ”などSFチックな設定は一切なし、リアル社会での破天荒なカオスが視聴者のハートを釘付けにして離さない。いわば『エブエブ』を超わかりやすくしたアジアン・ファミリーの物語なのだ。

それにしても、あおり運転はもはや世界共通の問題なのだろうか。車社会のアメリカではクラクションを鳴らしただけで一触即発なんて日常茶飯事、しかもドライバーの感情のコントロール機能が年々低下しているため、最悪の事態を招くケースもあるようだが、本作はそんな逆上心理(=BEEF)を引き金に、根深い人種差別、古い家父長制、アメリカンドリームの落とし穴など、さまざまな社会問題を浮き彫りにする。

“罵り合い”に一喜一憂

ダニーとエイミーの心をここまで捻じ曲げたものは何だったのか? 単なる性悪なアジア系アメリカ人のトラブルとして片付けていい話なのか? 二人にムカつきながらも心の中でいろんな押し問答を繰り返し、最終話までその“罵り合い”に一喜一憂させられるのだが、問題は物語の落とし前だ。果たしてこの二人、どんな末路を迎えるのだろうか…。ネタバレになるのでこれ以上は言えないが、ただ一つ、あんなに憎々しかった二人に、まさかこんなにも号泣させられ、そしてカタチはどうあれ、こんなにも“愛に満たされた気持ち”になるなんて想像もしなかった。実に見事な伏線回収…どんでん返し…? いやいや、実に見事なZ難度のビューティフル・フィニッシュ! 改めてA24のチャレンジ精神に驚嘆させられた。

(文/坂田正樹)

Photo:『BEEF/ビーフ ~逆上~』© 2023 Netflix, Inc.