イギリス貴族と使用人たちの人間模様を描き、世界中で人気を集めたドラマシリーズ『ダウントン・アビー』の映画版第2弾『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』が、いよいよ9月30日(金)から劇場公開になる。シリーズの生みの親にして、脚本・製作を手がけるジュリアン・フェローズがダウントンの魅力を語ってくれた。
ジュリアン・フェローズは、イギリスの脚本家・小説家・映画監督・俳優。2001年の映画『ゴスフォード・パーク』でアカデミー脚本賞を受賞。2010年からスタートした『ダウントン・アビー』ではエミー賞脚本賞(ミニシリーズ・テレビ映画部門)を受賞するなど高い評価を受け、世界的な大ヒットとなった。ほかにも、映画『ヴィクトリア女王 世紀の愛』、TVシリーズ『ベルグレービア 秘密だらけの邸宅街』、『ザ・イングリッシュ・ゲーム』、『ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代- 』など、歴史ドラマを中心に人気作品を生み出している。
――まず、『ダウントン・アビー 新たなる時代へ』はどのような作品でしょうか。
今作には二つのプロットがある。一つは一行が南仏に行くこと。いつものメンバーを自分たちの家という安全なテリトリーから違う場所に連れていったら面白いんじゃないかと考えた。もう一つは、ダウントンで映画撮影が行われること、つまり20世紀の進歩についてだ。これは共同製作のギャレス・ニームの逸話にもとづいている。彼の祖父は1920年代にヒッチコックの映画で働いていたが、製作の途中でサイレントからトーキーに作り替えなくてはならなくなったという経緯がある。
――おなじみのキャラクターと再会できてとてもうれしいのですが、メアリーの夫ヘンリー・タルボットはいませんでしたね。
ヘンリー役のマシュー・グードのスケジュールが合わなかった。再度日程を組み直すには、映画の製作が1年も遅れてしまうことになる。マシューは素晴らしい俳優で、残念だったが仕方がなかった。
―― 一方で、ジャック・バーバー、ガイ・デクスター、マーナといった新しいキャラクターが登場しました。
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3人とも、ダウントンのスタイルを素早くピックアップしてくれて素晴らしかった。ドミニク・ウェスト(ガイ役)とはこれまでも一緒に仕事したことがあるが、素晴らしい俳優だ。ローラ・ハドック(マーナ役)とは初めてだったが、彼女も素晴らしいと思った。二人のキャラクターは、悲劇的と言えるが、同時に面白おかしくもある。ヒュー・ダンシー(ジャック役)もツボを上手く押さえて、ミシェル・ドッカリー(メアリー役)と共に二人の関係性をうまく演じてくれた。
――バイレット・クローリー役のマギー・スミスはいつも素晴らしいですが、特に今作の演技に感動しました。
マギーは言ってみれば、みんなの教母だ。特に駆け出しの若い役者たちに親切でやさしい。シリーズが始まったとき、ローラ・カーマイケル(イーディス役)は少し前にドラマスクールを卒業して受付の仕事をしていたのが、突然撮影セットでマギーと共演することになったのだから、かなり緊張したと思う。マギーが教母の役目を買ってでてくれたのは、ドラマにとっても役者たちにとっても助けになることだった。
――タイトルを『新たなる時代』にした理由はなんでしょうか。
第一次世界大戦以前の世の中に戻ることはもうないと人々が受け入れたのが、1920年から1930年にかけてのことだと考える。その後、多くの貴族は存続を諦め、多くのマナーハウスが取り壊された。いわば異なる局面に進んでいった時代だ。今作では、映画の移り変わりを使うことによってそれを象徴化した。メアリーが生まれた1890年頃には起こらなかったことだが、今は違う世の中に生きている。これがタイトルの意味していることだと思う。
――あなたの作品が人気を集める秘密は何でしょう。
どうしてだろうね、失敗作もあるよ(笑)何と答えていいかわからないが、人々が直面するさまざまな苦境を代わりに表現しようとは思っている。視聴者とキャラクターでは、生きている時代やライフスタイルが違うかもしれないが、その苦境のなかにある真実を見つけてほしいと思う。多くのTVドラマが連続殺人犯や犯罪などを描くが、人々は日常的に連続殺人事件に遭ったりしないだろう。家計や子どものことを心配し、仕事や結婚生活は上手くいくかということを日常的に考えている。私はそういったものをドラマにしたいと思っている。スクリーンのなかで登場人物が問題を解決すると、視聴者が同じような問題に直面したときにそれを思い出すことができる。階級や時代や年齢に問わずだ。
――『ダウントン・アビー』で描かれる貴族の生活や階級社会は興味深いものがあります。
大衆は貴族からどうしろこうしろと命令されることは望んでいない、その時代は終わった。しかし、多くの英国民はエリザベス女王のことをとても尊敬しているし、女王は素晴らしい功績を残した。ドラマ『ザ・クラウン』がフィクションということに気付いていない視聴者が多いが、それでも異なるライフスタイルを知ったり、カントリーハウスを訪れたりするのは興味深いことだ。貴族は貴族の生活があり、我々には我々の生活があるというのが、21世紀のスタイルで、ダウントンの時代は、その流れが始まった時だ。第一次世界大戦後の50年間ですべてが変わり、貴族がコントロールする権力を失うという世界に至った。私がこの時代のドラマを描いているのは、時代の変化というものに興味があって、ドラマ化にぴったりだからだ。
――ダウントン・アビーの世界には、まだまだ語ることができる物語がありそうです。続編、もしくは前日譚、スピンオフなどの構想はありますか。
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これが最終作と言って、キャラクターに別れを告げる度に、その数カ月後には新しい脚本を書くはめになっているから、同じ間違いを繰り返して、サヨナラを言うことはもうしないよ(笑)需要や関心がある限り、やらない理由はない(笑)
――現在進行中のプロジェクトはありますか。
今は『ギルデッド・エイジ -ニューヨーク黄金時代-』シーズン2の撮影を行っている。キャラクターも良いし、コスチュームや舞台セットも素晴らしいドラマだ。
――最後に日本のファンへメッセージをお願いします。
日本にダウントンのファンがいることをとてもうれしく思う。個人的にも日本の歴史に興味を持っていて、日本を舞台にした歴史ドラマのセットを見てみたいと思っている。例えば、19世紀末頃の日本とか。あまり知られていないから、とても興味があるよ。
映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は、9月30日(金)より全国公開。
(名取由恵 / Yoshie Natori)
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