ダメな子ほどカワイイ!「ダメ主人公」こそが、海外ドラマの面白さを左右する

コメディに「ダメキャラ」はつきもの。むしろそれだけで成り立っているものも多い。
しかし実際には、ドラマにも同じぐらい「ダメキャラ」が隠れている。

シリアスドラマの張りつめた空気を和ませるのに欠かせないコミックリリーフ。
見ている側が優越感に浸ってしまいそうな「誰がどう見てもダメ」「いつもドジな三枚目」のサブキャラであることが多いが、より共感しやすいのは「パッと見、そうでもないのに実はダメな人」。

一見パーフェクトなメインキャラに、微妙にダメなところがあるとぐっと親近感が湧く。
仕事では誰もが認めるエキスパート。直感鋭く経験豊かなのに、いざ自分のこととなるとまるでダメ。恋愛に関しては特に不器用。
妻子持ちの大統領と不倫したり、関係を断ち切ろうとしてもできなかったり。
よき妻のはずが夫に裏切られ家庭は崩壊、弁護士復帰して昔からの友人/上司と職場恋愛するも、いまだ残る夫への愛情に葛藤したり。
元教え子で若い部下からのアプローチに戸惑い、惹かれながらもブレーキをかけてみたり、そうかと思えば内緒の交際を始めてみたり。

優れた人物像の中に垣間見える弱さと不完全さ。コレがキャラクターに奥行きを与え、共感を呼ぶ。
グリッソム『CSI:科学捜査班』)も、あからさまに葛藤してやや情けない部分をさらしたからこそ、彼のチャーミングさが際立った。おかげで、切ない中年の恋を応援したくなったファンも少なくないはず。

このコラムでは、そんなダメ主人公にスポットを当てていきたい。

「主人公=隠れダメキャラ」がヒットドラマのセオリー

主人公に思いがけない弱点を与えるのはフィクション製作の王道。

「美女(美男)なのに結婚できない」
「仕事は充実しているのにプライベートが悲惨」
「IQは高いのに対人スキルがゼロ」
「○○なのに××」なギャップは物語が始まるきっかけとなり、作品世界と受け手をつなぐお約束になる。

泣く子も黙るマフィアのボス「なのに」パニック障害でなければ『ザ・ソプラノズ』は始まらなかったし、凶悪犯罪を解決に導く鑑識官「なのに」生来の殺人鬼という設定だったから『デクスター』は興味深く、冷静必須のCIAエージェント「なのに」精神のバランスを崩した粘着質じゃなければ『HOMELAND』もスリリングさを欠いていたに違いない。

医療/法律/犯罪捜査モノが定番ジャンルの米ドラマでは、主人公が医者・法律家・捜査官などのいわゆる「知的エリート職」であることが多いが、この設定もダメキャラ強調には効果的なツール。
「表向きはマトモなのに実はダメな子」――そんな意外性がキャラクターに人間味を持たせる。

ブレナンが、感情豊かで人付き合いの上手な常識人だったら?
ジャッキーが、健全でモラリスト、正直者のナースだったら?
ハンクが、スランプ知らずの売れっ子小説家で、理性的かつ誠実だったら?
ホームズが、薬物依存症にならず、ロンドンにとどまっていたら?

作品を担う主人公がそこそこダメ人間でなければ、おそらく『BONES』も『ナース・ジャッキー』も『カリフォルニケーション』『エレメンタリー』も面白さ半減、番組もここまでヒットしなかったかも。

単に「エリート」「美形」「デキる」だけの人間に魅力はない。ダメなところがなければ人気キャラにはなりえない。登場人物に魅力と人気がなければ作品はヒットしないし、はっきりいえば、メインが「ダメな子」じゃないとドラマはつまらない。

メレディス&デレク夫妻は美形の有能ドクターだけど、いつもウジウジしてしょっちゅう生命の危機にさらされている。キャリー・ブラッドショーは、おしゃれコラムニストだけどオンナとしてはややだらしないし、グレゴリー・ハウスの傲慢さとお約束のように症状を悪化させる手口は、患者やその家族からいつ殴られてもおかしくない。

何かしら欠落したところがあって、つい愚かなことをしてしまう弱さを持ち、人の神経を逆なでするぐらいアクが強い「ダメな子」のほうが、引力のある主人公になりうる。

古今東西、ダメ主人公は人気者だった!

洋の東西を問わず、昔から「不完全な英雄」「堕ちたヒーロー」の物語は広く好まれてきた。

救国の英雄でありながら、(知らずに)実父を殺し、実母と交わったことで破滅に向かうオイディプス。身から出たサビとはいえ、真実を知れば傷つくのは明白。よせばいいのに本当のことを知ろうとする。観客は、彼への同情と運命や神託に対する畏怖の念を抱き、同様の悲劇が自分に降りかからなかったことに胸をなでおろす。

不遇の少年期から一転、天賦の才で英雄になった源義経はピュアさ・未熟さゆえに転落。まっすぐで人を信じやすく、謀られ騙された挙句、報われずに気の毒な最期を迎えた。『ゲーム・オブ・スローンズ』ネッドスターク家の人々もまた「判官贔屓」の心情をくすぐるキャラクターといえる。

死んだ妻を冥界へ取り戻しに行くも、「見るな」といわれた妻の姿を見て台無しにしたオルフェウスとイザナギ。禁じられている・良くないとわかっているのに、つい手を出して痛い目に遭う。
欲望に負けてタブーを破ってしまうこの手のタイプ、海外ドラマでは依存症のキャラクターに多い。堕ちたくないのに堕ちるばかり、どん底から抜け出したいのに抜け出せない。負のスパイラルに陥ってもがく彼らの姿を、視聴者はハラハラしながら見守るしかない。

シェイクスピアが描いたマクベスは、《魔女の予言》というなんとも不確かなものに頼りきり、野望のために複数の命を奪っておきながら、大事なところでビクビクしちゃう小心者だった。

才能あるだけに自信家で自己中。悪行の限りを尽くすも、弱さ・愚かさが見え隠れして好感すら覚えてしまう。『ボルジア家 愛と欲望の教皇一族』ロドリーゴ『ハウス・オブ・カード』フランク『ボードウォーク・エンパイア』ナッキーなどはこのタイプのダークヒーロー。やりたい放題で憎たらしいけど、堂々とした面の皮の厚さがうらやましくもある。

一方、「とにかくいい人」だとか「何かしらの特技がある」とかいう以外はどうってことない寅さんタイプも。ベースがおバカだったりサエなかったりするので、ちょっとした言動がダイヤモンドの輝きを放つ。コロンボ『刑事コロンボ』)のように、周囲に面倒くさがられながらも愛される主人公の代表格。

そうは言いつつ、やっぱり「イラっとする」?

人間的魅力あふれるダメキャラではあるが、その反面、嫌われる危険性も。

どんなにその番組が好きでも、特定の登場人物にイラつくことはある。
《悪役だから》とか、《身近にいたら許せない》とか、《とにかくバカ》《ウザい》とか、《俳優が好きじゃない》とか、理由はいろいろ。
・・・しかし、番組を見続けるうち、その鼻につくキャラクターがなぜか逆にだんだん好きになってくることも!?

そんな場合、往々にしてそのキャラと自分には共通点があるもの。
もしかしたら、その嫌悪感は「自分にもあるイヤな部分」を突き付けられるからかもしれない。
本当は目をそらしたい欠点を指摘されれば、誰でも最初は気分が悪い。でも、自分と似た悩みを抱え、あえてダメな部分を露呈して奮闘する彼らの姿に、抑圧してきたコンプレックスが解放されるかのようなカタルシスを感じる。

「見ていてイラっとする」が、「なんだかクセになる」か「うんざりして二度と見たくなくなる」か、どっちに転ぶかは紙一重。逆に、今は反感を持っていても、愛すべき登場人物に変わる可能性があるということ。

見るたびイライラ・げんなりする登場人物がいるなら、目をそらす前にちょっと広い心で見守ってみてはどうだろうか。そのキャラのダメさ加減が、作品を面白くしていることに気づくかもしれない。

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