数多くある海外ドラマの中でも特に私の好きなジャンルといえば犯罪捜査系ドラマ! 今回はFBI(アメリカ合衆国連邦捜査局)に焦点を当てているドラマについて書きたいと思う。
米国に長年暮らしている私だが日常生活でFBIエージェントにお眼にかかったことはない。自分が暮らす街にも立派な建物のFBI支部もあるが、いつも素通り。イヤ、でも彼らはスーツ姿が多いから上着の下にバッジを隠していれば気がつかないだけかな? もしかしたらコーヒー・ショップとかで会っているかも? "アンダーカヴァー"と呼ばれるオトリ捜査で別人になりきっている可能性もあるから、実は近所に暮らす"あの人"がFBI勤務だったりして...ハイ、ドラマの観過ぎです(笑)。
だからこそ「FBIの実態を知りたい!」と思い、自分が学生の時にはワシントンD.C.にあるFBI本部の一般見学ツアーに参加したこともある。20人ほどのグループでFBI広報担当の人と一緒に本部内を見学し、FBIの歴史、活動内容を説明してもらい、紹介ビデオも観て、射撃練習場も覗いて、質疑応答コーナーなどもあって、FBIのロゴ入りTシャツもおみやげコーナーで購入して、非常におもしろかったことを覚えている。(残念ながら現在は保安上の面からツアーは催行されていない)
広大な国土を持つ米国は州によって全く法律が違うことも多い。通常の事件は地元警察や保安官(シェリフ)事務局が扱っていることが多いが、誘拐事件、銀行強盗事件、スパイ・テロリスト事件などは複数の州にて実行したり、逃走したりするのでFBI管轄の場合が多い。連続猟奇殺人事件も単独犯行もありえるがコピーキャット(模倣犯)の仕業も多く、FBIが事件を担当することも多い。
連続猟奇殺人といえば、米国では1月に待望のシーズン2が放送開始されたばかりの『ザ・フォロイング』。 このドラマは、退職した"元FBIエージェント"のライアン・ハーディ(ケヴィン・ベーコン)が、現役FBIエージェントと意見を対立させながらも、刑務所から脱獄したサイコパス・シリアル・キラーのジョー・キャロル(ジェームズ・ピュアフォイ)を執念深く追い駆けるストーリー。元大学教授のキャロルは言葉巧みに人を操ることに優れ、彼独特の魅力に取りつかれた狂信的な崇拝者(フォロワー)が世間にいっぱい潜んでいるから要注意! このドラマについては後にジックリふれることにしよう!
現在放送中のドラマでFBIの様子が分かりやすくカッコ良く描かれているドラマといえば、まず『クリミナル・マインド FBI行動分析課』だろう。このドラマのFBIエージェントのアーロン"ホッチ"ホッチナー(トーマス・ギブソン)は、私の中で限りなく"典型的なFBI捜査官"のイメージに近い。仕事中は眼つき鋭く、ニコリとも笑わない。スーツ姿はホレボレするくらい決まっている。事件解決に人生を賭けている!と言っても過言ではない。ベッドの中も仕事のことばかり考えて眠りが浅そうだし...(笑)。そして「FBI!」とドアを蹴る姿がサマになる野生派デレク・モーガン(シェマー・ムーア)、話し始めたら止まらない"物知り"博士のスペンサー・リード(マシュー・グレイ・ギュブラー)、コンピューター関係お任せのペネロープ・ガルシア(カーステン・ヴァングスネス)など個性豊かなメンバーが揃って、FBI主役のドラマをよりおもしろくしていると思う。
シーズン7まで続いた『WITHOUT A TRACE/FBI 失踪者を追え!』は、FBIニューヨーク支部の失踪者捜索グループのメンバーが主役だ。このドラマの特徴は失踪者が必ずしも死亡しておらず、最終的に生息しているケースが多いこと。そして登場するFBIエージェントたちが『クリミナル・マインド』より、人間臭く描写されていると思う。リーダーのジャック・マローン(アンソニー・ラパリア)は上司とは対立、部下とは一時不倫状態、妻とは離婚、仕事熱心だが感情の起伏が激しく涙を流すことも多い。他のメンバーたちも私生活に悩みや問題も多く、メンバー間での恋愛関係も多い。でもだからこそ人情味あふれるドラマとして人気があったのだろう。
そしてドラマの中のFBIエージェントや刑事は仕事熱心なあまり、別居、離婚など私生活が上手くいかず、孤独で哀愁が漂っていたりすることも多い。 どんなに多忙であっても、凶悪事件から人を助けるという"やり甲斐のある"仕事を辞めることはできないのであろう。「あんなに私生活を犠牲にしてまで仕事を頑張っているのに...かわいそう」と、私たちは更に彼らに感情移入してしまうのかもしれない。
また"お決まり"と言っていいほど、ドラマの中では各州の地元警察や保安官事務局は、FBIと仲が悪いケースが多い。ニューヨーク市警察(NYPD)やロサンゼルス市警察(LAPD)が主役のドラマで、「この事件はNYPD(LAPD)の管轄だから余計な首を突っ込むな!」「いや、この事件は連邦政府の問題だからFBIが仕切る!」なんていうセリフのやり取りを皆さんも聞いたことがあるだろう。
LAPDが舞台の『クローザー』では、LA市警チーフであるブレンダ・リー・ジョンソン(キーラ・セジウィック)の夫は、FBIエージェントのフリッツ・ハワード(ジョン・テニー)。このドラマを観ていると、警察勤務のブレンダのほうがFBI勤務のフリッツより仕事が多忙に思える。ブレンダが帰宅すると既にフリッツは一人寂しく中華料理のテイクアウトを箱のまま食べているシーンが多いし、ブレンダの部下から電話がかかってきて、フリッツを置いてブレンダが家を去るシーンも多い。仕事熱心なあまり"度"が過ぎる要求の多いブレンダに困り果てても「フリッツィ~お願い♪」なんて甘い声で囁かれると、本当はFBI極秘情報なのにブレンダにコッソリ教えてしまうフリッツ。フリッツは"優秀なFBIエージェントにもかかわらず、それほど多忙ではなさそうで(笑)優しい最高の夫!"のイメージが私にはある。
FBIエージェントがメインではなく、別の職業を持った主人公がFBIに知恵を貸して事件を解明するドラマもある。
前述のジョン・テニーが私立探偵として活躍する『King & Maxwell』。残念ながら昨年米国でシーズン1のみで終了してしまったが、ジョンとレベッカ・ローミン演じる男女の私立探偵が、頼りないFBIより先回りして事件を解決してしまうドラマだ。『パーセプション 天才教授の推理ノート』では、統合失調症を抱える大学教授ダニエル・ピアース(エリック・マコーマック)が、自分の得意とする神経科学を活かした観点から犯罪コンサルタントとしてFBIに協力する。これらのドラマは、FBIが自分たちだけでは事件を解決できない...という少々情けない立場で描かれている。
そしてもうひとつ別のタイプのFBI関連ドラマと言えば、登場する悪人が頭脳明晰で手強過ぎてFBIのお株を奪ってしまうドラマだ。
日本でも放送開始が決定した『ハンニバル』は、ご存知『羊たちの沈黙』で有名なキャラクターのハンニバル・レクター博士(マッツ・ミケルセン)対FBIのストーリー。レクター博士は知的でエレガントな精神科医、しかし裏の顔は連続猟奇殺人犯である。博士の本当の正体を知らずに、仕事依頼のために博士に近付く特別捜査官ウィル・グレアム(ヒュー・ダンシー)と行動科学課主任ジャック・クロフォード(ローレンス・フィッシュバーン)が、いつレクター博士の正体を見破るかがポイントだ。そして他のFBIエージェントとウィルが違う点は、人付き合いが苦手で情緒不安定で本人いわく自閉症なところ。しかしだからこそ他のFBI関係者とは別の視点で事件を解明する才能を持つウィル。レクター博士とウィルの奇妙な師弟関係も気になるドラマだ。
同じく日本で放送スタートの『ブラックリスト』。FBI最重要指名手配犯レイモンド"レッド"レディントン(ジェームズ・スペイダー)が突然自らFBIに出頭して、FBIが喉から手が出るほど欲しい犯罪者リスト(=ブラックリスト)掲載の凶悪犯逮捕に、条件付きでFBIに協力するサスペンス。謎多き人物レッドに、新人捜査官のエリザベス・キーン(メーガン・ブーン)が果敢に挑戦していくが、FBIよりも迅速で詳細な情報網を持つレッドのほうが何枚もウワテで痛快だ。
そして冒頭でも少し紹介した『ザ・フォロイング』は、元FBIエージェントのライアンが中心となり、現役FBIだけでは解決困難な事件の真相に迫っていくわけだが、当然"現役"関係者は、先頭に立つライアンの存在がおもしろくないから、ライアンに懐疑的でなかなか上手く事が運ばない。しかし一匹狼のライアンにも若手FBIエージェントのマイク・ウェストン(ショーン・アッシュモア)という頼りになる存在もいる。シーズン通しての強敵キャロルは異様なカリスマ性があり、周囲の法執行関係者までも、キャロルの息がかかった手下の可能性があり、誰が裏切り者か分からないから油断禁物だ。このドラマには「どうしてそうなるの!? なぜそうしない!? あ~それをしたらダメ!」とハラハラしながらも、ローラー・コースターのようなストーリー展開に心臓ドキドキして観続けてしまうおもしろさがある。そしてやはり...主人公は孤独なのだ。ライアンは昔の事件がもとで心臓にペースメーカーを入れ、アルコール依存症気味で対人関係も上手くいっていない。視聴者は、一瞬フラ~ッとキャロルの放つ悪の香りに魅了されそうになるが、キャロル逮捕に必死なライアンを応援せざるを得なくなってしまうのだ。
いつの時代もFBIが主役のドラマは永遠に続くほど大人気だ。現在放送中のドラマの今後の展開も楽しみだし、これから更にどんな新しい犯罪捜査系ドラマが生まれるか興味は尽きない。
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