尾崎英二郎が斬る! 「間違っている"日本"の描写があれば戦う‼」

2014年2月5日(水)からDVDコレクターズBOX2がリリースされる『TOUCH/タッチ』。世界のあちこちで起きている全く無関係のようにみえる出来事が、見えない赤い糸で徐々に繋がっていく――俳優の尾崎英二郎さんに、本作の魅力や共演者の印象、日本人俳優として肌で感じることなど、たっぷり伺うインタビュー企画、後編をお届けします。

――『TOUCH』では第1話のPilotに出演されていますが、海外ドラマ・シリーズですとパイロット版を撮影する段階では実際に放送されるのか、あるいは今後何話まで続くのかわからないことが多いと思います。すでに継続しているシリーズのオーディションを受けられるときとは、やはり気持ちなどは違いますか?

多少は違いますよ、やっぱり。例えば新しい番組を作るために、もちろん有能な方たちがプロデューサーになって、新鮮な俳優を使うということになって、オーディションの情報が来るわけですけど...。例えば、初めて見るキャスティング・ディレクターの名前とか、クリエーターやプロデューサーの方だとか、監督さんとか。日本人の悪いところで、知らない名前だと少し甘く捉えてしまうという反省点は度々あります。その製作陣の知名度で、オーディションへの取り組み方に温度差が出てしまうとか。日本人として自分の中にも、どうしても過去の実績や名前で判断するクセが染み付いていたりしますから...。つい、「この作品、どんなものになるんだろうな?」って。ただ本当は、そこでジャッジしてはいけなくて、台本をちゃんと読み込んでみないとわからないんですよ。台本が凄く優れて書かれていれば、「これ、いい作品になりうるな」って気合も入るんですね。

『TOUCH』に関しては、もちろん全く不安感はなかったですね。例えば、TV局にピックアップされるかされないか、ある程度の段階まで仕上がってみないとわからないわけですけど...。いくらPilotといっても、さすがにティム・クリングさんが率いていて、キーファーがいて、「最強の布陣だな!」っていうのがありましたから。オーディションを受ける段階でも、何の不安もなかったですし、むしろ光栄だと思いました。「ああ、呼んでもらえた」って。それで、台本を見てみたら、さらに「これは間違いないよな」って思えましたから。ちょっと他の作品の、本当に新しい作品のパイロット版とは違いますよね。この作品に関しては。

――そういった本当に新しい、未知の作品のパイロット版のオーディションを受けられるときには、不安を感じられることもありますか?

未知の新作の場合は不安はありますね。どうしてかっていうと、僕らには9割以上、どうしても日本人の役が来るわけですよ。僕は日本生まれで、アメリカにわたったのは30代後半ですからね...。日本人の血が完全に根付いているわけですよ。突然、アメリカ人の血というか、性格とか、文化とか全てを表現するって、むしろ難しいことじゃないですか? 逆もそうですけど、アメリカ人で、例えば日系のアメリカ人の方とか、韓国系の方とか中国系の方とか、たくさんいらっしゃるんですけど、いきなり日本人を演じろっていわれても、やっぱりそれは難しいわけですよ。そうなると、基本的には日本人の役柄を演じることが多いんですけど...。日本人の役柄が来た時に、歪んだ描写とか、ステレオタイプの人物像もいっぱいあるわけですよ。やっぱり。その作品とか、監督とかが信用できるかどうかっていうのは、過去の作品をみれば、「この人だったら大丈夫だ」というのがあるわけですけど...。全く知らない作品だと、どれぐらいのクオリティになるかがわからないリスクって言うのはありますね。

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――今のお話にもありましたけれども、海外ドラマでも映画でも、"日本人"や"日本"が描かれるときに、実際の日本人から見ると「違うだろう!」と思ってしまうことも多いのですが、ご自身で出演する作品で「違う」と思ったらそういった指摘をされますか?

僕は言います。どういう段階で言うかというと、まず、オーディションを受ける時に台本が来て、その台本の台詞が日本語で書かれている時もあるんですよ。これは、たぶん日本語が少しわかる脚本家の方が一生懸命に...、直訳したり、翻訳ソフトなども駆使して訳しているのかもしれないですけど、支離滅裂な台詞になっている時もあるんですよね。「ん?これ、どういう意味だ?」っていうくらい、文章になっていない時さえあります。そういう時は、「英語の台本もください」とお願いしています。英語の台本を見てみると、「これは、こういう日本語にすれば、このシーン成立するのになぁ」って、思いますよね...。それで、キャスティング・ディレクターとかに「これって日本市場にも売るの? そういう構想はありますか?」って、もう聞いちゃうんです。「もしそうだとしたら、これはこのままじゃ、日本の観客・視聴者は納得しませんよ? だって意味が通じないから」っていうところまで言うんですよ。でも、それを嫌がる人もいっぱいいます。「脚本家が書いたようにやってくれ!」って言われる場合もやはりあります。そういう時はちょっと心の中で火花も散ります(笑)。だけど、そこから戦わないとね。

 

中には「そのままやってちょうだい」って言われて、その意味が通じていない片言っぽい日本語のまま、演じてしまう俳優さんもいると思います。でも僕らは、仮にも日本の看板背負って、戦うわけでしょ? その台詞のままオーディションで演じて、撮影現場で「じゃぁ、OKだからこのとおりやって」って言われたらそれをその場で修正するのは大変ですよ。だから、間違いは事前に指摘します。こちらの意見や提案を聞いてくれる製作チームかどうか、こちらもジャッジする気概がないと、日本人(外国人)として正確な人物像は描けません。だから、ちょっと険悪なムードに、仮になったとしても、言いますね!

ある、とても良心的なキャスティング・ディレクターのケースでは、(自分の意見を)言った時に、「ああ、そうなの?」と言ってくれて...。僕が「たぶんこういう日本語なら上手くいくと思うのを用意してきたんだけど」と提示した時に、ちゃんと耳を傾けてくれたりしますよ。ただ、キャスティング・ディレクターも、自分だけで台詞については判断できないですから、そこですぐに脚本家に電話をかけてくれた人もいました。「俳優が正しい日本語にしたほうがいいって言っているんだけどどう?」って。それで、「じゃぁOKだから、その俳優の彼が言う通りビデオで撮ってみて?」って話がまとまって、自分が用意した日本語で演じたことはありますね。それで、もし落とされても、別に悔いはないです...。撮影現場でも、修正できる場合やタイミングであれば、そこは戦います!

ちなみに、あまりネタばれしないようにしますけど、この作品は第1話に渋谷のシーンが出てくるじゃないですか。素敵なシーンが、クライマックスにあるわけですけど...。やっぱり美術の担当の人たちも、日本の文化を細部に至るまでは知らないところもあるわけですから、「あれ、この看板、少し日本語が間違っているなぁ、カタカナが違う字になってるぞ!なんていう時もあるじゃないですか。でも俳優が、現場で、カメラを回すっていう直前に、「ちょっと、あれおかしいよ?」って言い始めたら、撮影ストップしちゃうから、まずいこともあります。だから、空気を読みながら上手いタイミングで教えてあげる工夫は必要です。

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この作品に関しては、ちょっとご紹介すると、ミズイ・ユミさんというLAで活躍されている女優さんがいて、彼女は結構いろんなドラマで日本語の監修もやっていたり、時には日本語の台詞をアメリカの俳優さんに指導するっていうパートを担っていたりとか...。それで『HEROES』の時にも彼女がずっと担当していて、ティム・クリングさんに信用をおかれたんですよね。今回の現場の時にも入ってくれていて、彼女が結構、積極的に「あの看板まずいよね?」とか「映っちゃうよね?」とか、僕ら俳優と話をしながら彼女が率先して遠くのほうの看板と入れ替えてもらったりとか、スタッフに言ったりとかしていました。あと、彼女と話し合って、的確な日本語の台詞にしていったりとか...。そういう、普段はなかなかメディアを通して伝わってこないような、画面には映らないところで戦ってくれている日本人の活躍も、実はあったりするんですよ。

彼女は『HEROES』の時の経験も踏まえて、『TOUCH』の製作チームに「日本人の役柄は極力日本人使ってほしい!」と強く提案したそうなんです。なぜかと言うと、どんなに言葉を教えて、指導しても、そこは本当に繊細な作業じゃないですか? 感情が伝わっていかなかったら意味がないわけだから...。あと、指導するのも、もの凄い労力がいるわけですよ。僕らもわかりますけど、母国語じゃない言葉で演じるって言うのは、大変な苦労があって、徹底した努力があって...。「だったら、出来る限り母国語でしっかり演じられる人を」ということで、ミズイさんは戦ってくれたんですよね。確実に、その功績もあってだと思うんですけど、第1話には生粋の日本人が3つの役で登場しているんで。

 

――そうだったんですね。確かに他のドラマと違って、「凄くリアルに"日本"が描かれているな」と思いました!

よく研究してあったと思いますよ。もちろん、厳密に言えば東京を知っている人になら、映っているショットによっては「あ、これは渋谷じゃないよな」っていうのは、わかると思うんですけど、それを言ったら本当にキリがなくて...。例えば、日本のドラマでも東京でNYのシーンをセットを使って撮る時とかがあるわけですよね。経済的な制約とか、時間の制約で。ましてや、このドラマみたいに世界中で物事が起こるっていう時には、結構、本当にその町そっくりに作ったセットを使ってLAで撮影するわけですよ。アメリカの観客とか、世界中の視聴者とかが見て、納得するレベルを考慮すると、「渋谷の町並み、よく造ったな」と思いましたね。

撮影現場にも立ち合わせて頂きましたけど、「うわ、これ努力しているな」と思って...。ティムさんとかが、「どう? これ渋谷に見えるだろう?」とかって、日本人俳優にも語りかけてくれたりして。やっぱり、凄く気にしてくれているわけですよ。少しでも、(舞台が日本だと)信じられるものにしようっていうことでね。「いや、本当にこれよく出来ていると思いますよ。雰囲気出ていますよ」っていう話をしたりしたんです。特に、ティムさんは凄く親日家なんだと思うんです。日本の文化とかにも...。そこにも、感心させられましたね。

でも、俳優たちも、もちろん現場で戦ったりするし、僕も極力「おかしいな」って思うことがあれば、この作品に限らず、一生懸命に戦うようにはしています。

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――先ほども、おっしゃっていましたけど、これまでは中国系や韓国系、時にはアメリカ人の俳優さんが日本人役を演じることが多かったと思うのですが、今後は逆に日本人である尾崎さんが日本人や日系人以外の、例えば中国系や韓国系の役柄を演じるようなケースも出てくると思いますか?

可能性はありますね、常に。オーディションに呼ばれるんですよ、やっぱり。例えば、中国系のマフィアの役であるとか、僕は過去に短編作品でしたけど、韓国人の刑事の役をオファーされたこともあって、それは台詞が全部英語だったので、大丈夫だったんですよ。演技力と、英語力で勝負できる。「明らかに、この人日本語訛りだな」っていうのがバレバレな英語だと、それはダメだと思いますよ、もちろん。だけど、他のアジア系のアメリカ人が日本人の役をやるように、僕らも逆に演じるっていうケースはあるにはあるんですよね。

ただ、一つ難しいのは、例えば中国系アメリカ人、韓国系アメリカ人、日系アメリカ人、つまりアメリカ人の彼らが、上手に日本語訛りの英語をしゃべって日本人の役柄を演じると、台詞のリズムもいいですから...。イントネーションとか、流れとか、速さとかが、他の俳優さんと全部かみ合ってきますから、やっぱり母国語であるってことはもの凄く有利なわけですよ。

日本生まれで日本で育った生粋の日本人が、英語がメインの台詞の役柄を勝ち取っていくっていうことは、決して簡単なことではないんです。僕らには、ライフワーク的な挑戦が続きます。それは、日本人にとってだけ難しいんじゃなくて、韓国生まれの韓国人の俳優であろうが、中国生まれの中国人の俳優・女優であろうが、例えば中国の名女優チャン・ツィイーさんであっても、アメリカのネイティブ並みの英語で、ということは、やっぱり難しいわけですから...。本当に英語の台詞中心で、ネイティブとスラスラとやり合っていくような役柄を、常に取っていくっていうのは、実は日本人だけじゃなくて、どの外国人にとっても難しいので。

ただ、本当に磨きようによっては僕らが日系一世の役柄とか、日系二世の役柄とかっていうところに、食い込んでいくことはありますし。例えば、過去にだったら工藤夕貴さんが(映画『ヒマラヤ杉に降る雪』などで日系人の役を)演じていたりとか、あるいは渡辺謙さんが映画の中(『バットマン・ビギンズ』など)で無国籍的な役柄を演じるときもありますし、可能性は開かれて来ていますね。つい最近、アメリカで発売になったんですけど、あるゲーム(Xbox One「Dead Rising3」)のキャラクターで、ボイス&モーションキャプチャー全部演じて、僕の声と表情と動きが全て反映されたゲームがあるんです。その中で、悪役(Zhi役)として登場したんですけど、それはもうちょっと日本と中国が入り混じったような役でしたね。どっちかといったら、中国系に見える役で、名前もそうなんですけど...。

これは1つの例なんですけど、言葉を聴いて「あれ? この人、どこの人だろう? この人、どこ訛りだろうな?」っていうのが、むしろわからないところまで行けば...。あるいは「ああ、明らかにアジア人の訛りなんだね、一応ね」と感じられて、だけど、一般の視聴者、観客、あるいはゲームをプレイする人たちが、絶対に聞き取れるレベルの英語っていうところまで僕らが到達すると、いろんな役柄のチャンスが生まれてくるんですね。だから、そこはもう目標ですよね、やっぱり。

――では、やっぱりそういうチャンスがあったら、尾崎さんとしてはそういった役柄にも挑戦していきたいということですね?

挑戦は、もうやらせていただけるんだったら、本当に頑張っていくわけですよ。もう、そこは俳優として!

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――最後になりますが、尾崎さんとしては、今後どういった役柄、どんな作品に挑戦していきたいですか?

今後ですね...。ちょっと『TOUCH』と絡めてお話しますけど...、日本人がパッと見たときに、僕が演じた役柄っていうのは賛否両論ある役柄だと思うんですね。例えばTwitterなんかでも、「こんなところを描かれたら恥ずかしいじゃないか、世界に対して」「日本こんなところばっかりじゃないんだ」っていう意見っていうのは、当然あると思うんですよ。

実は、日本の視聴者や観客が見るときに、拒否反応を示す日本人描写には二種類あって、一つは「完全に間違っている」というもの。そういうものは、僕らは正して行きたいわけです。もう一つは「間違ってはいないけど... でも、そこは見せないでくれよ!」という反応なんです。例えば平和な日本でも、犯罪者は必ずいます。でも海外の作品で生々しく描かれたら、ちょっとショックを受けますよね。

僕が、この第1話で演じている役柄って言うのは、日本人としてはちょっと暗部のところじゃないですか? だけど、僕はむしろ「これ、ティム・クリングさんよく知っているな」と思って。日本の社会問題の一つですよね、はっきり言って。そこを見せたくないならば、日本の社会からそういうものを無くして行かなきゃいけない。実際の社会にはそういう責任もあります。 今はボーダレスの世界で、情報もどんどん世界に出て行く時代です。良い面も、悪い面も全部出て行くっていう時に、渋谷の文化や生活スタイルが若い子の間からスタートしていき、いろんなものが渦巻いて、動いていく。お金も動いていくという、いろんなところの描写。「うわ、よくぞ! 知っているんだ、こういうことを...」って思ったんで、ピンポイントの起用ですけど、僕は、むしろ真剣に演じたんですよ。"裏のある"役を楽しみつつ。

今後もタイプ・キャストとかっていうことじゃなくて、「あ、この人真面目な硬い役柄だけじゃなく、こんな一癖ある、一見悪い役柄もするんだ」と思われるような...。悪いというか、例えば『TOUCH』で僕が演じたキャラクターですけど、彼が悪い意識をもっているかどうかっていうと...。彼は普段からそういう生活をしているわけだから、本人自身は「俺は悪い男だ」と思っているか、どうか?っていうと、興味深いところです。それなりに懸命に生きているのかもしれないから。だから、これは悪い役だ、これは良い役だっていうのは決め付けられないわけですよ。与えられた役柄に、説得力さえあれば、全力を尽くしたい。それが、俳優の役割です。

演劇とか、映画、TVっていうのは、必ずドラマチックに作られていて、デフォルメされているわけです。アメリカだってね、例えば映画とかドラマの中で皆さんが見るように、誰もが銃を持っているとか、ちょっと行ったらドラッグ・ディーラーと行き当たって、ラリっている人間ばっかりいて...、とか、町のどこでも危険があって、ってことじゃないわけです、実際は。平和なエリアもいっぱいあってとか、素敵な人たちもいっぱいいて...。だけど、ドラマチックなところを抽出して、デフォルメするわけですから、そういう意味では、上手いところをドラマにしたなって、思ったんですよ。日本の現状とか事実とか、実際にあるようなもの。間違った描写じゃなくて、「ああ、なるほどね。実は、日本人にはこんな顔も あるのか」と思うような。その一方で素敵な日本人が出てくればよいわけですから。

『TOUCH』でも、シーズンの一番終わりの方には、素敵な日本のエピソードもあったりするわけです。バランス良くいろんな役が出てくれば良いわけで、一癖あるような役でも、「えっ! ちょっと...」と思われるような役でも、幅広くやって行きたいですね。ちょっと悪役的な部分って、俳優にとってはある意味、凄く面白いんですよ。なので、そういうところに「あ、この人まじめそうに見えて、実は悪い奴だ」とかっていう役でもいいんですけど...。挑戦という意味でも、そういう役をいつもやって行きたいなって思ったりしています。


 

『TOUCH/タッチ』
2014年2月5日 DVDコレクターズ BOX2 リリース

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