話題沸騰ヒーローアクション『レジェンド・オブ・トゥモロー』吹替版演出家・藤本直樹氏にインタビュー【前編】

外国映画や海外ドラマのような外画作品の吹替版を制作するにあたって要となるのが演出家。今回は、映画『メイズ・ランナー』シリーズや、海外ドラマ『THE FLASH/フラッシュ』、『THE 100/ハンドレッド』などの吹替版の演出を担当し、DCコミックスの超大作として話題の『レジェンド・オブ・トゥモロー』(以降、『『LOT』』と表記)吹替版も担当されているACクリエイト株式会社の藤本直樹氏に、作品の魅力と仕事についてのお話を伺った。

レジェンド・オブ・トゥモロー

――まずは『LOT』のような人気アメコミが原作にある作品について、吹替演出をされる場合に気をつけていることなどはありますか?

『LOT』は歴史あるDCコミックスの作品なので、アメリカ側のクリエイターたちのキャラクターに対する思い入れが、ものすごく伝わってくる作りなんですよ。とてもキャラクターに敬意を払ってドラマを作っているのが分かるので、そこは大事にしようと思っています。『LOT』は本当にキャラクター押しの作品なので、あまり変なことをしないようにというか、コミックにあるキャラクターを受けて、しっかり吹替版として制作しようと思っていますね。それと翻訳者さんがニュアンスまでしっかりと台本に出してくれるので、吹替演出として、その点を余す所なく出せるようにと考えています。

――原作付きの作品ということで、吹替台本の制作段階で翻訳者と特別に話し合うようなことはありますか?

翻訳者さんがキャラクターの特徴や性格をわかってらっしゃるので、翻訳者さんが受けたキャラクターの印象と、僕が見て受けた印象のすり合わせはします。この役はこんな風にしゃべっているとか、こんな勢いで芝居してるけど吹替としてはどうだろうかというのを、現場だけでなく電話などでも直接やり取りしますね。表情がなんでこの表情になるのかとか、手がかりは映像しかないので、気になったところは密にやり取りします。

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――吹替台本をチェックする際に、演出家として心がけていることは?

翻訳者さんはあくまでも翻訳としてセリフも文字として表現されますから、台本上のセリフを実際に耳で聞いたときに言葉として伝わるかなという部分は気にしますね。そこは演出家と翻訳者が協力して補っていくしかないところなので、そこのコミュニケーションはじっくりとやっています。

――キャラクター名や用語の扱いも大変ではないですか?

そうなんですよ。DCコミックスのキャラクター辞典とかも参考にしているんですけど、最新版ではないので、カタカナにしたときの音や名前なんかは特に注意しています。『LOT』の悪の親玉(ヴィラン)である"ヴァンダル・サベッジ"は"サベージ"でもいいわけなんですけど、そういうのをどうするのかとかはありますね。なるべく今まで馴染みのあるものにしないと、ドラマ内だけでなく、その後に商品化されるときに統一されていないと格好が悪いですからね(笑)名前のすり合わせは大変です。そこのすり合わせは、ACクリエイトの制作や翻訳者さんが頑張ってくれています。僕はそこについてはあんまり考えないで頼っていますけど(笑)あれっ?と思ったときは質問しますが、ワーナー・ブラザースの担当の方もいらっしゃるので、本当にこのチームがしっかりとやってくれています。

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――DCコミックスのようなアメコミにはコアなファンが多いですからね。

そうですね。軍事モノや医療モノもそうですけど、特にアメコミはコアなファンがいらっしゃるので、そこは他の作品と比べても慎重にやっていますね。DCコミックス自体が歴史のあるものなので、その点も気を使います。原作ファンも大事にしたいし、僕らがそこでおかしなものを作ったという風にはなりたくないですからね。

――『LOT』はDCコミックスのクロスオーバー作品ということで、別の演出家が吹替演出されたキャラを扱うと思いますが、その点で気をつけたことはありますか?

『THE FLASH/フラッシュ』の演出は僕ですし、『ARROW / アロー』はファースト・シーズン1から制作として立ち上げを担当していたんです。その点もあって、『LOT』以前からの既存のキャラクターについては、全部に関わっていましたので、その苦労は無かったですね。ただ、何でこんな濃いキャラクターばっかり『LOT』に持ってきたんだろうとは思いましたけど(笑)

――その濃いキャラクターたちについて、演出で考慮したことはありましたか?

吹替の人たちも濃い人たちばっかりなので大丈夫かなという話はありましたね(笑)アトム/レイ・パーマーの杉田智和さんも、ホワイト・キャナリー/サラ・ランスの大津愛理さんも『ARROW / アロー』に出演されていたので良く分かっていましたし、演出をしていた『THE FLASH/フラッシュ』とのクロスオーバー回で登場していたので、そこに心配は無かったですね。むしろ『LOT』から新しく登場するキャラクターである、リップ・ハンター、ホークマン/カーター・ホール、ホークガール/ケンドラ・ソーンダース、ファイヤーストーム/ジャクソン、敵役のヴァンダル・サベッジを、既存キャラクターの中にどう入れていくのかが、一番の悩みどころでした。

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――特にどういった点を悩まれたのでしょうか?

一から組み上げるのは、軸が決まってしまえば、実はそんなに苦労はないんですよ。ただ、『LOT』は最初から軸が何本もあるので、その中に入れて、個性を出していこうと考えた時に、正直バランスがとれるのかという点で悩みましたね。

――『LOT』の声のキャスティングについて、考慮されたことは?

個性を前面に出していこうという考えは最初からありました。新キャラクターに関しては、既存キャラクターに負けないようなキャスティングを一番に考えて、調和させようとかは無かったですね。『LOT』はお祭りみたいな作品なので、そうすれば勝手に混ざるだろうと思っていました(笑)

――作品内でもキャラクターたちが、自分たちを個性的な集まりだと表現していますが、ボイスキャストも負けずに個性的ですね。

個性という面では、キャプテン・コールド/レナード・スナートを演じるウェントワース・ミラーの東地宏樹さんと、ヒート・ウェーブ/ミック・ロリーを演じるドミニク・パーセルの江川央生さんという『プリズン・ブレイク』の兄弟は、『THE FLASH/フラッシュ』で演じてもらっていたので、大丈夫でしたね。それ以外にも、アトムの杉田さんや、ファイヤーストーム/マーティン・シュタインの森功至さんもクドいぐらい濃くて(笑)新キャラの中でもファイヤーストームのもう1人であるジャクソンがキャラクターとして、また濃いんですよ。ジャクソンの吹替のキャスティングは、今までで一番悩んだかもしれませんね。

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――声のキャスティングでは、特に『プリズン・ブレイク』兄弟の東地さんと江川さんが注目を集めました。

『THE FLASH/フラッシュ』の時なんですけど、キャプテン・コールドとヒート・ウェーブの声については、ワーナー・ブラザースさんも僕も方針についてはズレがなくて、東地さんと江川さんで行こうと決まりました。これだけユーザーの人たちが認知しているわけですから、そこを変えるということは無かったですね。役柄が全く変わっているならば、変えることも考えたんですけど。今回は『プリズン・ブレイク』ありきでアメリカ側も作っていて、これに乗らない手はないなと(笑)ウェントワース・ミラーもドミニク・パーセルもすごく楽しんで演じているのは分かっていましたし、そこはもう全くズレは無かったですね。

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――作中でも、ウェントワース・ミラーが原音で「プリズン・ブレイク(脱獄)は初めてじゃない」というようなセリフを言ったりと、セルフ・パロディを楽しんでいるようですね。

お約束のネタで、チョイチョイ出てきます。吹替版でも、そこは「脱獄は初めてじゃない」と言わせてます(笑)僕も吹替版で『プリズン・ブレイク』を観ていたので、東地さんと江川さんには馴染みやすかったですね。それ以外でも、ヒート・ウェーブがキャプテン・コールドに、「お前はなんでも計画的に事を進めていたよな」みたいな、『プリズン・ブレイク』のマイケルを思わせるような発言をしたりとか、チラチラ出てきたりしますね。ドラマ内でも、2人に囚人服であるオレンジのつなぎを着せたがるんですよ(笑)

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――アトムを演じるブランドン・ラウスも、DCコミックスの映画『スーパーマン リターンズ』でスーパーマンを演じていましたね。

そうなんですよ。だから、アトムなんかもスーパーマンのネタを突っ込んできたりしますよ(笑)『スーパーマン リターンズ』ではブランドン・ラウスの声を東地さんが演じていましたけど、アトムとしてのキャスティングについては、ワーナー・ブラザースさんとACクリエイトの制作と演出の髙田浩光さんで、杉田さんとしたんですよ。アトムの声としてはピッタリだったんじゃないかと思いますね。

――『LOT』の新キャラクターであるリップ・ハンターの声は中井和哉さんですが、中井さんというと外画よりもアニメのイメージがありました。

中井さんは外画の吹替も大好きな方ですよ。ただお忙しい方なので、外画を担当した本数自体は多くないんですけどね。2、3年前、僕が演出していた『DALLAS/スキャンダラス・シティ』という作品に、レギュラーで出てもらっていました。そういうこともあって、中井さんとはやりやすかったですね。その他にも、ホークマンの西谷修一さん、ホークガールの東内マリ子さん、ジャクソンの平野潤也さんは、吹替業界ではまだ馴染みがない方たちです。吹替慣れしていなくてもポテンシャルの高い人を起用しようという意図があったので、思い切って彼らを起用しました。本当によく期待に応えてくれたと思います。

レジェンド・オブ・トゥモロー

――ありがとうございました。(インタビューは後半へ続きます。)

『レジェンド・オブ・トゥモロー <ファースト・シーズン>』は、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントよりデジタルセル先行配信中、2016年10月5日ブルーレイ&DVDリリースおよびデジタルレンタル配信開始。

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Photo:『レジェンド・オブ・トゥモロー』(C)2016 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.