『猿の惑星/キングダム』ウェス・ボール監督インタビュー「ノアは“新たなシーザー”」

映画史に残る名作映画『猿の惑星』の“完全新作”として描かれる『猿の惑星/キングダム』(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)が全国公開中だ。5月10日に日米同時公開となり、日本では公開3日間で約2億7000万円の興行収入と18万人超の動員(ともに洋画としてナンバー1)を記録。さらに本国アメリカではオープニング記録5650万ドル(約88億円)と、『猿の惑星』全シリーズにおいて、『猿の惑星/聖戦記(グレート・ウォー)』を超えてシリーズ2位の成績に。

物語の舞台は今から300年後。ウィルスが猛威をふるい世の中は激変。大都会だった人間の世界は荒廃し、人間と猿の間で支配権が完全に入れ替わり、高い知能と言語を得た猿たちが文明的なコミュニティを持った巨大な帝国<キングダム>を築こうとしていた。一方で人類は衰退し、文化も技術も、社会性も失い、まるで野生動物のような存在となっていくが…。

全世界で大ヒットを記録している『猿の惑星』シリーズの最新作でメガホンを取ったのは、大ヒット映画『メイズ・ランナー』シリーズを手掛け、大人気ゲーム「ゼルダの伝説」の実写映画版の監督にも抜擢されたウェス・ボール。昔から『猿の惑星』シリーズが好きだったという彼を直撃し、シリーズの魅力や最新作に込めた思い、エイプたちのヒューマンドラマを作り上げた過程などについて語ってもらった。(※本記事は『猿の惑星/キングダム』のネタバレを含みますのでご注意ください)

エイプの中に自分を見る

――1作目が公開されたのは1968年と、フランチャイズ作品としては『スター・ウォーズ』(シリーズ1作目公開は1977年)や『エイリアン』(同1979年)よりも長い歴史を持つ『猿の惑星』シリーズの魅力とは何だと思われますか?

やっぱりとってもヒューマンな物語だからだと思います。シリーズのどの作品も深みがあって、エモーショナルで、人間であるとはどういうことなのかという問いかけをしています。そうしたストーリーを通して我々は彼らの中に自分を重ねるとともに、アドベンチャー要素もあるので、考えさせながらスペクタクルも楽しめるわけですね。私たちはエイプの中に自分を見るわけですから、人間が猿に支配されるという世界も興味深く見えるわけです。

――監督として本格的なモーションキャプチャーの作品を担当されるのは今回が初めてだと思いますが、ノア役のオーウェン・ティーグ、プロキシマス・シーザー役のケヴィン・デュランドといったモーションキャプチャーを使って演技する俳優のキャスティングではどういう点を重視して選ばれたのでしょう?

想像力が必要ですね。でも、普通の映画とそう変わりませんよ。素晴らしい役者というのは、自分のベストを尽くして物語を語ってくれるものなので。誠実で共感を呼ぶような人に自分の感情を露わにしてもらい、あとは我々の技術班の素晴らしい技術によって最終的に観てもらったような作品に仕上がるわけです。

猿の惑星/キングダム

――プロキシマス・シーザーはあまり四足歩行をしていないように見えましたが、これは彼が人の真似をしていたということが関係しているのでしょうか? ノアを含めたエイプたちが二足歩行するか四足歩行するかという点で意識したことはありますか?

それは意識しましたね。どういう立ち方、動き方をするのかがそれぞれのキャラクターを形作るわけですから。プロキシマスは劇中で本人が言っているように人間のファンなので、人間がどういうことができるかを知り、それを自分もやるということを目標としています。おっしゃるように人間の真似をしているわけですね。一方でノアは、映画の冒頭では背中を丸めていますが、ストーリーが進むにつれて背筋が伸びていきます。

それぞれのキャラクターが自分のボディランゲージを考えてくれるんです。例えば、アナヤは左手をずっと自分の胸のあたりに置いていますが、あれは彼が子どもの頃に好きだったおもちゃをそうやって持っていたからで、当時の童心を今も忘れていないということを表しているんですよ。

面白いことに、エイプの姿に加工する前のモデルのデジタルの骨組みを見ただけで、その動き方だけで、どれがどの俳優かが分かるんですよ。そのくらい、それぞれに特徴があるんです。その人の個性がいかに身体的なものから来ているかということの証明ですね。

猿の惑星/キングダム

――シーザーの話が出てくることもあって、2010年版のリブート3部作との関連を感じるシーンも多かったですが、そのリブートを含めたフランチャイズ作品から何を引き継ごうとしたか、逆に何を新たにもたらそうとしたかを教えてもらえますか?

この作品ではレガシー、歴史といったものを分析し、それがいかに変化したり、完全に失われたり、忘れられたり、歪んで伝わるかということがテーマにもなっているんです。シーザーの理想、忠義、心の熱さ、勇敢さといったところは、人間もああなりたいと憧れるものですよね。そんなシーザーの存在と神話に対して、ノアは最初は何も知らない状態で、ラカやプロキシマスからいろんなことを学んでいきます。ただ、ラカとプロキシマスが言うシーザー像は異なっています。ノアはシーザーについて学んだことの中から自分で取捨選択し、引き継いでいく。そうやって彼自身が“新たなシーザー”になっていくわけですね。

――本作には様々な魅力あふれるキャラクターが登場しますね。私のお気に入りはラカですが、あなた自身がお気に入りの、あるいは注目してほしいキャラクターは?

面白いことに、みんなお気に入りのキャラクターが違うんです。ノヴァ、プロキシマス、ラカ…ラカが好きな人は結構多いですね。彼は優しいですし、楽しいキャラクターですから当然かもしれませんが。ネタバレは駄目だけど…もしかしたらラカは2作目にも出てくるかもしれません。

僕自身はノアが好きです。個性的なキャラクターが集まっているので、この作品を観た人は何派かに分かれるでしょうが、その中央にノアがいなければ成立しないと思うんです。すごくシリアスなキャラクターで、若くて無垢で世間知らずなノアは、大都市に行った田舎のネズミみたいなところがあります。これは、僕自身もかつて経験したことですね。小さな町からハリウッドへ移って、まったく違う世界を知る。そういう大人になる物語、成長物語に惹かれるんです。

猿の惑星/キングダム

――ジャパンプレミアでプロデューサーのジョー・ハートウィックさんが「監督のヴィジョンを実現するために頑張った」という旨の発言をされていましたが、あなたがこの作品で抱いていたヴィジョンとはどういうものでしょう?

映画を観てくれれば分かると思います(笑) 我々のゴールは、素晴らしい作品の後に続くわけですから、人気フランチャイズに見合うだけのものにすることでした。今の社会に響くような、今日の最高の技術を使った表現というのがゴールです。まあ、ゴールというのはなかなか望んでいるところまで行けないことがあるので、妥協しなければいけないこともあるんですけれどね。だからこそ、敢えてかなり大きな野心を持って取り組みました。そのように目標を高く設定することで、目標の半分くらいまで達成できれば良質なものが作れると思っています。

――非常に続きを予感させるラストでしたが、2作目の話はすでに動き出しているのでしょうか?

それがゴールです。本作の脚本が書かれている時から本当にたくさんのストーリーがあって、今回は入らなかったので取ってあるストーリーもあるんですよ。プロデューサーのリック(・ジャッファ)とアマンダ(・シルヴァー)はシーザー3部作の1作目(『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』)の脚本を手掛けているんですが、彼らはシーザーをピノキオから(出エジプト記の)モーゼへと進化していくキャラクターとして描いたわけです。

この作品のノアはまだリーダーにはなっていませんが、ならんとしているところです。ノアの物語はまだまだこれからです。人間とエイプの間の複雑なプロットもあるので、ぜひ続けて描いていきたいですね。

猿の惑星/キングダム

――あなたは『メイズ・ランナー』3部作も手掛けているので、この作品の続編が実現すれば、同シリーズのようにより深く掘り下げることができそうですね。

『メイズ・ランナー』シリーズは僕にとって初めてのメジャー作品で、スタジオと制作に取り組んだり、ファンの期待に応えたりといったことはすごくいい経験になりました。この作品でもたくさん学びましたし、まだ僕も若いので、学んだことを今後に生かしていければと思います。極みの領域まで行ければいいですが、たとえそこまで辿り着けないとしてもそこへ向かおうとする志、プロセスが好きなんです。

――あなたは『ジュラシック・パーク』を観て映画監督になりたいと思ったそうですが、フィルムメイカーとして毎回伝えたい、描きたいと思っているものはありますか?

自分の作品を自己分析しすぎないようにしているんです。ほかの人に観てもらって見つけてほしいですね。自覚してしまうと純粋なものが失われる気がするんです。その作品に取り組みたいと思った時の最初の勘、思いを大事にして作るようにしています。

猿の惑星/キングダム

――最後に、本作をこれからご覧になる方に向けてメッセージをお願いします。

本作では本当に頑張りました。シリーズの過去作品を一本も観ていなくても楽しめるような自立した作品になっていますが、過去作品、シーザー3部作や1968年の1作目を観ていれば、たくさんのオマージュがあるので楽しめるものになっています。フランチャイズ作品をこれまで観たことがない人も、できたらこの作品をきっかけに好きになって、過去のものも観てほしいですね。それが夢です。

エモーショナルで入り込める、深みがあり、考えさせてくれるようなストーリーでありつつ、劇場で観るのにぴったりな楽しさも備えています。コロナを機に劇場で映画を観る習慣が薄れてしまったかもしれませんが、暗い空間で見知らぬ人たちと2時間一緒に、夢かと思うような映像を観て、その後はその感想を語り合うというのが僕は好きなので、この作品もそういう風に楽しんでもらえたら嬉しいです。

猿の惑星/キングダム

『猿の惑星/キングダム』は大ヒット上映中。(海外ドラマNAVI)

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