視聴率。テレビマンに栄光と憂鬱をもたらす、小数点を含む2~3ケタの数値。この数字さえよければ名プロデューサーと呼ばれ、逆に低迷すれば番組が打ち切られもする、畏怖すべきナンバーたち。
ことに近年のアメリカのテレビ業界では視聴率崇拝の傾向が著しく、今シーズンも『The Playboy Club』『Terra Nova』といった話題のドラマが、視聴率低迷を理由に次々と打ち切られました。あの世界一有名な映画監督がバックについていても、数字が期待値に届かなければ容赦なく1シーズンぽっきりでキャンセルされてしまうのですから、まさに視聴率おそるべし。
もちろん、われわれ視聴者にとっても大好きなドラマがいきなり終了させられてしまうわけで、決して他人事ではありません。今回はそんなキケンで取り扱い要注意な視聴率に関して、アメリカにおけるその仕組みと見方についてお話ししたいと思います。
◆実際に視聴率をみてみよう
アメリカでは、ニールセン・メディア・リサーチというマーケティング・リサーチ会社が独占的にテレビの視聴率を調査しているので、視聴率といえばすなわち「ニールセンの視聴率」のことを指します。ここで、早速ですがニールセンによる2012年3月5日~3月11日の週間視聴率のデータを例に、ご覧ください。
Primetime Broadcast Adults 18-49 Viewers for the week ending March 11, 2012:
Nielsen TV Ratings: ©2012 The Nielsen Company.
※表をクリックすると拡大して見ることができます。
表の上に、「Primetime Broadcast Adults 18-49 Viewers for the week ending March 11, 2012」と書かれています。Primetime (プライムタイム)とは、日本のゴールデンタイムにあたる、一般に最もテレビが視聴される時間帯のことです。国土の広いアメリカでは国内でも時差があるので、地域によってプライムタイムが微妙に異なりますが、だいたい19時から23時までの時間帯を指します。
次に、Adults 18-49 Viewersとは、18~49歳の視聴者のこと。ここで「あら? なにゆえ年齢制限?」と疑問に思う方もいるかもしれません。このことについては後ほどあらためて触れることにして、まずは視聴率表の最上段に記されている項目を説明していきましょう。
左端から順に:
・Rank=ランク=順位。この表では、視聴率の高い順に1位から25位まで表示されています。
・Shows=番組名。1位に『VOICE』、2位と4位に『American Idol』の水曜放送分(パフォーマンス篇)と木曜放送分(結果発表篇)が入っていて、依然として歌手のオーディション番組が上位を占めていることがわかります。
・R=Repeat 再放送のこと。米国では、シーズン中でもプライムタイムにドラマの再放送が流れます。現在18~49歳の間で人気があるはずの『Modern Family』が今回は17位で、意外に視聴率が低いと思ったら、この欄に「R」の文字があり、この週は再放送だったことが確認できました。
・S=Specialとは、いつもは放送されていない枠で特別に放送された番組のこと。この週の3位と5位に『Big Bang Theory』がランクされていますが、3位は木曜20時から放送された新エピソードで、5位はそれに続けて木曜20時半から放送された旧エピソードの再放送。この前週まで木曜20時半の枠は『Rob』という別のシットコムが放送されていましたが、『Rob』が一足早くシーズン・フィナーレを迎えたため、その穴を埋めるために『Big Bang Theory』の旧エピソードがこの枠で放送されました。そのため、5位の『Big Bang Theory』にはSpecialの「S」と、Repeatの「R」の二つの文字が同時に表示されています。
それにしても、再放送のエピソードで視聴率5位に食い込む『Big Bang Theory』の人気は大したもの。このあとに続いて21時から放送された『Person of Interest』も6位に入ってるし、22時からの『The Mentalist』も12位なので、この木曜の視聴率はCBS局の勝ちと言っていいでしょう。
・P=Premiereは、シーズン・プレミア(シーズン最初のエピソード)の意。上記の表では該当作なしです。
・Net=ネットワーク。番組を放送しているテレビ局を指します。
・18-49 Rating=18~49歳の視聴率。数字はパーセントを意味します。例えば1位の『VOICE』は6.2なので、テレビを所持する世帯に住んでいる18~49歳のうち、6.2%の人が『VOICE』をリアルタイムで観たということになります。
・18-49 Viewers=18~49歳の視聴者数。(000) は、この数値の単位が千人であることを示すので、先週1位の『VOICE』をリアルタイムで観た18~49歳の視聴者数は、786万4千人となります。
◆なぜ全体の視聴率ではなく、18~49歳の視聴率だけが表示されているのか?
結論から言ってしまうと、テレビ番組のスポンサーである広告主が、全体の視聴率よりも18~49歳の視聴率を重視しているから、というのが答えです。でも、なぜ49歳までなのか。アメリカでは50歳以上の人はあまり買い物しない? 広告を出しても効果がない? いやいや、そんなことはありません。むしろ若い世代より沢山お金を持っているので、高い購買意欲を持つ50歳以上の人は多いでしょう。理由は他にあります。
その理由は、大勢の50歳以上が集中的に視聴する番組に比べて、大勢の若い世代が集中的に視聴する番組の数が少ないからなのです。平たく言ってしまうと、お年を召した方々はみんな同じような時間帯に同じような番組を観るから動向がわかり易いけれど、若い世代は視聴する時間帯も番組もけっこうまちまちで動向を読みづらい、ということです。
その原因はいくつか考えられます。若い世代が好む番組の多様化や、ネットやゲームにかける時間の増大によってテレビ視聴時間が減少したということもあるでしょう。また、仮に番組を視聴していたとしても、若い世代はテレビではなくPCやスマートフォン、タブレットなどで観ている人も多く、その数値がうまく視聴率に反映されていないケースも考えられます。いずれにせよ、18~49歳の視聴率はマーケティングの見地からみて希少価値があるために広告主から重要視され、リサーチ会社もこの数字を取り上げることとなるのです。
具体的な例を挙げてみましょう。
2010年4月6日付のNYタイムズ紙によれば、当時ABCのリアリティ番組『Dancing With the Stars』の全視聴者数が2300万人に達し、その週の『American Idol』の全視聴者数2180万人を超えました。しかしながら、当時『Dancing With the Stars』が30秒のCMスポットにつき広告主に約20万9千ドル(=当時の為替で約1960万円)課していたのに対し、『American Idol』のCM料は約64万2千ドル(=当時の為替で約6000万円)と、『Dancing~』の3倍以上の金額が設定されていました。
ここまで差が出た背景には、『Dancing With the Stars』の2300万人の視聴者のうち、その60%以上を50歳以上の人が占めていたという事実があります。それに対し、『American Idol』の50歳以上の視聴者はわずか37%。つまりアメアイは、『Dancing With the Stars』とは反対に、視聴者の大半が49歳以下の若い世代だったのです。
ここで重要なのは、大勢の50歳以上が視聴する番組は他にも多数あるけれど、大勢の若い世代が集中して視聴する番組はごく限られているということ。そのため、ソフトドリンクやビール、携帯電話やコンピューターなどの若い世代を対象とした商品を売りたい企業は、こぞって若い世代が数多く視聴する『American Idol』のスポンサーになりたがり、同番組のCM料金が押し上げられたのです。
ご存知のように、視聴率はもともとマーケティング会社が広告主に提供するための資料として計測するもの。広告主が求めるデータが自然と主流になっていくもので、このところ北米では18~49歳の視聴率を表示するケースが多いため、ここでもその年代の視聴率を取り上げてみました。(つづく)
★昨今、TV番組をリアルタイムで視聴せず、録画してから視聴する人が増えているのは、日本もアメリカも同じ。でも、そんな彼らの視聴率はスルー!? そのあたりの話を<後編>でお届けします。