2009年に映画化もされたDCの人気コミック「ウォッチメン」が米HBOでTVシリーズ化されるというニュースはかねてからお伝えしてきたが、現地時間10月20日(日)、ついに初回放送を迎えた。そのオープニングで描かれた話は、米国の人にさえあまり知られていない実話がベースになっていたと、米Comicbookが紹介している。
その事件とは、1921年5月31日から6月1日にオクラホマ州タルサで起きた人種暴動。白人の住民たちが暴力行為によってアフリカ系アメリカ人を排除しようとした事件だ。この事件について、日本ではあまり知られていないと思うが、当時の米国でも正確な報道はほとんどなかったという。
タルサのグリーンウッド地区は、古くから裕福なアフリカ系住民が自分たちの望むコミュニティを築いて暮らしており、「ブラック・ウォール・ストリート」と呼ばれていた。しかし、快く思わなかった白人たち(中には白人至上主義団体クー・クラックス・クランのローブをまとっている人たちもいた)の襲撃によって大勢のアフリカ系住民が犠牲となり、街も焼け野原とされてしまった。この暴動により、最終的にアフリカ系住民の約1万人が家を失い、約6000人が逮捕・拘留され、約800人が入院し、100人~300人が亡くなったと記録されている。
暴動のきっかけとなったのは、タルサにあるドレクセルビルで靴磨き屋として働いていた10代のアフリカ系の少年が、同ビルのエレベーターオペレーターだった白人の少女を暴行したと告発されたことだった。少年が少女を暴行したという話はあくまで推測レベルの話だったが、少年は逮捕されてしまい、この話を聞きつけたアフリカ系コミュニティの(経済的・政治的に権力を持っていた)人たちが裁判所の前で抗議活動をする事態に。10人の白人が亡くなったことで(アフリカ系は2人)、先述の暴動にまで発展した。
ではなぜ、ドラマ版『ウォッチメン(原題)/Watchmen』がこの事件を取り上げたのかというと、人種問題がテーマとなっているからだ。ファンタジー作品ではない。ドラマでは、街が炎に包まれる中、両親から配達トラックに押し込まれ、グリーンウッドから抜け出すことになった小さな男の子に焦点が当てられた。
この事件の本当の問題点は、暴動が起こったことよりも、その事実が長年隠され続けてきたことにあるという。当時生きていた人たちでさえ知らずに育ったというほど、地方・州・および国家の歴史から記録が消されていたというのだ。75年後の1996年、ようやく州議会による調査が行われ、2001年に正式な報告書が提示された。
グリーンウッドの虐殺は、アメリカ史における人種抗争の中でも最悪の事件と言われており、『ウォッチメン』がこの事件を取り上げたことは、歴史を風化させず、現代の人たちにも伝えることに大きく貢献したと言えるだろう。
『ウォッチメン』は、米HBOにて毎週日曜日に放送中。日本では2020年にスターチャンネルで放送予定。(海外ドラマNAVI)
Photo:
『Watchmen(原題)』(c)2019 Home Box Office, Inc. All Rights reserved. HBO(R) and related channels and service marks are the property of Home Box Office, Inc.