Netflix、Disney+、HBO Maxといったストリーミング・サービスがエンタメの覇権を握って久しい中、アメリカでは2025年は地上波放送(ブロードキャスト)テレビが物語の主導権を鮮やかに取り戻した年として記憶されるだろう。その立役者となったのが、米ABCの『ハイ・ポテンシャル』と米CBSの『トラッカー』という二つの大ヒットドラマだ。
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地上波放送テレビの“驚異的な底力”
これら2作品は、従来のリアルタイムや録画視聴、そしてストリーミングを合算した「マルチプラットフォーム」の視聴者数において、NetflixやAmazon Prime Videoなどの配信専業プラットフォームの競合作品を凌駕。視聴者が特定のプラットフォームに縛られず、真に優れたコンテンツであれば再び「放送系」へと回帰するという、2025年の大きな潮流を象徴する結果となった。
わずか10万人差のデッドヒート!2強が繰り広げる歴史的接戦
ABCとCBSの最新データによれば、2025年の娯楽番組部門(スポーツ・ニュースを除く)において、この2作品が実質的な首位争いを展開している。両番組の平均視聴者数は約1,650万人という驚異的な数字で、その差は極めて僅差だ。
ニールセンのデータに基づく「リアルタイム放送+ストリーミング」の35日間集計では、その勢いがより鮮明になる。
『ハイ・ポテンシャル』(ABC)
ABCの報告によると、放送された12エピソードの平均視聴者数は以下の通り。
リアルタイム放送: 860万人
ストリーミング: 790万人
合計:1,650万人
2025年の暦年で第1位を獲得。特筆すべきは、視聴者の約半数がHuluなどの配信経由であり、放送ドラマがストリーミングとの親和性を高めた点にある。
『トラッカー』(CBS)
対する『トラッカー』も、負けず劣らずの強さを見せている。
リアルタイム放送: 1,100万人
ストリーミング: 540万人
合計:1,640万人
地上波放送だけで1,100万人を集めるという圧倒的な基礎体力を見せつけ、第2位にランクイン。なお、CBS側の集計では、エピソード数の違いにより『トラッカー』が首位に立つというデータもあり、両者はまさに歴史的な接戦を繰り広げている。
ターゲット層の8割が「配信」で視聴?激変した視聴スタイル
広告主が最も重視する「18〜49歳層」に目を向けると、より衝撃的な事実が浮かび上がる。『ハイ・ポテンシャル』が記録した3.77というレーティングの内訳を見ると、リアルタイム放送がわずか0.75に対し、ストリーミング分が3.02と、全体の約80パーセントを占めているのだ。
これは若年層にとって「決まった時間にテレビの前に座る」という習慣が過去のものとなり、放送局のコンテンツであっても「自分の好きな時に配信で観る」のがスタンダードになったことを証明している。
Z世代が「警察ドラマ」に熱狂する意外な理由
2025年のデータで最も興味深いのは、本来上の世代向けとされてきた「警察ドラマ」や「一話完結型」の作品が、配信を通じて若年層の間で爆発的なヒットを記録している点だ。
特にZ世代(12〜17歳)の間で年間1位に輝いたのが、ABCの警察ドラマ『ザ・ルーキー』だ。この現象の背景には、TikTokなどのSNS戦略がある。ドラマ内の緊迫したシーンや、ファンの間で人気の「チェンフォード」ことルーシー・チェンとティム・ブラッドフォードのやり取りがSNSでバズ化。これが入り口となり、多くの若者が本編の視聴を開始した。また、制作陣は、ネットワークTV特有の膨大なエピソード数が、現代の若者にとっての「コンフォート・フード(安心できる定番の味)」として機能していると分析する。
「放送局」から「コンテンツ」の時代へ
さらに驚くべきことに、『ハイ・ポテンシャル』や『トラッカー』は2〜11歳の子ども層でもトップ5にランクインしている。かつての「子どもはアニメ、大人はドラマ」という境界線は崩れ、家族全員で一つのタブレットやスマートTVを囲み、大人向けのドラマを視聴するスタイルが定着したのだ。
2025年、かつて「高齢層向け」と目されていたCBSのような放送局も、Paramount+などの配信サービスを通じて若者の支持を完全に取り戻した。「どの放送局か」ではなく「どの配信サービスで、どんな面白いコンテンツが観られるか」。その質が問われる時代において、地上波ドラマはかつてないほどの輝きを放っている。
『ハイ・ポテンシャル』と『トラッカー』日本ではどちらもDisney+(ディズニープラス)にて独占配信中。(海外ドラマNAVI)



