
1996年に公開されたトム・クルーズ主演映画『ミッション:インポッシブル』は、ブライアン・デ・パルマ監督の手腕により世界中で大ヒットを記録し、現在も続くフランチャイズを生み出した。しかし、この大成功の陰で、オリジナルのテレビシリーズ『スパイ大作戦』で活躍したキャストたちは、映画版をまったく評価していなかったことをご存じだろうか? 米Slash Filmが伝えている。
なぜ『スパイ大作戦』キャストは映画版に憤慨したのか?
テレビシリーズ『スパイ大作戦』(原題:Mission: Impossible)は、1966年~1973年に放送され、1988年代にはリバイバル版『新スパイ大作戦』も制作されたほどの人気作だった。

映画版の公開に、人々はトム・クルーズ主演映画に期待しつつも、テレビドラマ原作ということで多少の不安も抱いていたという。実際、映画はテレビシリーズとはあまりにも異なっていたため、オリジナルドラマのキャストたちは映画版を気に入らなかったという。その理由を二つ挙げている。一つは、テレビシリーズのヒーローが悪役に転落させられたこと。そしてもう一つは、シリーズの根幹をなす「チーム」という前提が崩され、一人のヒーローに焦点が当てられたことである。
『ミッション:インポッシブル』の冒頭で、主人公イーサン・ハント以外のチームメンバーは全滅する。そして、その黒幕が、テレビシリーズではリバイバル版にも登場し、信頼できるリーダーとして知られるジム・フェルプスであったことが明かされるのだ。ドラマ版でジムを演じたピーター・グレイブス(『フライングハイ』)にとって、この展開は衝撃的だった。ピーターは「彼をフェルプスと呼ぶことにしたのは残念だ」とコメントし、もしジムが悪役になるのであれば、別のキャラクター名を使えばよかったと不満をあらわにしている。
さらに、MTV Newsによるとテレビシリーズでバーニー・コリアーを演じたグレッグ・モリスは、映画を40分で観るのをやめ「冒涜だ」とまで言い放ったと報じられている。また、ローラン・ハンド役のマーティン・ランドーも、映画で自身のキャラクターを再演するというオファーを拒否しており、初期の脚本ではチーム全員が抹殺される展開になっていたことに反対したと明かしている。
テレビシリーズから映画へ:受け継がれた要素と決定的な違い
いくつかの要素は確かに映画へと受け継がれている。IMFの存在、録音による任務説明、そして「テープは5秒後に消滅する」というお決まりのセリフなどだ。また、ラロ・シフリンによるキャッチーなテーマ曲も、映画シリーズの代名詞となっている。
しかし、映画版にはイーサン・ハントという新たなキャラクターが誕生。そして何よりも、「チームで困難な任務を遂行する」というオリジナルドラマの根本的な前提が、映画では「一人のヒーローが困難な任務を遂行する」という形へと大きく変貌したのだ。
デ・パルマ監督の映画は、緊迫感あふれるCIA潜入シーンや、高速列車の上での戦いなど、記憶に残るアクションシーンで彩られている。映画シリーズは、原作から離れながら独自の進化を遂げてきたのである。
ドラマから映画へ、そして再び愛される作品たち
『ミッション:インポッシブル』のように、テレビドラマが映画化されるケースは、エンターテイメントの世界では珍しくない。長年愛されてきたテレビシリーズが、より大きなスクリーンで、新たな予算と演出で蘇ることは、ファンにとっても大きな喜びとなることが多い。
例えば、『スタートレック』がテレビドラマとして始まり、後に多数の映画作品が制作され、世界的な人気を確立している。他にも、『X-ファイル』や『ダウントン・アビー』、『21ジャンプ・ストリート』、『アダムス・ファミリー』など、テレビドラマから映画が生まれ、どちらも高い評価を得ている作品は数多く存在する。
このように、テレビドラマと映画の間には常に相互の行き来があり、それぞれの媒体で独自の進化を遂げ、ファンを魅了し続けている。たとえ原作ファンが最初は戸惑ったとしても、時が経ち、作品が持つ魅力が伝われば、テレビドラマ版も映画版も、どちらも愛されるようになるのだ。
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』は5月23日(金)に公開。テレビシリーズ『スパイ大作戦』はDVDで視聴可能。(海外ドラマNAVI)
Photo:©1996 PARAMOUNT PICTURES.