テレビの世界において、数多くあるジャンルの中でも特に人気の高い医療ドラマ。制作においては、実際の医師や医療コンサルタントから助言をもらうなど、現実離れしないことを心がけているが、それでも“ドラマ”を生み出すために、時に過剰な演出をすることもある。ここでは、医療ドラマシリーズにおいて、最も非現実的な状況をご紹介。
1. 1時間も電気ショックを与える
夜間勤務の医療従事者たちの奮闘を描く『ナイトシフト 真夜中の救命医』。シーズン4のあるエピソードでは、スコット・クレメンス医師(スコット・ウルフ)が5回心臓マッサージを行う毎に、別の医師が電気ショックを与える、これをひたすら繰り返す場面があった。
そんな場面について、マサチューセッツ大学で救急医学と医療毒物学を教えるピーター・チャイ医師は、「前代未聞のことではない、と思います」と話す。しかし、続けて「小児科の場合は、子どもであれば45分ほど続けることもあるかもしれません。ですが、ほとんどの場合、3分単位です。CPRを3分行った後に、あるいは救急隊が到着するまでの間にショックを与えるはずです。そして、それまでに救命できるかどうかです」と、現実でいつも行う手法ではないと語った。
2. 血の見せ方
米国医師会のメディア・編集ディレクターであるロバート・ミルズ氏によると、以前はPAC(医師諮問委員会)がテレビ局のディレクターたちに対し、どうすればよりリアルなシーンが作れるか、つまり「この処置をすれば、このくらい血が出る」ということを教えていたという。しかし、偶然かもしれないが、同委員会が1980年代に解散して以来、医療ドラマでは血があふれている。
そして、その血はよりドラマを演出するために効果的に使われており、手術用のマスクやガウンに飛び散り、切開した部分から吹き出すこともある。米国で最も長く続いている医療ドラマの『グレイズ・アナトミー』では、患者の頸動脈の傷口が音を立てて開き、医師の白衣やブラウスに赤い筋を走らせる。
「実際にはそんなことはありません」とチャイ医師は説明する。「手術中に動脈にあたったとしても、静脈にあてた時より少し早く出てくるものですが、部屋の反対側の壁にまで血がつくようなことはありません」
3. 緊急事態下での手術
TVに登場する外科医は、病院外のあらゆる場所で人命救助にあたることがある。
『ナイトシフト』のある場面では、ドリュー・アリスター医師(ブレンダン・フェア)が飛行中の機内でスプーンを使って帝王切開を行った。別のエピソードでは、停止したエレベーターの中でドリルを使って患者の頭に穴を開ける。「そんなことは見たことがありません」とチャイ医師。「結局のところ、手術室というものがありますから」
また、『マッシュ』や『ER 緊急救命室』では、銀行強盗や戦争などの銃撃によって医師が被弾者の体から銃弾を取り除くような場面もあるが、チャイ医師によると「銃弾が入れば、手術室に入るまでそのままです」とのこと。
4. その場しのぎの医療道具
私たちがテレビで見てきた医師たちは、緊急の場面であれば人命を救うためにホースや木の枝など、使えそうなものをどうにかかき集めて治療行為を行なっていた。特によく見るのは気管切開で、怪我や病気により呼吸ができなくなった患者に対し、医師はのどの付け根に穴をあけてチューブ(のようなもの)を挿入して呼吸を確保する。
『ER』では、コンビニ強盗の場面に遭遇した看護師のキャロル・ハサウェイ(ジュリアナ・マルグリーズ)が、ペンナイフ、ジュースのストロー、ガムテープを使って銃に撃たれた患者の気管切開を試みた。
チャイ医師は「私たちは緊急気管切開の方法を教わっていますし、キットを買ってもっていくこともできます」と述べ、なぜ多くの(テレビの)医師たちがキットを忘れるのか理解できないと明かした。
5. 一瞬で意識を失う
『ナイトシフト』では、叫び続ける受刑者が運び込まれると注射で瞬間的に意識を落としていたが、「あんなに早く効く薬があればいいのですが」とチャイ医師。「ハイになったり、精神的に病んでいて興奮状態になる人がいるのは事実です。しかし、実際には注射を打ってから落ち着くまで5〜10分ほどかかります」
6. 「スタット」
緊急時を示す言葉であり、『ER』や『グレイズ・アナトミー』、『シカゴホープ』では、医療従事者が患者を乗せた担架の横や部屋を走り回りながら叫んでいる。
しかし、現実の病院では「テレビのように叫ぶ」のではなく文字に書くのが一般的、と精神医学の教授で救急外来を経験したことのあるヘレン・ファレル医師は語る。「医薬品の注文書には書かれていますが、口にする人はあまりいません」
そんな突っ込みどころも多い医療ドラマだが、その中でも医師が選んだ最も現実的なドラマとは? 気になる人は過去記事もチェックしてみてほしい。
『グレイズ・アナトミー』シーズン1~19はDisney+(ディズニープラス)にて配信中。(海外ドラマNAVI)
Photo:『グレイズ・アナトミー』© ABC Studios