6月2日(日)よりミステリーチャンネル独占で日本初放送となる『ミスター・ベイツvsポストオフィス』。英国史上最悪の冤罪と言われる事件を描いた衝撃作の脚本を担当したグウィネス・ヒューズが本作の制作秘話を語っているのでご紹介しよう。
イギリスを動かしたドラマに
『ミスター・ベイツvsポストオフィス』が取り上げた冤罪事件では、700人以上の郵便局長らが、無実にもかかわらず、ITシステムの欠陥を要因とする問題により窃盗や詐欺といった罪に問われ、家も財産も名声も失い、投獄されたり自殺したりする者まで発生する事態に。
放送局のITVでは1,000万人以上の視聴者数を獲得するだけでなく、直近10年以上で最大のパフォーマンスを記録したドラマとなり、同局が誇る『ダウントン・アビー』を超える大ヒット。しかし、それだけにとどまらず、この放送をきっかけに本事件が再注目され、世論や英国政府をも揺るがし、問題早期解決の行動に追い込むほどの影響を与えた。つまり、一つテレビドラマが社会を動かしたのだ。
ジャーナリストの経験を生かした脚本作り
そんな注目作でペンを執ったヒューズ。ジャーナリストとしての経験も持つ彼女が取材を進め、ドラマの脚本を書いていた頃を振り返った。
「脚本を書きながら、気がめいっていくような悲惨なドラマだったのか? いいえ、全然そんなことはありません。ポストオフィス・スキャンダルの被害者たちは、苦難を経験したにもかかわらず、決して落ち込んでいるだけの方々ではなかったからです。彼らは25年もの厳しい試練に耐えながらも、ユーモアを忘れず、暖かく、取材に応じてくれました。ごく普通の英国市民が、ごく普通の生活を送っていたのに、それが突然、変わってしまう。彼らは突然、泥棒扱いされ、悪者にされ、冤罪と社会的汚名の悪夢に搦め捕られてしまったのです。地域社会の中心的な役割を担っていた無実の人たちは、最悪なことに、“会計システム『ホライゾン』に問題があるというのはあなただけだ”とそれぞれ言われていました。彼らは何年も、お互いに同じ問題を抱えているとわかるまで、独りで悲惨な状況に耐えていたのです。そして負傷しながらも何とか生き抜いた数人の被害者が2009年のリメンブランス・サンデー(戦没者追悼記念日、2009年11月8日)に呼びかけ、イングランドのちょうど真ん中あたり位置する村の集会場に仲間を集います。こうして反撃運動が始まったのです」
この運動の発起人となったのが、ドラマではトビー・ジョーンズ扮するアラン・ベイツだ。ヒューズ曰く、物語の中心に据える人物は彼であるというのはすんなり決まったそうだが、何千人という犠牲者の中から他のドラマの登場人物をどのようにして選べばいいか悩んだという。しかも、作品に取り掛かり始めたのはコロナ禍によるロックダウンの真っ最中。まずは電話で取材を進め、ロックダウンが解除されてからようやく実際に対面で取材をすることができたそうだ。
「一緒にお茶を飲み、仲良くなると、登場人物を選ぶのは実に苦しかったです。ドラマの尺では登場させられる郵便局長は8人。ですが、不当な扱いを受け、虐げられた郵便局長たちが語る話はどれも驚くべきもので、ドラマにするのにふさわしいものばかりでした」
その一方、ほとんど取材に応じることのなかったポストオフィス側の人間たち。CEOは何をいつから知っていたのだろうか? ドラマではCEOの経営者としての態度や人柄を公平に描き出すため、彼女の下で働く職員たちを取材し、複数の証言から人物像を探ったそうだ。多くの人がヒューズに対しぶつけた「ポストオフィスの経営陣内部で一体何が起きていたのか?内部の人たちは一体、何を考えていたのか?」という疑問。審問で彼らの保身的な言い分は聞いているそうだが、劇中ではドラマの制作チームなりの答えを描いている。
TVドラマというものがいかに人々の心に訴え、国民の認識を変え、世の動きを変える力を持っているかということが実証された『ミスター・ベイツvsポストオフィス』は6月2日(日)16:00よりミステリーチャンネルにて一挙放送。
『ミスター・ベイツvsポストオフィス』ミステリーチャンネル公式ページ
(海外ドラマNAVI)
Photo:『ミスター・ベイツvsポストオフィス』©ITV Studios Limited 2023