『ドクター・フー』で奇跡の再生!女優ビリー・パイパーと“超サイテーなスージー”の共通点

人生最大のピンチに直面した落ち目の俳優のイタすぎる毎日を、過激な描写と共に描いたダークコメディ『超サイテーなスージーの日常』の待望の続編が登場、「スターチャンネルEX」で9月12日(火)より独占日本初配信がスタートした。シーズン2では、クリスマスシーズンで盛り上がるイギリスを舞台に、ダークで痛々しい“アンチ”・クリスマス・ストーリーが展開する。今回はその見どころを紹介しよう。

英国アカデミー賞や国際エミー賞でも高評価

超サイテーなスージーの日常

『超サイテーなスージーの日常 シーズン2』(全3話)は、主演・製作総指揮ビリー・パイパー(『ドクター・フー』)×脚本・製作総指揮ルーシー・プレブル(『キング・オブ・メディア』)による辛辣で赤裸々なストーリーが高く評価された作品の続編で、『ドクター・フー』の新シリーズや『ダーク・マテリアルズ/黄金の羅針盤』で知られる製作会社 Bad Wolfが手掛ける。今シーズンもビリーとルーシーによる原案・製作総指揮で、後者は脚本も執筆する。

イギリスで2022年12月に放送された際には、英Guardian紙など各紙で絶賛され、レビューサイトのRotten Tomatoesでは映画批評家・一般視聴者共々「100%」評価を叩き出し、前シーズンに続いてビリーが英国アカデミー賞(BAFTA賞)主演女優賞にノミネート。ビリーはさらに先日はアメリカでも国際エミー賞候補にも上るなど、各方面で高い評価を受けている。

物語は前シリーズから6ヵ月が経過したところから始まる。スマホからの写真流出により不倫が発覚し、キャリアも家庭も失ってしまった元国民的スターのスージー・ピクルスは、新たなエージェントと広報に「これまでのイメージを変える絶好のチャンス」と説得されて、人気リアリティ番組「ダンス・クレイジー」への出場を決意。息子フランクの養育権をめぐって前夫コブと戦いながら、スージーの再起への挑戦が始まるが…。

ビリーが自身の半生を彷彿とさせるスージーを熱演!

超サイテーなスージーの日常

このドラマの一番の見どころは、なんと言っても、スージーを演じる英女優ビリー・パイパーの熱演だろう。破天荒な生き様を送るスージーとビリーには共通点が多く、ビリー自身もスージーに負けず劣らずの激しい人生を送ってきた。

演劇学校で芝居やダンスを学びながら、子供番組やCMに出演していたビリーは、1998年にポップ歌手としてデビュー。弱冠15歳で発表したファースト・シングル「ビコーズ・ウィー・ウォント・トゥー」が全英チャート1位を獲得と、最年少記録を打ち立てた。その後2枚のアルバムをリリースするが、次第にアイドルとしては失速し、俳優へと転身。2005年にBBCの人気SFドラマ『ドクター・フー』のローズ・タイラー役で劇的な復活を果たす。これが当たり役となって、TVドラマや映画、舞台などで活躍。2016年に主演した舞台劇『イェルマ』では、ローレンス・オリヴィエ賞主演女優賞を受賞、実力派女優としての地位を確立したほか、映画監督などクリエイターとしても評価されている。

一方で私生活も波乱万丈だ。18歳だった2001年に、16歳年上の人気DJ・司会者クリス・エヴァンス(『キャプテン・アメリカ』シリーズの俳優とは別人)と電撃結婚。芸能界随一のパワーカップルとして話題を集めたものの、2004年に別居、2007年に離婚した。その離婚成立の7ヵ月後、俳優ローレンス・フォックス(『オックスフォードミステリー ルイス警部』)と再婚、二人の息子をもうけるも2016年に破局。子供の親権をめぐって争う泥沼離婚となった。現在はミュージシャンのジョニー・ロイドと交際中で、2019年に娘も生まれている。

スージー役はセルフパロディではないとされるが、あまりにも重なる部分が多いビリーが演じているだけにスージーの心の痛みがダイレクトに伝わってくるし、イギリスの芸能界の実情や離婚後の争いも、より現実的に感じられるのだ。

弱点満載ながらも魅力的な主人公

超サイテーなスージーの日常

シーズン2のスージーは、夫に家を追い出され、息子のフランクに会うこともままならず、仕事も失うなど、まさにどん底を味わっている。周囲への気遣いに鈍感で、「ちょっと迷惑で嫌われやすい女」の代表格とも言えるスージーだが、破天荒で自己中心的ながらも、正直に不器用に生きる姿に胸アツとなり、墓穴を掘ってどんどんドツボにはまっていく彼女をいつの間にか応援するようになっているのは筆者だけではないはずだ。

また、クセの強い女性キャラクターが体験する様々な問題を描くのは、フィービー・ウォーラー=ブリッジ原案・脚本・製作総指揮・主演でアラサー独身女性の現実を描いた『Fleabag/フリーバッグ』や、ミカエラ・コール企画・脚本・監督・製作総指揮・主演で性被害を題材にした『I MAY DESTROY YOU/アイ・メイ・デストロイ・ユー』などのドラマを彷彿とさせる。これらのドラマのファンなら、今作もきっとハマることだろう。

イギリスの聖なる夜に中指を立てる?!

超サイテーなスージーの日常

シーズン2はクリスマスの時期で、スージーが出演するリアリティ番組「ダンス・クレイジー」のファイナルは25日当日に生中継という設定になる。クリスマスといえば、イギリス人が心待ちにする一年で最高のファミリーイベントで、『ラブ・アクチュアリー』のようにクリスマスがテーマの映画やドラマもたくさん作られている。イギリス人にとってはクリスマスに家族で楽しく過ごすことが最も大切とされるため、スージーも息子と一緒のクリスマスにこだわり、理想の家族像にどんどん追い詰められていく。

今作では、そんな表面的なクリスマスに疑問を呈し、より深い部分で「家族とは何か?」という問いを投げかけている。クリスマスに理想を抱くイギリス人たちに対して中指を立てるような、“アンチ”・クリスマス・ストーリーだ。

ショービズ界の実情などのリアルな描写

超サイテーなスージーの日常

現在、日本でも芸能界の隠された暗部がニュースを賑わせているが、今作でもイギリス芸能界の内情やリアリティ番組の舞台裏などを暴くような衝撃的な描写が続く。実際にショービズ界の中心に身を置いてきたビリーならではの内容だ。

スマホがハッキングされて不倫が発覚したり、リアリティ番組の演出により私生活が暴露されたりというメディアの暴走ぶりは、イギリスでエイミー・ワインハウスやキャロライン・フラックなどのセレブがメディアに攻撃された挙句、メンタルヘルスに影響を受けて死に追いやられたという悲劇を思い起こさせる。

また、スージーが「経口中絶薬」を使用して自宅で中絶を行ったり、前夫コブとの熾烈な親権争いが展開されたり、親友ナオミがドナー精子を使って体外受精治療に挑戦したりなど、全編を通して、オブラートに包まないリアルで壮絶な描写に圧倒される。単なるコメディではなく、現代社会が抱える問題を反映する内容でもあり、スージーの前シーズンよりさらにレベルアップした恐れと怒りと悲しみと愛がひりひり伝わる、ショッキングで強烈な怪作になっている。

超サイテーなスージーの日常

『超サイテーなスージーの日常 シーズン2』はAmazon Prime Videoチャンネルの「スターチャンネルEX」にて配信中、10月10日(火)よりスターチャンネルで放送予定。公式ページはこちらより。

(名取由恵 / Yoshie Natori)

Photo:『超サイテーなスージーの日常 シーズン2』© Bad Wolf (IHS2) Ltd. 2022.