大御所監督、大物俳優、伝説的な音楽家…90歳以上でまだまだ現役なレジェンドたち

生き馬の目を抜くような厳しい業界で長きにわたって活躍し続けることのできる人間は、ほんの一握りだ。「人生100年」と言われる時代とはいえ、90歳を過ぎても第一線で活動する選ばれし人たちを紹介しよう。

クリント・イーストウッド

クリント・イーストウッド

1930年5月31日生まれ(93歳)

クリント・イーストウッドは90代になっても精力的に活動し続けている代表例だろう。人気が出たのは『ローハイド』や『荒野の用心棒』に出演した30代になってからとやや遅咲きだったが、『ダーティハリー』シリーズや『アルカトラズからの脱出』を経て名声を確立。40代になると監督としての顔も持つようになり、西部劇(『許されざる者』)、サスペンス(『ミスティック・リバー』『チェンジリング』)、伝記もの(『インビクタス/負けざる者たち』『J・エドガー』『ハドソン川の奇跡』)、戦争映画(『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』)、ミュージカル(『ジャージー・ボーイズ』)など様々なジャンルの作品でメガホンを取った。監督・プロデューサーとしてアカデミー賞を4度受賞し、80代に突入してもおよそ年に一本のペースで作品を発表。最新作『Juror No. 2(原題)』が最後の作品になると言われているが、それを最後に実際に引退したとしても彼のキャリアが比類なきものであることは間違いない。

ウィリアム・シャトナー

ウィリアム・シャトナー

1931年3月22日生まれ(92歳)

ウィリアム・シャトナーは若手時代から『カラマゾフの兄弟』や『ニュールンベルグ裁判』で大物俳優たちと共演していたが、30代半ばで『スター・トレック』シリーズのカーク船長役を射止めて一気にスターダムへ。2000年以降はサンドラ・ブロック主演の『デンジャラス・ビューティ』シリーズに出演したり人気ドラマ『ボストン・リーガル』でレギュラーを務めたりするも、いまだにカークの印象は根強く、先月には火星体験番組のホスト役に起用された。馬に乗るのが好きだったり、ミュージシャンとしての顔を持ち2010年以降に6枚のアルバムをリリースしたりと多趣味のウィリアムは、90歳になった時点でまだまだ人生を楽しみたいという意向を示している。

メル・ブルックス

メル・ブルックス

1926年6月28日生まれ(97歳)

メル・ブルックスは90代後半(!)になっても新たなニュースが飛び出している。彼が監督・製作・脚本・出演などを手掛けた1981年のコメディ映画『メル・ブルックス/珍説世界史PART I』の続編『メル・ブルックス/珍説世界史PART II』が米Huluによってドラマ化され、ブルックスが引き続き脚本・製作を担当したのだ。監督としては、1995年の『レスリー・ニールセンのドラキュラ』が最後だが、近年は『トイ・ストーリー』シリーズや『モンスター・ホテル』シリーズなどの人気アニメーションで声優として活動。映画、舞台でヒットした『プロデューサーズ』により、これまで18人のみが達成した偉業、EGOTを果たしている一人でもある。

ジェームズ・アール・ジョーンズ

ジェームズ・アール・ジョーンズ

1931年1月17日生まれ(92歳)

ジェームズ・アール・ジョーンズといえば、1977年の『スター・ウォーズ』シリーズ1作目からダース・ベイダーの声を担当し続けており、それから50年近く経った『オビ=ワン・ケノービ』でも同役を担っている。その渋い声と落ち着きのあるルックスから、『レッド・オクドーバーを追え』などで主人公ジャック・ライアンの上司を演じたほか、『星の王子ニューヨークへ行く』シリーズでエディ・マーフィ演じる王子の父親に起用されるなど、主人公を支える役回りが多い。なお、メル・ブルックスが達成したEGOTにあと一つ足りない(アカデミー賞のみ未受賞)のがジェームズだ。90歳になった時点で「体調は万全。できる限り演技し続けたい」と述べている。

ジョン・ウィリアムズ

ジョン・ウィリアムズ

1932年2月8日生まれ(91歳)

60年以上に及ぶ作曲家としてのキャリアで150本以上の作品の音楽を手掛け、アカデミー賞に52回ノミネートされて5回受賞と、言わずと知れた映画界の大御所であるジョン・ウィリアムズ。彼がこれまでに生んだ音楽は、『スーパーマン』『JAWS/ジョーズ』『スター・ウォーズ』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』『ジュラシック・パーク』『ハリー・ポッター』シリーズなどなど、日本のファンでもそらんじているものも少なくない。人気シリーズの最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』も担当した巨匠の楽曲をフルオーケストラでお届けするコンサートが今年8月に日本で開催される。なお、ウィリアムズもEGOTにリーチ(トニー賞のみ未受賞)となっている。

リタ・モレノ

リタ・モレノ

1931年12月11日生まれ(91歳)

プエルトリコ生まれだが子どもの頃にアメリカに移住、幼くしてプロのダンサーとして活動し、『雨に唄えば』や『王様と私』といった名作ミュージカルにも出演していたリタ・モレノ。『ウエスト・サイド物語』でもその踊りのセンスを見せつけ、アカデミー賞に輝いた。のちにヒスパニック系として初のEGOT受賞者に。1990年代後半からドラマ界に進出し、『OZ/オズ』や『ワンデイ ―家族のうた―』に出演。近年は、オリジナルから60年ぶりに制作された『ウエスト・サイド・ストーリー』に加わったり、大ヒット映画シリーズの最新作『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』に参戦したりしている。

マイケル・ケイン

マイケル・ケイン(右はモーガン・フリーマン)

1933年3月14日生まれ(90歳)

小学校の学芸会で『シンデレラ』の父親役を演じたマイケル・ケインは、10代前半だった時に1946年のテレビ映画に端役で出演。陸軍従軍後の1950年代後半から本格的に俳優活動を始め、30代前半で主演した1967年の『アルフィー』で初のアカデミー賞候補に。1972年の『探偵<スルース>』では名優ローレンス・オリヴィエ相手に一歩も引かない演技を見せてそろってアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。一時はオファーをあまり選ばなかったこともあり『ポセイドン・アドベンチャー』や『ジョーズ』の続編に出演するも、1999年の『サイダーハウス・ルール』で『ハンナとその姉妹』(1986年)に続いて2度目のアカデミー賞助演男優賞に輝いて以降は出演作の質も向上。『ダークナイト』3部作でアルフレッド役を演じるなど善人・悪人を見事に演じ分けている。近年も『ジーサンズ はじめての強盗』『キング・オブ・シーヴズ』『ベスト・セラーズ』などで主役を演じており、今年10月にも主演映画『The Great Escaper(原題)』が公開される。

ジェームズ・アイボリー

ジェームズ・アイボリー

1928年6月7日生まれ(95歳)

ジェームズ・アイボリーは米カリフォルニア州生まれだが1970年代に英国へ拠点を移し、英国をはじめとした文芸作品を手掛けるように。1980年代後半から1990年代前半にかけて『眺めのいい部屋』『ハワーズ・エンド』『日の名残り』でアカデミー賞監督賞に3回ノミネートされた後、2017年の『君の名前で僕を呼んで』で89歳にして脚色賞を受賞。エンリオ・モリコーネ(当時87歳)を抜いて、最年長のオスカー受賞者となった。その後も活動を続け、2022年には自身の人生を変えた1960年のアフガニスタン旅行を振り返るドキュメンタリー作品『A Cooler Climate(原題)』を手掛けている。

エレン・バースティン

エレン・バースティン

1932年12月7日生まれ(90歳)

モデル、ダンサーを経て女優の道に入ったエレン・バースティンが大きく注目されたのは1970年代。1971年の『ラスト・ショー』でアカデミー賞の助演女優賞、1973年の『エクソシスト』で主演女優賞にノミネートされ、1974年の『アリスの恋』で主演女優賞を手にした。70代目前で出演した2000年の『レクイエム・フォー・ドリーム』で20年ぶり6度目のオスカー候補になるなど、年を重ねても女優業を続けており、10月全米公開予定の『エクソシスト』シリーズ新作『The Exorcist: Believer(原題)』で50年ぶりにクリス・マクニールを演じている。

クインシー・ジョーンズ

クインシー・ジョーンズ

1933年3月14日生まれ(90歳)

マイケル・ジャクソンと共同制作したアルバム「スリラー」の売上が世界一というギネス記録を打ち立てた大物ミュージシャンのクインシー・ジョーンズ。1950年代に音楽活動を開始し、マイルズ・デイヴィス、フランク・シナトラやレイ・チャールズとも一緒に仕事をしている。1964年のシドニー・ルメット監督作『質屋』から映画界の音楽も手掛けるように。映画ではほかに『夜の大走査線』『冷血』『カラーパープル』、ドラマでは『ROOTS/ルーツ』『鬼警部アイアンサイド』といった作品の音楽を手掛けて強烈な印象を残した。これまでグラミー賞では80回ノミネートされてそのうち28回で受賞、アカデミー賞候補になった経験は7回を誇る。今年の7月下旬には彼の90歳を祝うイベント「Quincy Jones’ 90th Birthday Tribute: A Musical Celebration」が行われ、多くのアーティスト仲間が駆け付けた。90歳になったクインシーはこれまでのキャリアを振り返って、「地球に存在した最も偉大なアーティストたちと一緒に仕事することができる時代に生まれた自分は本当に恵まれている。これまでの歩みのどれ一つとして変えたいものはない」と発言。現在も活動を続ける彼は、「“引退”という言葉は自分の辞書にない」と語っている。

Photo:クリント・イーストウッド ©FAM008/FAMOUS, ©SOLAR/ACE/FAMOUS/ジェームズ・アール・ジョーンズ ©NYKC/FAMOUS/エレン・バースティン ©Chris Black/FAMOUS/ウィリアム・シャトナー ©Dara Kushner/FAMOUS/メル・ブルックス ©ELENA BASO/FAMOUS/リタ・モレノ ©Z18/FAMOUS/マイケル・ケイン ©AVTA/FAMOUS/ジェームズ・アイボリー ©HUBERT BOESL/FAMOUS/クインシー・ジョーンズ ©NYPW/FAMOUS