『デピュティ ロサンゼルス郡保安局』LAPDではなくLASDの活躍を描く骨太犯罪捜査ドラマの誕生

海外ドラマが好きな読者であれば、もはや周知の事実であろうと思うが、海外ドラマという作品群の中で最も人気のあるジャンル…。それは犯罪捜査ドラマだ。警察やFBIを初めとした犯罪捜査機関が凶悪な難事件を捜査し解決へと導いていく。毎話異なる事件が発生し、多くの作品が1話完結型であることも見やすさという点から好まれる理由であろう。

そんな海外ドラマ屈指の人気ジャンルである犯罪捜査ドラマは、ロサンゼルスを舞台としていることが意外にも多い。名だたる作品が、これまで「LA」や「ロサンゼルス」というタイトルを冠し、大きな成功を収めてきた歴史があるのだ。そして、また一つ、新たな犯罪捜査ドラマがその歴史に名を加えようとしている。ロサンゼルス郡保安局(LASD)の保安官の活躍を描いた『デピュティ ロサンゼルス郡保安局』である。

ある日突然保安官に任命された男が内部改革に挑む!

『デピュティ ロサンゼルス郡保安局』で主人公となるのは、LASDの優秀な捜査官であるビル・ホリスター(スティーヴン・ドーフ)。彼がある日、前任の保安官が急死してしまったことを受け、意図せず後任に抜擢されることから物語は幕を開ける。

会議やマスコミ対応が大の苦手で、現場で容疑者を追い詰めるほうが得意な性格であることから、なかなか慣れない毎日を送るホリスターであったが、次第に保安局内部の改革に乗り出すようになり、型破りな方法で改革を推し進めていくのだった…。

LAPDとLASDの違いとは?

本作で活躍を魅せるロサンゼルス郡保安局(LASD)とは一体どんな組織なのだろうか?

ロサンゼルスの警察機関と言えば、ロサンゼルス市警(LAPD)が有名だとは思うが、LASDは全く別の組織である。LAPDはカリフォルニア州のロサンゼルス市に拠点を置いており、LASDはロサンゼルス市を初めとしたロサンゼルス郡全域を管轄としている法執行機関なのだ。その業務は多岐にわたり、地域の治安維持だけではなく、刑務所の管理なども任されている。

本作の主人公であるホリスターは「保安官」という役職に任命されるが、通常、保安官は現場に行かず、階級が低い代理の捜査官たちが捜査を行うことでも知られている。LAPDとは全く異なる組織体制で運営されている法執行機関であるため、刑事や警察が主人公の犯罪捜査ドラマにマンネリを感じている視聴者には新鮮に映ること請け合いだ。

骨太作品を手掛けてきた製作陣が描き出すドラマ

犯罪捜査を目的としたストーリー構成となっている本作ではあるが、根底にあるのは、家族、同僚、部下といった周囲の人間を巻き込んだ“ファミリー”のドラマである。まるで全員が家族であるかのように強固な絆で結ばれた登場人物たちの関係性が明確にされており、保安官である以前に一人の人間としての主人公ホリスターと彼を支える人々の心揺さぶるドラマが描き出されている印象である。

そのため、アクションという観点から言えば少々物足りなさを感じることがあるかもしれない。しかしながら、それを補って余りあるシリアスな人間ドラマが魅力的であり、一人一人のキャラクターがしっかりと深堀されているのである。そのほか、移民問題を扱ったエピソードも多く、移民大国であるアメリカの社会問題を浮き彫りにしている点も秀逸だ。

非常に男臭い骨太作品という印象を大いに受けるのだが、その理由は本作の製作陣にある。骨太映画を撮らせたら右に出る者はいないデヴィッド・エアーが、製作総指揮として名を連ねているのだ。

エアーと言えば、2016年公開のDC映画『スーサイド・スクワッド』が最も有名かもしれないが、実は『バッドタイム』(2005)や『フェイクシティ ある男のルール』(2008)、『エンド・オブ・ウォッチ』(2012)など、警察関連の作品で高い評価を得てきたフィルムメイカーでもある。そして、どの作品でも描いてきたのが、警察内部の汚職とその周囲で巻き起こる家族のドラマだったのだ。本作でも腐敗したロサンゼルス郡保安局内部の実情に鋭く切り込んでおり、これまでエアーが手掛けてきた作品と通じるものが数多くある。

まさにデヴィッド・エアーの魅力が凝縮された作品となっており、そこに『キャッスル ~ミステリー作家は事件がお好き』のウィル・ビール、『ジ・アメリカンズ』のクリス・ロングといった実力派スタッフによる新たなエッセンスが加えられることで、より洗練された大人向けの骨太作品が誕生したと言えるだろう。

主演を務めるのは、数多くの良作で存在感を発揮してきたスティーヴン・ドーフ

本作の主人公で、掟破りの保安官ビル・ホリスター役に扮するのは、ベテラン俳優のスティーヴン・ドーフ。子役としてデビューを飾ったドーフは、1990年代にアイドル俳優として人気を博した過去を持つが、実に多くの良作に出演している俳優でもある。

アメコミ映画黎明期に製作されたマーベル映画『ブレイド』(1998)、刑務所内でのサバイバルを描いた『プリズン・サバイブ』(2008)、映画スターと娘の絆を描いた『SOMEWHERE』(2010)など、彼が出演した映画は軒並み高い評価を得ると言っても過言ではなく、その審美眼には確かなものがある。

加えて、近年はTVドラマ界への進出も果たしており、近いところで言えば『TRUE DETECTIVE/迷宮捜査』での好演も記憶に新しい。

そんなスティーヴン・ドーフの新境地とも言える演技が見られるのもまた本作の魅力。ドーフ扮するホリスターは堅苦しい会議が大嫌いな根っからの捜査官気質のキャラクター。その性格が反映されてか、保安官としての最初の業務で、開口一番、同僚や部下たちに向かって「君たちはクビだ!」と、いきなりの解雇宣言が飛び出す。同時に「10時間で結果を出せば、また雇ってやる」とも。毎日がその繰り返しだと言うほどのスパルタぶりを発揮する。

さらに、会議に次ぐ会議に明け暮れる上層部に対しても「現場に出ろ」と言い放つ。

まさに組織改革のためならば手段を選ばない、人一倍正義感の強い男を演じるドーフの熱い演技は見事。これまでは、言葉数の少ない寡黙な男を演じることが比較的多かったドーフの新たな表情の数々は、ファンにとても新鮮な印象を与えることだろう。

セレブたちが闊歩する煌びやかなロサンゼルスとは異なるLAの“裏の顔”を炙り出した、骨太犯罪捜査ドラマ『デピュティ ロサンゼルス郡保安局』。実力派のスタッフとキャストの力を結集し、新たな傑作ドラマが誕生した。

『デピュティ ロサンゼルス郡保安局』は10月7日(金)よりDVDレンタル開始。

(Zash)

Photo:『デピュティ ロサンゼルス郡保安局』© 2020 EONE AND FOX MEDIA,LLC. All rights reserved.