前作の公開から2年、大ヒットドラマシリーズ待望の劇場版第2弾『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』がこんなに早く実現するなんて、ファンにとってはまさに感涙もの。しかもドラマ版のキャストがほぼ勢揃いし(ヘンリー役のマシュー・グード不在が残念!)、クセ強めの新キャラも登場! 劇場版ならではの一大ロケを慣行した壮大なドラマが展開する。果たして副題にもなっている“新たなる時代”が意味することとは?【映画レビュー】
そもそも『ダウントン・アビー』とは?
まずは、初見の方に基盤となるドラマシリーズの物語の骨組みを。舞台はイングランド北東部ヨークシャー・ダウントン村にある大邸宅。歴史上の出来事(1912年~25年)を織り交ぜながら、ここの主であるグランサム伯爵ロバート(ヒュー・ボネヴィル)を中心としたクローリー家とその使用人たちの悲喜こもごもの暮らしぶりを描く。
2015年に全6シーズン・全52エピソードでシリーズは幕を閉じたが、その間、ゴールデン・グローブ賞やエミー賞など数々の賞を獲得し、高い評価とともにダウントン旋風を世界中に巻き起こした。
映画『ダウントン・アビー』の注目ポイント
劇場版として復活した第1弾では、相続争いが激化する中、イギリス国王ジョージ5世とメアリー王妃が邸宅を訪問することになり、てんやわんやの“おもてなし”作戦が展開されたが、第2弾となる今回は、なんと2つのトピックが同時に発動。
1つは、邸宅の莫大な修繕費を補うために、ハリウッド映画の撮影地として使用を許可したこと。スター女優がわがまま放題に使用人をこき使い、主演男優は“ある人物”を自分の執事として連れて帰りたいと懇願し、挙句の果てにはクローリー家の長女メアリー(ミシェル・ドッカリー)の肝の据わった仕切り屋ぶりに惚れた監督が、人妻である彼女に恋心を抱く始末。もう邸宅内は前作以上にてんやわんやだ。
もう1つは、ロバートの母バイオレット(マギー・スミス)が突然、モンミライユ男爵という今まで聞いたこともない富豪から南フランスの別荘を贈られたこと。劇中、その話し合いをするために、ロバート夫妻は現地を訪れることに。若き日のバイオレットに何があったのか、そしてその秘密はロバートのアイデンティティーを揺るがす問題に発展。クローリー家はついに新たな局面を迎えることに…!? ここはあえて封印しておくが、それにしても、南フランスならではの開放感あふれるロケーション、カラフルでゴージャスな別荘はこれまでになかった世界観。しばし目の保養を楽しむことができる。
さて、こうして物語を追うだけでカオス状態が想像できるが、2つのトピックを通して改めて思うのが、このドラマは善くも悪しくも長女メアリーと、彼女に強い生き方を仕込んだバイオレットが軸であることだ。
「メアリーはなぜ、こんなにモテるのか?」(代表的な例でもテオ・ジェームズ、ダン・スティーヴンス、そしてマシュー・グードと歴代の彼氏、夫を演じる俳優はイケメンばかり!)。たびたびドラマファンの間でも話題になったが、今回メアリーに急接近する映画監督役もヒュー・ダンシーとなかなかのイケメン。
実はここにこのドラマの根強い人気の秘密が隠されていると勝手に推測する。慌ただしい群像劇の“要(かなめ)”を成すメアリーは、女性躍進のシンボルとして現代社会とシンクロするキャラクター。外見だけでなく、勇気と決断力を持った彼女のリーダーシップ(今回もハリウッド映画の撮影を決断したのは彼女)は、女性だけでなく、もはや男性からも支持される憧れの存在。並みの男では対抗できないメアリーを振り向かせることができてこそ「真の実力者」と思わせるカリスマ性がファンを惹きつける。
だがその一方で、傲慢すぎる性格が「悪い種」となり、さまざまトラブルを引き起こしていることも事実。そして、彼女の師匠ともいえる祖母であり女帝でもあるバイオレットの自由奔放な生きざまもまた然り、この二人がいなかったら、さまざまな愛憎劇も薄味となり、ダウントン沼もここまで深くならなかっただろう。劇場版第2弾はそれを象徴する作品となったように思う。
と、ここまでドラマファン目線で書いてきたが、この作品、1本の映画として十分面白いが、「ドラマ版を観ていなくても大丈夫!」とはさすがに言い切る自信はない。ならば、興味はあるけれど、今一歩躊躇している方への秘策。
例えば、10分で全シーズンのドラマの流れや登場人物の背景、キャラクターが概ね掴める特別映像がYouTubeなどで配信されているので、まずはそれでさらっと予習して劇場版を観てみてはいかがだろう? これだけでも映画の面白さ、理解度は増すこと必至。そのあと、ドラマシリーズに立ち返って、「これが彼女たちの歩んだ歴史だったのか」と、改めてダウントン沼にハマる、というパターンも面白いかもしれない。
映画『ダウントン・アビー/新たなる時代へ』は、絶賛公開中。
(文/坂田正樹)
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