全国新聞初の外国人記者として東京のアンダーグラウンドを駆け巡ったジェイク・エーデルスタインの「トウキョウ・バイス アメリカ人記者の警察回り体験記」を元にオリジナル脚本にてHBO MaxとWOWOWが実写ドラマ化した『TOKYO VICE』。
WOWOWオンデマンドにて日米同時配信中の本作だが、このたび、片桐役の渡辺謙と宮本役の伊藤英明に直撃インタビュー! コロナ禍での撮影の様子や、共演したアンセル・エルゴート、監督を務めたマイケル・マン(『マイアミ・バイス』)とのエピソードなどを伺った。
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コロナ禍による撮影延期…
――コロナ禍(2021年)での撮影だったとのことですが、現場の様子はいかがでしたか?
渡辺:クランクイン当時は、新型コロナウイルスの感染が国内で報告され始めた頃でした。まだ、マスクをしていない人も多かったですね。撮影が開始したものの、感染拡大に伴って、撮影も半年くらい延期になってしまって。
撮影が再開してからは特に大変でした。メインで出演する俳優はもちろん、それに付随するアシスタントやメイクスタッフなどは、三日に一度PCR検査を受けていました。
伊藤:撮影現場はゾーンで分かれていましたね。接触していい人・してはいけない人って。撮影開始一週間前には、抗原検査とPCR検査を受ける。現場に入る直前にも抗原検査を行うんですが、その瞬間がいつも怖かったです。感染していたらどうしようって。
渡辺:僕ら役者は替えがきかないので、常に細心の注意を払っていました。当たり前のことですが、会食はもちろんのこと、人には会わない日々が続きましたね。今まで以上に撮影のことだけを考えて生活していました。特に今回、規模が大きい現場だったので、その分プレッシャーも大きかったです。車両やスタッフも、通常の倍じゃ効かないくらい。
伊藤:国内作品の場合、コロナ禍の影響で、最近はエキストラさんも三分の一くらいに減らされているんです。それを思うと本当に大規模。渋谷での撮影なんてすごかったですよね。ブロック全部貸し切り! 日本じゃなかなか考えられないです。
脚本のつくりや撮影方法は「アメリカ式」
――米HBO Maxと日WOWOWの共同制作となった本作ですが、普段の撮影と異なる点はありましたか?
渡辺:撮影プロセスは、ほぼアメリカですね。もちろんWOWOWを始めとする日本のスタッフもいましたけど、脚本のつくりや撮影方法は、基本的にアメリカ式。とはいえ、どんな違いがあっても「この現場はこう」って、僕ら役者はアジャストするだけなので。そんなに違和感はありませんでしたね。
伊藤:僕はただ、規模感に圧倒されていました。謙さんは普段こういう舞台で戦っているんだって……!
渡辺:そんな、気楽にやってたじゃない(笑)
伊藤:気楽な雰囲気の役だったので(笑)いろいろな面で、謙さんが先頭に立って、我々を引っ張ってくれました。台本に関しても、翻訳されると台詞が生っぽくなくなっちゃうんですが、そんなとき「こういう訳にしたら?」って、脚本の段階から謙さんが指摘してくださって。
渡辺:台詞といえば、今回はヤクザ・警察・新聞記者が登場する。それぞれ特殊な用語・話し方があるので、アドバイザーに直してもらっていましたね。そういったサポートも手厚い現場でした。
正月はアンセル・エルゴートを自宅に招待!
――渡辺さんは敏腕刑事の片桐を、伊藤さんは裏社会とのつながりがある刑事の宮本を演じられています。どちらもアンセル演じるジェイクと共演するシーンが多かったかと思いますが、彼の印象はいかがでしたか?
渡辺:対照的な二人ですよね。片桐と宮本は。片桐は、ジェイクと少しずつ距離が縮まっていく。宮本は、ジェイクの懐にポーンと飛び込んでいって、自分の仲間に引き込んでいく。英明とアンセルのシーンについてスタッフから聞いていると、好き放題やってるなこいつら! って思ってました(笑)
伊藤:僕が演じた宮本はダブルフェイス。アンダーグラウンドともつながっているし、警察にも所属している。両方を利用しながら、暗躍しているんですよね。第1話でジェイクと交流し始めたきっかけだって「外国人を英語で口説きたいから」っていう。
外国人の記者ジェイクに対して、日本のアンダーグラウンドな世界を教えていく宮本……。アンセル自身も、役作りのために日本の日常を体験したいということで、プライベートでもよく一緒に過ごしました。
渡辺:正月休みが一週間くらいあったんですよ。それで、クリスマス頃だったか、アンセルに「どうすんの正月は?」って聞いたんです。そしたら「友達の家で過ごす」「どこ?」「岐阜」「ああ、英明の家か!」って。岐阜だったら、うちは長野だからそんなに遠くない。それで、うちにも来なよという話になりました。
うちには2泊して、いろいろな話をしました。アンセルはすごく役の話をしたがったんです。でも俺は「後でしよう」って。というのも、僕らは結局動物だから、プライベートで仲良くなりすぎると、いくらシリアスなシーンでも親密な雰囲気が出てしまうんですよ。だから、片桐とジェイクの関係を念頭に置きながら、上手に距離を測って接していました。とはいえ、楽しい時間を過ごせましたよ。
伊藤:僕の家では5日間くらい。とにかく日本のお正月を体験してほしかったので、刀の鍛冶屋や神社、お城などに連れていきましたね。鍛冶屋では、アンセルに刀を買ったんですよ。模造刀で、本身ではないんですけど。それをアンセルが謙さんの家に忘れていっちゃって!
渡辺:うちに来たときに見せてくれたんですよね。「これ本身だったらやばいぞ? 登録とかしたのか?」「フェイクだよ」とか言って。それをすっかり忘れていっちゃったもんだから……。東京に車で帰るときに、銃刀法違反で捕まる! ってハラハラしました(笑)現場でアンセルに渡すときもこっそりと(笑)
“役者”アンセル・エルゴートの印象は?
――お二人ともアンセルと楽しい時間を過ごされたんですね! 役者としての彼の印象はいかがでしたか?
渡辺:すごい真面目だなって。監督のマイケルに出会ったことも、彼にとっては刺激があったんでしょうね。本作の製作にあたって、マイケルはとにかくリアリティを追求していた。その姿を見て、アンセルも日本の文化を自分の中にできるだけ取り込もうとしていた印象です。
伊藤:日本語がとても上手で、積極的にいろんなことを体験しようとしましたね。アンセルには日本人のアシスタントがついていたんですが、その彼の六畳一間の家に泊まりに行ったり、休みになると代々木公園でバスケしたり。
積極的に日本人と交流していました。自分が経験して感じたことを役に反映させて、厚みをもたせるっていう。彼からはある種「覚悟」を感じて、だからこそ、僕も助けになりたいって思いました。
渡辺:日本語に関していえば、アンセルも上手いんですが、ジェイクのモデルになった方は相当流暢なんです。だから、あまりにも片言すぎたり、聞いただけでは意味がパッと伝わらないなと思ったりしたときは、遠慮なく「この部分は英語でやろう」と。そのあたりは腹を割って話しましたね。もちろん、アンセルがそこまでレベルをあげてきてくれたので、指摘できたわけですけど。
それと、熊谷だったかな。少し東京から離れた場所で三日間ロケがあったんです。みんな好きなホテルを選んだんですが、アンセルはどうしても旅館がいい! って。でも、その周辺にグレードの高い旅館はなかったんですよ。後日、旅館はどうだった? って聞いたら「寒かった!」って言ってました(笑)そういう面からも、彼の心意気は伝わってきましたね。
ハリウッドが描く“日本”について
――渡辺さんは『ラスト サムライ』や『硫黄島からの手紙』、『追憶の森』など、ハリウッド製作による日本が舞台の作品に多く出演されています。ハリウッドが描いた日本の描写は、「違和感がある」など厳しい意見が飛び交うこともあるかと思いますが、それについてどうお考えでしょうか?
渡辺:ケースバイケースではありますが……『SAYURI』の時などはオペラをやっていると思ってました。アジアンテイストというか、「これちょっと日本と違うんじゃない?」という部分があっても、ある種僕は許容していました。
とはいえ、『ラスト サムライ』や『硫黄島からの手紙』みたいに、がっつり日本を描く場合、問題があればアートデザインや音楽担当に指摘をすることもあります。ただ、「日本人以外の視点による日本」という切り口としての面白さもありますよね。「日本人が日本人の視点でみる」ものとは違う。いい意味で、せめぎ合いですね。
――本作の日本描写についてはいかがでしょうか? 第1話を見た限り、かなり「そのままの日本」が描かれているように感じました。
渡辺:今回は1990年代の東京が舞台。現代と非常に近いようで、遠い話です。アートセクションも大変だったでしょうね。車もそうだし、衣装、小道具……すべて30年近く前のものを用意しないといけない。
伊藤:細かいディティールもすごくこだわっていましたよね。喫煙シーンも、みんなが煙もくもくの中でタバコを吸っていて……。衣装も、あの頃のコートやスーツだねって。
渡辺:「ああ90年代だな」って思えるサイズ感なんですよ。ちょっとだっぷりしていて。そういう意味では、作品の世界観に入りやすかったですね。
伊藤:マイケル監督が、ものすごくこだわるんですよね。たとえばエキストラさんが200人いたとして、現場で一人ひとりの衣装を確認する。実際撮影してみて、「違う!」と思ったらやり直し。そういう時間の使い方をするんだって思いました。
渡辺:マイケルはものすごくエネルギッシュ! 初日に、二本車線の道路での撮影シーンがあったんですが、通行止めにはできなかったんですよ。警察とは「横断しない」という取り決めがあったんですが、目を離した隙にマイケルだけ渡っちゃったりして。もう止められない(笑)
「誰も見たことがない」日本のアンダーグラウンド
――真摯な日本描写という点では、海外ドラマ・洋画ファンも安心して視聴できそうですね。最後に本作の魅力をお教えください!
伊藤:国内・海外に限らず、日本のアンダーグラウンドをリアルに描いた作品って、なかなか見たことがない。マイケル監督をはじめ、アメリカから見た日本は、日本人にとって斬新に映ると思います。「誰も見たことがない日本」の姿に期待してもらえれば!
渡辺:アートセクションだけじゃなく、社会的な面も含めて、「ああ、日本ってこうだったよな」と感じるかと思います。1990年代って、いわばアナログとデジタルの分岐点。テクノロジーだけでなく、精神構造の面でもそうでしたよね。
そんな“カオス”なところは、面白がってもらえるんじゃないかな。年齢関係なく、全方位に幅広く楽しんでもらえる作品に仕上がっていると思います。
『TOKYO VICE』放送・配信情報
ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』
本日4月24日(日)WOWOWにて独占放送スタート
WOWOWオンデマンドにて第1話配信中
出演:アンセル・エルゴート、渡辺謙、菊地凛子、伊藤英明、笠松将、山下智久
監督:マイケル・マン(第1話)ほか
(海外ドラマNAVI)
Photo:『TOKYO VICE』©HBO Max / Eros Hoagland ©HBO Max / James Lisle