海外ドラマのセットビジット、こんなことやってます...

 

海外ドラマ関係の記事などでよく見かけるセットビジットという言葉。セットビジットは、一般の人は何か特別なこと(読者プレゼントの抽選等に当たる)がない限り無理だ。
初めて「セットビジットに行ってください」と依頼があったとき、「おおお! セットを訪問(ビジット)できるんだ!」と舞い上がり、セット見学だけだと勘違いして録音機器を持たずにスタジオ入りした。ところが、「セットビジット」とは、セット見学がメインではなく、撮影の合間に取材に応じるタレントにインタビューするのが目的だとわかり、痛い思いをした。かれこれ7年くらい前のことだ。
それから後、セットビジットの機会は、HBO作品の台頭や『24 -TWENTY FOUR-』のヒットでもたらされたTVの黄金期とともに急増。特に、映画と違って、次々と新しいエピソードを撮影していかなければいけないTVスターたちにとって、週末に記者会見場に行って取材をこなすよりも、平日、撮影現場に記者たちに来てもらって取材をこなす方が楽だからだ。
そんなワケで、TVのセットビジットは、大所帯の記者会見スタイルで行われることが多い。そして、これまで私は、記者として参加するだけでなく、コーディネイターとしてTVのセットビジット記者会見を開催してきた。

『24 -TWENTY FOUR-』は、日本公式記者を担当させていただき、また、公式メイキング本を執筆したというのもあり、数え切れないほどセットビジットをした。初期のCTU、新しくなったCTU、チャールズ・ローガン大統領の別荘、そして、シーズン7のFBIオフィスやホワイトハウスのセットなど、実際に座って取材をしただけでなく、写真も撮影した。
思い出深いのが『プリズン・ブレイク』。「監獄ツアー」と銘打ったセットビジットは、舞台となったフォックス・リバー刑務所(実際は、ジョリエット刑務所)を訪問。数年前まで現役だったジョリエット刑務所は、100年以上の歴史を持つ刑務所。いかにもな外観に圧倒されたのはもちろんだが、臭いがすごい。囚人は、それぞれの房に付いているむき出しの便器で用を足すので、その臭いが建物に染みついているのだ。ただ、タレントのインタビューは、(悪臭漂う)ジョリエット刑務所ではなく、もっと市内に近い場所に作られたジョリエット刑務所の複製セットのある、(無臭の)スタジオで行われた。
CSI:』シリーズや『グレイズ・アナトミー』で仰天させられたのが、高価な専門機材がそこかしこに置いてあること。おまけに、ゴム手袋等の消耗品もその辺にごまんと転がっていて、アメリカTVドラマの予算が日本とは桁違いなことを実感させられた。

 

すべての予定を事前に知らないとイライラするタイプの人は苦痛を強いられるのがセットビジット。というのも、タレントは撮影の合間に我々の相手をしてくれるので、いつインタビューできるかはもちろん、順番も分からないからだ。カメラの位置チェンジの際に取材できることが多いが、それぞれのシーンを何テイクで終われるかなんて誰も確約予想をすることはできない。1日の撮影スケジュールは出ているので、おおよその予想は付くが、それでも、「あと3分でタレントが来ます」と教えてもらえることもあれば、「今来るので、着席してください」と言われることもある。現場のスタッフに配られる予定表Call Sheet(コールシート)をもらえば、大体の取材の予定やタレントの順番の予想がつく。しかし、コールシートをもらえるセットビジットは少ない。
日本では、「大勢の人を相手に何かをする場合、予定がきちんと決まっているべき」という風潮がある。なので、日本人だけセットビジットの場合、「次は何時に誰が来るんですか?」と頻繁に質問される。しかし、その答えは、私も現場のスタッフも「わかりません」なのだ。そこで、コールシートを使って状況を説明し、理解を深めてもらうようにしている。説明の内容はこうだ。
「コールシートによると、今日は、エピソード8の撮影第2日目で、今日はこれらのシーンを撮影予定です。出演タレントはここに書いてあるこの人たちで、それぞれのシーンは脚本のこれくらいの長さ分あります。このタレントは、今日は後半で撮影するシーンだけに出演するので、夕方入りです。なので、きっと夕方頃取材できるか、または、撮影終了後か、取材できないかでしょう。ただ、この別のタレントは、朝一の撮影の後、夕方まで撮影がないので、きっとお昼頃に取材できると思います」
日本人記者の多いセットビジットになる場合は、事前に先方に「コールシートを必ずください。そして、どんな細かいネタでもいいので状況がわかる情報はすべてください」と伝えておくが、最近は、現場の担当者もそうした日本文化を理解してくれるようになり、コールシートの用意と状況の逐一報告がなされるようになった。

では、セットビジットの開始時間は? それはその都度違う。早起きの好きなデヴィッド・カルーソ主演の『CSI:マイアミ』は、朝8時や9時。これまでで一番遅かったのは午後2時からの『CSI:科学捜査班』。『グレイズ・アナトミー』の取材が午前中に入り、どうしても午後からしか『CSI:科学捜査班』に行けないという状況だったが、ラッキーなことに主演陣が夕方以降の撮影だったためにダブルヘッダーのセットビジットが実現した。そんなワケでこの日は、朝8時半集合で、夜10時くらいまで取材した。昨年の『プリズン・ブレイク』のセットビジットも、朝8時半集合で、終わったのは夜の10時半過ぎだった。

好きな作品のセットビジットなら、興奮していろいろ写真を撮影したいのがドラマファンというもの。しかし、セットビジットの多くは、自分のカメラでの撮影禁止となっている。カメラ自体の持参禁止の場合もあるが、カメラ付き携帯電話が主流になってからは、携帯電話を自宅か車に置いてくるか、疑わしい行動をしないように通信機器としてのみ使用するかとなっている。どうして自分のカメラで撮影できないのか。それは、ネタバレしては困るだけでなく、組合の規制もあるからだ。映画とTVのプロダクションは、カメラマンをはじめ、スタッフは組合員に限るとしている。独立系のプロダクションはこの例外になるが、TVのプロダクションは組合員で構成されるプロダクション。そのため、セットビジットで記者のために写真を撮影するとしても、カメラマンは組合員でなければいけないのだ。また、作品によっては、宣伝部が許可を出した日本人カメラマンが写真撮影をしてもいいこともあるが、それは稀だ。

そして、セットビジットの際の服装は、「足音が響かないクツ」が原則。見学をさせてもらえるとき、すぐ隣で撮影というシチュエーションも多い。そんなとき、足音が響くクツを履いていようものなら、みんなから一斉に怒りの目線を頂戴することになる。スニーカー、またはアグのブーツがお勧めだ。基本的にセットは極寒。なので、アグのブーツは大活躍する。なぜ極寒なのか。撮影にはたくさんの照明をつける。そして、カメラなどさまざまな機材も稼働し、人もわんさかいる。そのため、常に冷房がガンガン入っている。おまけに、セットのあるサウンドステージは、コンクリートの床で、体育館のように天井が高い。底冷え確実なのだ。

 

ロサンゼルスは車がないと移動できない不便な町。それゆえ、セットビジットのあるスタジオには直接自家用車で乗り付けていたが、最近はそれができなくなってきた。テロ以降警備が厳しくなったのと駐車場スペースが限られているからだ。そんなワケでよっぽど近所に住んでない限り、セットビジットのために海外から渡航してきた記者の宿泊するホテルに集合し、ホテルに自家用車を停めて、スタジオまたは、放送局側が用意したバスでスタジオに入るようになっている。これにより、目的のタレントの取材が終わった時点でフケる記者(特にヨーロッパ)が少なくなった。

さて、これまでに取材・開催したセットビジットは、以下の23作品。
『24 -TWENTY FOUR-』『4400 未知からの生還者』『90210』『エンジェル』『ボーンズ』『バフィー ~恋する十字架~』『チャームド 魔女3姉妹』『コールドケース』『CSI:科学捜査班』『CSI:マイアミ』『CSI:ニューヨーク』『デクスター~警察官は殺人鬼』『ギルモア・ガールズ』『グレイズ・アナトミー』『ジョーイ』『ミディアム 霊能者アリソン・デュボア』『名探偵モンク』『NCIS ~ネイビー犯罪捜査班』『NUMBERS~天才数学者の事件ファイル』『The OC』『プリズン・ブレイク』『ターミネーター サラ・コナー・クロニクルズ』『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』。
今年はまだどの作品のセットビジットができるか予定は出てないが、『MAD MEN』『Dr. House』のセットビジットとかできたらいいな~......なんて思っている。