空前の大流行!「ヴァンパイアもの」分析します!そして、『トゥルーブラッド』は面白い!

干からびそうだった猛暑も終わりを遂げ、首筋も涼しい季節がやってきましたね。
みなさん如何お過ごしですか? 私はこの初夏に17年間を過ごしたアメリカ生活に終止符を打ち、東京に移住を決め帰ってきたところです。思えば長かったアメリカ生活、実はもうお腹いっぱい、少し飽きたぞ!という心中ではあるのですが心残りがいくつかあるのです・・・。

ひとつめ。帰国が『トゥルーブラッド』のシーズン2のDVD発売日直前だったこと。
ふたつめは6月から始まったシーズン3も見逃していること。

無念です・・・。友よ、餞別にはDVDセットを送っておくれ。

というわけで私の帰国前、海のむこうの世間では新作『トゥルーブラッド』シーズン3のスタート&シーズン2のDVD発売のニュースで持ちきりでした。それで日本に帰ってきたら「HBOが放つ『SATC』、『ザ・ソプラノズ』に続く大人気シリーズが上陸!」なんてコピーを見たりして、「あ~そうだったのぉ。」なんて認識してみたり。実はもっとコアなファンがついている地味なアート系カルトドラマだと思っていたの。だってあっちでは批判大好きなクリエイターやアート系の子達の中で流行ってた感じがあったからね。

ここ過去数年、映画界、ドラマ界で空前の大流行りだった吸血鬼ネタ、わたし的には大きく分けて二種類に分かれたと思っていました。ひとつは定番のゴシックファンタジー系。『バフィー ~恋する十字架』、『トワイライト』、『The Vampire Diaries』にみられるロマンス重視の学園ものドラマ。ゴシックに陶酔する反抗期ティーンはいつの時代も吸血鬼に妄想の恋心を抱くのかなぁ・・・? そして実はここにもれなく家庭に飽きた夢見る主婦層も入ることになるから(←韓流ドラマにはまるおばさまとかね)、日本で言えばゴールデンタイムを飾れるメジャードラマ、アンコールで昼過ぎ放映となりうる作品たちということになるでしょう。

そしてふたつめ、2000年代新しく広まったと思われるのが(私が勝手にそう思ってる)リアリズムヴァンパイア系。そう、ヴァンパイア=空想の産物(ファンタジー)なのにリアル?って、矛盾を感じるかもしれないけど、「現世にリアルに存在しそう・・・」を設定とするヴァンパイアドラマのカテゴリー。これは2008年、アメリカのアート系シアターで密かな人気を呼びロングランとなっていたスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(原題『Let The Right One In』)からはじまったと私は思っている。

暗く寂しく豊かでない北欧の都心の生活の中で起こる現代版『小さな恋のメロディー』といったこの映画、主人公が実は吸血鬼であることは「主人公は実は孤児でした」くらいの事実としてそこにあった。要するにストーリー重視のドラマであって、ヴァンパイアであることっていうのは登場人物の性格でしかないって感じがした。その結果、吸血鬼にまったく興味を抱かないジャンルの人たち、そして男性層にだって心に残る作品となったのではないかと思う。

ながーい前置きになりましたが、私にとって『トゥルーブラッド』は、このリアリズムヴァンパイア系に属する作品。ちょっとトーンは違うものの、「人口の血液が開発されて、それがジュースのようにコンビニやバーで売られる世の中。結果吸血鬼は人畜無害となり、市民権を取得しようとしているが、受け入れることのできないアメリカ南部地方」なんてセッティング、すっごくリアル。奴隷解放、初の黒人大統領就任、そしてイスラム教徒とひと悶着あって、晴れて吸血鬼も受け入れられるのか?なんて、いつでもそしてこれからもアメリカの人種差別問題は形を変えて持ち上がるのですよきっと・・・ってそんな暗示みたい。

さすが総指揮監督がアラン・ボールです。映画「アメリカン・ビューティー」、ドラマ「シックス・フィート・アンダー」を手がけた名脚本家そして監督。彼の得意とするアメリカンファミリーの裏の素顔を暴く感じが私は大好き(うふ)。そんな彼が普通の"ラブストーリー"を見せるはずがないのです。この作品においてラブストーリーはあくまで"人間と吸血鬼"を混ざらせる演出上不可欠なエレメントであって、人種差別のネタなわけであります。実際に見せたいのは彼の普遍的なテーマ、「一見綺麗に整備されたようにみえるアメリカって実はこんなにファックトアップしています(アランにんまり)」みたいな気がしてならない。

『トゥルーブラッド』の設定はアメリカ南部の小さな街、ボンタン。北米内で南部地方といえばKKKにみられる人種差別感が色濃く残っちゃっていたり、ブードゥーみたいな民間宗教(カルト)やシャーマニズムが色濃く根付いていたり、低所得者層人口が高いためにアルコール、麻薬依存問題も相当ひどかったりする、ある意味アメリカの発展からすごく取り残された荒れ放題地帯。アラン氏はこの場所をお得意のブラックユーモア踏まえて風刺っているのです。ということは実はこの吸血鬼ドラマ、単なるファンタジーではない、現代のアメリカの問題を直視した社会派ドラマなのか!? 少なくともわたしはそういう目線でこのドラマにはまっています。別に良し悪しの判断をしようとはしていなんです。ちょっと離れたところから見て笑っているブラックな感じ。そこが面白い。

この視線で『トゥルーブラッド』を見てみると、スーパーキャラとそのスーパーパワーの箇所は置いといて(そこはそこでばかげてて面白く出来ているとも思うんです)、残りの全てのボンタンでの出来事や事件が、リアルに現実味を帯びてくること請け合いです。人種差別に暴力問題、DVしかり、悪魔祓い、ドラッグ依存とセックス依存などなどなど・・・そこがずばり見所。「やっぱりアメリカって変な国だよな~」って思ってほしい、そこがアランさんの目論見なのではないのかなぁ?

最後にしかし、主演女優にどんくさ~いのを持ってくるところって確信犯的ですよね? 誰かなーこの垢抜けないうざめ女子は、と思ったらなんと、映画『ピアノレッスン』の子役で、わずか11歳でアカデミー賞助演女優賞を獲得したアンナ・パキン。子役から芸能界にいるわりにすれなかったことをほめてあげるべきなのか、あの処女キャラはアメリカではまれに見るかも?そのわりに広告ではセクシー路線狙ったポーズ決めているし、ポロリもありで・・・イメージ戦略ちぐはぐで惑わされます。さて、みなさんの感想はどうでしょう?

■『トゥルーブラッド』

【放送】LaLa TV
【放送日時】毎週月曜 22:00~他

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