2010年秋の新ドラマ 宣伝広告と批評の影響力

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<ニューヨークを席巻する宣伝ポスター>

今年も新作ドラマの季節がやってきた。新しいドラマシリーズのプレミア(パイロット版放映)は9月の第2週から始まり、大半が4週目に集中した。ニューヨークでは毎年、この季節を目前に8月下旬くらいから、街の至るところに新作ドラマの宣伝ポスターが貼られる。多くは公共交通機関の地下鉄やバス、ストリートの公衆電話ボックス、数ブロックごとにあるニューススタンド(キオスク)で見られ、ビルの壁面や屋上の巨大なビルボードも出現する。
この秋一番目についたのが、リュック・ベッソン監督の仏映画『ニキータ』(1990年)を下敷きにしたドラマシリーズ、CWの『Nikita』のポスター。赤いドレスをまとった主演のマギーQが機関銃を手に、挑発的な視線を投げかけている艶やかな画面には、いやでも目がいってしまう。これらのアイキャッチングなポスターで、マギーQに釘付けになったメンズも多いはず。

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CWが一押しする『Nikita』のポスター。(左から)ロックフェラーセンター駅の地下鉄の出入り口。アッパーウェストサイドのビルの壁にも。グランドセントラル駅近くの公衆電話の壁。バスにアンニュイに横たわる『Nikita』

次によく見かけたのは、ディズニー製作の超能力を持った家族のドラメディ『No Ordinary Family』(ABC)のものだ。バス停や地下鉄構内はもとより、地下鉄の車両の一面を飾ったり、タイムズスクエアのトイザラスのビルの壁全面を覆ったりして観光客にもしっかりアピール。道行く人の目をひき、ヒットを予感させた。

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(左から)バス停。地下鉄の1車両の一面が『No Ordinary Family』に。タイムズスクエアのトイザラスのビル壁面を覆う『No Ordinary Family』の巨大広告

 

CBS一押しのリメイク刑事ドラマ『Hawaii Five-O』の広告もさすがに多かった。ニューススタンドの壁や地下鉄構内で、主役の4人が波しぶきの中で横に並んだバージョン違いのものもよく目にした。
インパクトという点では、ウィリアム・シャトナー(『ボストン・リーガル』『スタートレック』)のシットコム『$#*! My Dad Says』(CBS)の広告が『Nikita』に次いで目立った。初老のオッサンの顔がバーンとクローズアップされ、しかも口の部分をタイトルロゴで隠されている図は、『Nikita』とは逆の意味でインパクト大だ。広告の扱いの大きさから、ネットワークのそれぞれの局の自信作が見えてきて、興味深い。

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ペンステーション近くのキオスクの壁面には、『Hawaii-Five-O』の宣伝ポスター。中には壁画になっている広告も。キャンセルが決定した『My Generation』。『$*! My Dad Says』のポスターは、公衆電話ボックスのほか、地下鉄のホームでもよく見かけた。地下鉄の改札近くに貼られた、ケリー・ラッセルのシットコム『Running Wild』の広告

<新ドラマのニューヨークでの評判>
さて、新ドラマシーズンのふたを開けてみると、今年はどの局も視聴率的に苦戦しているようで、既存の人気ドラマやシットコム、リアルティショーをしのぐほどの視聴者は獲得していない。Foxの詐欺師を主人公にしたドラマ『Lone Star』は、批評家の評価は高く、『エンタテイメント・ウィークリー』誌では新ドラマの注目作のベスト5に入っていたにも関わらず、パイロット版の視聴率の低さから早々と打ち切られた。パイロットの出来がよかっただけに残念でならない。ABCの高校の同窓生の10年後を追うという設定のドキュメンタリー風ドラマ『My Generation』もエピソード2でキャンセルの憂き目に。また、NBCの法廷ドラマ『Outlaw』も第8エピソードで打ち切りが決定し、ほかにも短命に終わりそうなドラマ/シットコムがいくつかある。

そんな中で、唯一視聴率が悪くないのが、CBSの新作たちだ。9月27日~10月3日の期間では、パイロットから2週目の『Hawaii Five-O』が15位、トム・セレック主演のニューヨークを舞台にした警察官ファミリードラマ『Blue Bloods』が21位、チャック・ロリー製作のシットコム『Mike & Molly』が22位と健闘。オリジナルの知名度から前評判の高かった『Hawaii Five-O』は、早くも多くの若い層のファンを獲得している。10月11日付けの『NYタイムズ』のビジネスセクションの記事でもCBSの一人勝ちは、番組のラインナップはもちろんのこと、その編成によるとしていたが、確かに月曜の夜9時からの高視聴率常連の『チャーリー・シーンのハーパー★ボーイズ』のあとに『Mike & Molly』をもってきて、木曜夜8時に時間を移動した、これまた大人気の『ビッグバン★セオリー』のあとに『$#*! My Dad Says』を続けるのは、前の番組が終わってから間髪いれずに次の番組が始まるアメリカのテレビでは、とても賢いやり方だと言える。ただ、『$#*! My Dad Says』に関しては、批評家の評価はかなり低め、視聴者の評判も賛否両論で中には「ウィリアム・シャトナーの才能を無駄にしている」という声もきこえる。視聴率がガタ落ちして打ち切りなんてことにならないといいが......。

9月第4週のプレミアラッシュよりも1週間早く始まった『Nikita』は、プレミア当日に『NYタイムズ』から「驚くほど洗練されていて満足できる脚色」と好評を得て、前宣伝効果もあってか、パイロット版は視聴率ベスト20にランクイン。第2エピソード以降の視聴率の落ち込みは否めないが、映画『ニキータ』ファンからも新鮮だという好意的な声も少なくない。
さらに前宣伝がハデで批評家受けも良かった『No Ordinary Family』は、パイロット版が視聴率24位になり、なんとか面目を保った。どこかで見たような感がしなくもない設定だが、これからどんどん面白くなりそうな期待も高い。

その一方で、J・J・エイブラムス(『LOST』『フリンジ』)製作の国際スパイの夫婦のドラマ『Undercovers』は、批評家受けは悪くないが、視聴率はそれほどのびていない。街でも広告をあまり見かけない。でもアフリカ系アメリカ人(黒人)層に人気があり、9月27日から10月3日までの期間では、同層のみの視聴率で8位となっている。ネットワークのプライムタイムのドラマでは珍しく黒人の美男美女カップルが主人公だからなのか(とはいえ、中味は非常に白人っぽいキャラなのだが)、今後もこの動向を追っていきたい。

このほか、ケーブルのHBOのスティーブ・ブシェミ主演、マーティン・スコセッシがパイロットを監督した1920年代の時代ドラマ『Boardwalk Empire』の批評家の評価は、新ドラマの中でダントツ。プレミアムチャンネルなのでネットワークのような多くの視聴者を獲得できないものの、視聴者の評判もすこぶる良い。また、8月16 日から始まったShowtimeのローラ・リニー主演のドラメディ『The Big C』も好評で、パイロット版では同局のオリジナルシリーズで8年ぶりの最高視聴率を記録した。

前々から言われていることだが、批評家の評価は実際の視聴率にはあまり影響がない。むしろ前宣伝で視聴者の興味や期待を集めたドラマ/シットコムが、パイロット版に関していえば、高い視聴率を獲得している。つまり視聴者は、活字の批評よりも視覚にうったえる予告編やポスターなどの広告により影響されているということ。ただ、パイロット版の視聴率が高かったとしても、評価の低い作品は第2エピソードからガクンと視聴者が減る傾向がある。秋も深まりつつあるこの頃、既存のお気に入り番組に加えて上記のドラマたちと、批評家受けも視聴率も今ひとつだが個人的に気に入っているNBCのインドのムンバイを舞台にした新シットコム『Outsourced』(『The Office』と同じ製作者)を見なければならないので忙しい。
(文中の視聴率は、Nielsen Media Research調べ)

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