空前のスピンオフ・ブームに沸く全米、そのメリットとデメリットとは?

長年アメリカン・ドラマを見ていると、製作者のカラーが日本のドラマ以上に色濃く反映されていることが分かってくる。自分が好きなドラマがあったら、その製作者やクリエイターが作った別のドラマも見てみると、自分好みの作品が見つけやすい。そういった作品の中に、スピンオフ・ドラマがあることに気付くだろう。

これはアメリカでは昔からよくある手法なのだが、あるドラマのサイドキャラクターなどを独立させ、新たなドラマを製作するもの。少し前なら『フレンズ』から生まれた『ジョーイ』、『チアーズ』から生まれた『そりゃないぜ!? フレイジャー』、『バフィー~恋する十字架~』から生まれた『エンジェル』、最近なら『グレイズ・アナトミー』から生まれた『プライベート・プラクティス』などがこのキャラクター移行の代表的なスピンオフ・ドラマ。少々経緯は違うのだが、『ザ・プラクティス』から生まれた『ボストン・リーガル』もこのキャラクター移行パターンの範疇に入るだろう。

だがこの数年で、スピンオフはキャラクター移行型からフォーマット移行型へと主流が移ってきた。こちらはキャラクターを移行するのではなく、その作品が持つ世界観という"枠"を増やしていくフランチャイズ方式。『CSI』シリーズなどがその代表的な作品だ。
そもそもこの方式を確立させたのは、全米最長寿ドラマ『Law & Order』と言われている。放送開始から9年目にして初のスピンオフ『Law & Order:性犯罪特捜班』を誕生させる際、彼らは本家に登場するキャラクターを主人公にするのではなく、"法と秩序"と闘う人間たちのドラマという大枠の部分だけを活かし、全く別のキャラクターを登場させた。骨太な『Law & Order』の世界観を守りつつ、新鮮味も与えることができるこの方式は好評となり、『~性犯罪特捜班』は未だ人気シリーズとして確固たる地位を築いているのはご存知の通り。『CSI』の製作者ジェリー・ブラッカイマーもスピンオフを作る際に、『Law & Order』を参考にしたと語っている。
その後も『Law & Order:クリミナル・インテント』、『Law & Order:Trial by Jury』そして最新スピンオフ『Law & Order:Los Angeles』と4作のスピンオフを生み出し、さらにはUK版『Law & Order:UK』まで登場して、一大フランチャイズを形成した。

近年急増しているのがこのパターンで、日本でも放送開始直前の『NCIS:LA ~極秘潜入捜査班』は『NCIS』のスピンオフとして昨年誕生し、新ドラマとしては最高視聴率を獲得、早くも人気ドラマに定着した。

『クリミナル・マインド』は、フォレスト・ウィテカー主演の『Criminal Minds:Suspect Behavior』が2011年1月からの全米放送開始を控えており、こちらも大ヒットが期待されている。さらに人気SFシリーズ『ギャラクティカ』の前日譚を描いた『カプリカ』など、今、全米は空前のスピンオフ・ブームに沸いている。

スピンオフができると、"クロスオーバー"というエピソードが製作される可能性も高くなってくる。つい最近もCSIシリーズ3作合同のクロスオーバー・エピソードが日本で放送されたばかりだが、それぞれのドラマのキャラクターがお互いの作品に行き来するのがクロスオーバー・エピソード。これはアメリカン・ドラマならではのお楽しみのひとつだ。

『グレイズ・アナトミー』と、そこから派生した『プライベート・プラクティス』とのクロスオーバーなど、ひとつの世界観を共有しているスピンオフ・ドラマは、単に製作者が同じだけのドラマに比べてクロスオーバーが作りやすいというメリットがある。そのメリットを最大限に活かしたのが、スピンオフ作品のお披露目に、本家ドラマとのクロスオーバーを利用するパターンだ。

これを最初に実施したのは『CSI:マイアミ』が誕生した時。本家CSIとの合同捜査という形でマイアミの鑑識チームを登場させたのだが、これが大好評。視聴者にとっては新番組の雰囲気がいち早く分かる上、製作者側にとっても話題性に加えてその反応次第でキャスティングを含めた最終的な判断材料を得ることができるという一石二鳥のシステムなのだ。CSIではこれが定番化し、『CSI:NY』が誕生する時はマイアミとの合同捜査エピソードがプレミアとなった。

『NCIS:LA ~極秘潜入捜査班』はこの形をしっかり踏襲し、『NCIS』シーズン6の2エピソードに『NCIS:LA ~極秘潜入捜査班』の主人公カレンをはじめとするキャラクターが登場し、合同捜査をしている。

このスピンオフ・ラッシュの裏に、不況による経費削減という大人の事情があるのは事実。人気シリーズのスピンオフとなればある程度の視聴率が見込める上、宣伝費などもゼロから作り上げるより安く上がる。そのため企画にGOサインが出やすいのだ。
とはいえ『カプリカ』のように、難しすぎて分からないと1シーズンでキャンセルされてしまうこともあるので、そう単純には行かないのがTVの世界。また、安定を求めすぎてスピンオフ作品ばかりで埋め尽くされれば、それはそれで視聴者の飽きを誘うというもの。

そんな中、『BONES』のように少し変わったスピンオフ企画で勝負する作品も出てきた。もともとキャシー・ライクスのベストセラー小説が原作となっている本作だが、このスピンオフ企画はキャラクター移行パターンでもなく、かといって厳密なフランチャイズ方式とも言えないのが面白いところ。一応シーズン6に登場する新キャラクターを主人公にするものなのだが、このキャラクターというのがリチャード・グリーナー著の『The Locator』をベースにしたものになるのだという。作者が違う小説の主人公が、ドラマの中でひとつの世界観を共有するパターンというのは初の試み。

不況で全く新味のドラマが生まれにくいのはドラマファンとして残念なことだが、そういった制約の中でも新たな試みにトライしようとするTV界のクリエイター魂は、なんとも頼もしいばかりだ。

■『CSI:ニューヨーク6』 初回拡大版スペシャル!
※12月4日(土)WOWOW無料放送の日に第1話先行無料放送
・放送予定:【二カ国語版】12月4日(土)午後3:50~

■『CSI:ニューヨーク6』1月8日(土)本放送スタート!
【放送】WOWOW
【二カ国語版】毎週土曜よる11:00~
【字幕版】毎週日曜午前10:00~

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