【お先見】『NYボンビー・ガール(原題:2 Broke Girls)』主人公を演じる二人には好感!人種ステレオタイプの典型にはため息...

『NYボンビー・ガール(原題:2 Broke Girls)』というCBSのこの秋の新番組がある。シット・コム(シチュエーション・コメディ)で、滑り出しは上々。『Sex And The City』の脚本家/プロデューサー、マイケル・パトリック・キングが手がけ、第1話の放送を『ハーパー★ボーイズ』の直後に、第2話以降を『ママと恋に落ちるまで』の人気作の後の時間帯に放映しているので、力の入れ具合がわかる。視聴率もなかなか高いようだ。

 

『NYボンビー・ガール(原題:2 Broke Girls)』とは?

"Broke"Girls とは、お金のない、崖っぷちの女の子たちのこと。NYのブルックリンの場末のレストランで嫌々ながらウエイトレスとして働く、ダメ男にしか縁の無いマックスを演じるのはキャット・デニングス。そしてマックスのコメディの相棒となるのはキャロライン。ベス・ベアーズ演じるキャロラインはブロンドのお嬢様。父親の事業の大失敗により、億万長者のセレブ生活から一気に転落した転落した女性だ。文字通り、一文無しのキャロラインが、マックスが務めるレストランに新規に雇われるところから物語は始まる。

店の顧客にも容赦のない、歯に衣着せぬ毒舌のマックスと、バイト経験など全く無い天然無垢のキャロラインのやりとりの食い違いはリズムも小気味よいし、面白い。二人は25万ドルを貯めて、一緒にマックスが得意なカップケーキのビジネスを始めようと思い立つ。番組の終わりに、25万ドルまであといくら足りないのか、二人が稼いだ額が毎回表示されるのも可愛らしい。まったく違うタイプの二人を一つのシチュエーション(状況)に放り込むのはコメディの王道だろう。そして新鋭のスターといっていいキャットとベスのキャスティングは見事にハマっている。配役の成功が多くの視聴者をこの番組に引き込むであろうことも予想できる。

しかし、残念な面が一点だけ。

この番組では、ステレオタイプな人種的ジョークが連発される。あまり品のないロシア人のコックや黒人のレジ係が登場するのだが、極め付きは彼女たち二人のボスになるアジア人店長の描かれ方だ。背がとても低く、ニコニコと人当たりは非常にいい。しかし店長という責任あるポストでありながら、"Caroline"の名前のスペルをいきなり間違える。しかもバリバリのアジア人なまりの英語で話す。そしてこの店長の名前は"ブライス・リー"、もちろん"ブルース・リー"のもじりであり、彼の名前までがジョークの対象にされる。

「ああぁぁ~~~~~~~~」このアジア人描写にはため息が出る思いだ。
コメディだから、お笑いなんだから、そのくらいはいいだろう? と視聴者は(特にアメリカの番組製作者&視聴者は)思うのかもしれない。しかし、アメリカに住むアジア人たちにとっては、ファミリー向け番組でのこの手の描写は死活問題になる。一般社会でも差別を生む原因になるし、偏見により尊敬されなくなってしまうからだ。この国では、アジア人は英語ができない、というイメージは2011年の今でもいまだに根強い。映画やドラマの最重要ポジションになかなかアジア人が起用されないの理由の一つもそこにある。多くのアジア系アメリカ人俳優はオーディションで「もっと強いなまりでセリフを言ってくれ!」とリクエストされることが多い。

実は、この『NYボンビー・ガール(原題:2 Broke Girls)』の放送がスタートする前、僕はこの番組のオーディションを受けた。全く別のエピソードのアジア人の役だった。事前にもらった台本のページには、セリフが無く、ただ叫ぶだけ。「何これ?」と心中は穏やかではなかったが、受けるからにはベストを尽くした。担当者に、「せめてちゃんと言葉を発してもいい?」と相談したが、準備していたアイデアは敢えなく却下。なんともやるせない、静かな苛立ちを胸に会場を後にした。ところがなんと、一旦この役の候補に残ってしまった。正直、僕はエージェントと相談してこの仕事はお断りしようかと一晩迷って考えたほどだ。幸い(?)僕はこの叫ぶだけの役は演じずに済んだ。獲得できずに安堵した役など初めてだ(笑)。

しかし現実は、アジア系俳優の誰かが必ずこの役を引き受ける。脚本のジョークの通りにやらされるのだ。アジア人として、俳優として、プライドを少なからず削らなければ演じられないだろう。僕の言う"死活問題"とは、そのことだ。

少々厳しい側面に触れたが、とはいえ、主役の二人はとっても可愛く魅力的♪コメディセンスにも溢れている。それだけでも見る価値はありだ。加えて、アメリカの現代社会の中で、アジア人が一般的にどういうイメージを持たれているのかということを知るためにも一度見て頂きたい番組である。

Photo:『NYボンビー・ガール』(c)2011-2012 Warner Bros. All Rights Reserved.