9月のエミー賞で主演女優賞(ケイト・ウィンスレット)と、助演男優賞(ガイ・ピアース)を受賞した『Mildred Pierce』。WOWOWさんでやるらしいと知ったので、思い出しながら書いてみます。
邦題『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』
いいですね~、サブタイ。ミルドレッドは、自分のハッピーを求めた代わりにかけがえのないものを失うのよ...ってことです。え? まどろっこしい? じゃ、『ミルドレッド・ピアース 不幸』でどうだァ。
失礼しました、現代の名女優ケイト・ウィンスレットが主演というので、ついつい興奮してしまいました。ケイトがTVに主演というのは、本当にTVドラマファンには嬉しいことで、映画の仕事が山ほど待ってるケイトのような売れっ子女優に、選んでもらえたTVドラマだと思うと、絶対見なきゃという気持ちになります。
物語は、1930年代のアメリカを舞台に、夫と二人の娘と暮らすごく普通の主婦が、別居を機に経済的・精神的に独立するというお話。こう書くとなんちゃない「女の一生」物ですが、1930年代ってことは、『MAD MEN マッドメン』の20年以上前です。女性の権利がまだ確立されてなかったような時代、しかも世界恐慌直後の不況のどん底に、二人の娘かかえたシングルマザーがどうやって生きてくのでしょう? 中流階級の暮らしを捨てて、生きるため、子どもたちを育てるためなら、なりふりかまわず...という必死なミルドレッドを、ケイトが力強く演じています。今の時代もド不景気ですから、その姿に自分を重ねて、心震える方もきっとおられることでしょう。
"力強く"という形容詞は、今回のケイトを語る上で切り離せません。見た目にも、ハリウッド基準からすれば、ケイトはやや"ぽっちゃり"さん。言い換えれば、ごくリアルな体型です。そのケイト演じるミルドレッドが、生活のためにウエイトレスになり、片手に何枚も皿を持って運びます。厨房ではダイナミックに鶏肉をさばきます。二の腕のしっかりしたケイトがやると"様(さま)"になる。その場でそうしていることが日常に見えるから、演技ってなんだろうと思うんです。どんなに感情込めて台詞を言ったって、こういう"様"にはかないません。
5時間半の長丁場のドラマで、ケイトの"様"になった日常演技がしばしば続きます。映画では2時間以下で描いた世界をその倍以上かけて描くことに批判もあるようですが、私はミルドレッドの日常をしっかり見ることができたおかげで、シングルマザーのもがきや、その反動による"幸せ"への渇望を深く感じることができました。
他のキャストにも触れておきます。ガイ・ピアースは地元の名士ともいえる洒落た男モンティを演じました。モンティはミルドレッドの成功をもっとも支えた一人ではありますが...。ミルドレッドが愛してやまない娘ヴェダを演じるのはエヴァン・レイチェル・ウッド。似たもの同士、母娘の感情のぶつかり合いは、間違いなくこのドラマの見どころでしょう。あ、ミルドレッドとモンティの"裸のぶつかり合い"もお見逃しなく!(見逃さないでしょうが。 笑)。ミルドレッドの親友役にはメリッサ・レオ。ケイトが激しい演技を強いられたので、メリッサは常に控えめな演技で脇役に徹していたのはさすがです。そして感心したのは、メア・ウィニンガム。エミー賞にもノミネートされてましたけど、これまでのイメージをくつがえす別人演技でした。TVドラマではよく見る顔ですから、きっと見たら分かってもらえると思います。
最後にもう一度ケイトに戻りましょう。私がケイトのTVドラマ主演にエキサイトしたように、HBOの常連アクター、メリッサやエヴァンも負けじと高揚するものはあったと思います。そうした一人のスーパースターによって、キャスト全体が"+α"を出したのが、この『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』。TVドラマの希少な時をぜひお楽しみに。
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