「この秋Showtimeで始まる『HOMELAND』は、大人向けの『24-TWENTY FOUR-』だ」という評判を耳にした。確かに『HOMELAND』のプロデューサーの中には『24』でも製作を務めた人たちがいるが、今回はどこがどう大人向けなんだろう、と興味をそそられて同ドラマのパイロット版を観た。

米陸軍特殊部隊デルタフォースが、アルカイダの幹部の邸宅から一人のアメリカ人を救出する。救出されたのは、米海兵隊軍曹のニコラス・ブロディ(ダミアン・ルイス『バンド・オブ・ブラザース』)。彼は2003年、戦闘中に行方不明になって以来、8年以上もアルカイダの捕虜になっていた。思いがけない救出劇に、「ヒーローの帰還」だと沸き返るアメリカ。しかし、その中にあってCIAの反テロ部隊に所属するキャリー・マティソン(クレア・デインズ 『アンジェラ 15歳の日々』)は、ひとり戦慄を覚える。「アメリカ兵の捕虜がアルカイダに寝返った」という情報を彼女だけが入手していたからだ。だが、それを実証するに足る証拠はない。テロの危機からアメリカを救うため、キャリーの孤独な戦いが始まる。

『HOMELAND』を観てまず感じるのは、このドラマがわかりやすい勧善懲悪の物語ではないということだ。まず、主人公のキャリー。彼女は上司や組織にも無断でブロディ家に侵入、あらゆる部屋に隠しカメラを設置して、四六時中ニコラスの言動を監視する。完全に違法行為だ。「ここアメリカで二度とテロを起こさせない」という彼女の熱意には同意できるし、その使命感からくる焦りも理解できるが、常にイラついているキャリーの言動は、なかなか彼女に好感を持たせてくれない。実際、クロザピンという精神病の薬も常用しており、彼女は少しイッちゃってるのだ。

一方、追われる立場のニコラス。彼の真意はまだ明らかにされてないが、要所要所で嘘をついたりして、たしかに怪しい。ニコラスの海兵隊での相棒もアルカイダの捕虜となり殺されてしまったのだが、ニコラスは帰国後、その相棒の未亡人に「(夫が)殺された現場にあなたもいたの?」と聞かれ、「自分は同じ部屋にはいなかった」と答える。しかし、ニコラスの回想の中で、アルカイダに脅されてニコラス自身が相棒を殴り殺すシーンが映し出される。だからといって、ニコラスがアルカイダに寝返ってテロリストになったとは限らないのだが、仮になっていたとして、誰が彼を責められるだろう? ニコラス自身も度重なる拷問で全身傷だらけで、妻に背後から触れられただけで反射的にビクッと震えるほど、恐怖の記憶に脅かされているのだ。

ニコラスが悲惨なのは記憶の中ばかりではない。米国に居るニコラスの妻ジェシカは、彼が行方不明になっていた間に、ニコラスの親友と付き合うようになっていた。ジェシカはそのことをニコラスに話してはいないが、ジェシカと親友の様子から、ニコラスは薄々感づいている。しかし、ここでもジェシカを責められない。なぜならニコラスが行方不明になって既に8年が経過しており、その間ニコラスと一緒に捕虜になった軍曹は皆死体となって発見されていたため、ニコラスがまだ生きているとは誰も思ってなかったからだ。ジェシカとニコラスの間に二人の子どもがいることも、彼らの関係をより複雑にしている。

正義のためなら違法行為も厭わない強烈な主人公。その主人公よりも同情に値するテロリスト(かもしれない人)。そしてヒーローとして帰ってきた夫を迎え、愛し合っているのに一緒になれない妻と夫の親友。『HOMELAND』では善悪の枠にはまりきれない「人間」を描いており、そういう意味で、たしかに大人のドラマと言える。『24』のように刻々と迫るタイムリミットや、派手なアクションはないかもしれないが、ここで描写される人間心理や、そこから動き出す人間関係は、単純なアクション・スリラーよりずっとスリリングで見応えがある。

クレア・デインの鬼気迫る演技と、何を考えているかわからないダミアン・ルイスの不気味さが秀逸。さらに、理知的で先の読めない脚本、抑えの利いたリアルな演出、無駄のないテンポよい編集と三拍子揃った完成度の高さは、この秋に始まった数あるドラマの中でも、頭一つ抜きん出ている。『ブレイキング・バッド』が今週でシーズン・フィナーレを迎えるのを寂しく思っていたが、まさか裏番組で同じくらい続きが気になるドラマが始まろうとは。まったく、これだからアメドラはやめられない。