【お先見!海外ドラマ日記】『エンライテンド』ローラ・ダーンの超前向きなドラマ
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昨年秋に始まった新作ドラマシリーズの中で一番のヒットは、Showtime の『HOMELAND』だったが、特筆すべきドラマがもうひとつある。それは、ローラ・ダーンがクリエイター・主演・製作総指揮を務めるHBOの『エンライテンド(原題:Enlightened)』。ローラはこの役で、今年のゴールデン・グローブ賞コメディ・ミュージカル部門で主演女優賞を受賞している。タイトルのenlightenedにはいくつか意味があるが、ここでは「啓蒙された」あるいは「悟りに達した」というような意味だろう。

 

『エンライテンド』とは?

ローラ・ダーン演じるエイミーは、大企業のエクゼクティブだったが、上司との不倫がバレて左遷されることになり、その上司にくってかかる。ファーストショットが、エイミーが大泣きしている顔のクローズアップ。マスカラとアイライナーのせいで黒い涙が頬を伝い、ホラーさながら。

同僚やクライアントの前で醜態を晒して会社に居場所を失ったエイミーは、ハワイにあるリハビリ施設で3か月間メディテーション(瞑想)して過ごした後、まるで生まれ変わったかのように晴れ晴れとした顔で戻ってくる。そして会社の人事部と元の部署に戻してもらえないかと交渉するが、そうは問屋が卸さない。

人事部からのオファーは、今まで築いた経験を全く活かせない単調極まりない仕事。それまでのエイミーだったら、すぐにキレて破壊的な行動に出てしまうところだが、日課としているメディテーションで心の平静を取り戻し、なんとか適応しようとする。

一方で、今までわけあって疎遠になっていた母親との関係を修復しようと努めるが、母親の方は「急に優しくされても」と気持ち悪がるばかり。母親ヘレンを演じているのは、ローラの実の母親でベテラン女優のダイアン・ラッド(映画『ランブリング・ローズ』『ワイルド・アット・ハート』)。これまでに何度も娘と共演して、ふたりで母娘を演じるのも初めてではないが、演技派女優の母娘が架空の母娘に扮し、その関係性が変わっていく様子を見るのはとてもスリリングだ。

また、エイミーはドラッグ依存症の元夫を更正させようと手を差しのべるが、彼はドラッグを断ち切ることができない。元夫のリーヴァイを演じるルーク・ウィルソン(『キューティ・ブロンド』『26世紀青年』)のダメ男っぷりがまたいい。

会社に冷遇され、母親には理解されず、元夫に疎まれながらも、あきらめず、ポジティブな姿勢をくずなさい。自分の周囲からでも世の中をよくしようと一人で闘う、その痛々しいまでの健気さとそれが空回りする様が笑いを誘う。この笑いは、ギルティプレジャーに近いものだ。エイミーが次にどんなことをしでかしてくれるのかと、ついつい期待しまう。『エンライテンド』は、オフビートでユーモアのきいたドラメディなのだ。それもかなりブラックで、中毒性のある。

物語のベースは、このドラマの共同クリエイター・脚本家・監督であり、エイミーの新部署での同僚タイラー役も演じているマイク・ホワイト(『ドーソンズ・クリーク』、映画『スクール・オブ・ロック』『グッド・ガール』の脚本)の実体験からきたという。一時期、4本の映画と2本のテレビの仕事を同時に抱え込み、あまりの仕事量にストレスが積み重なって精神的にまいってしまったマイクは、数日間旅に出て仏教の思想書を読んだり、メディテーションをしたりすることで、自分自身を取り戻した。ローラ・ダーンとは元々友達で、何年か温めていたアイディアを話したら賛同してくれて、今回のシリーズへとつながったという。脚本もシーズン1の全10話を自ら書くといった気合の入りようだ。コメディを得意とするマイクは、ここでもユーモラスかつ繊細にキャラクターを描き、リアリティのあるものにしている。

そして、エイミーが、自分の勤める会社の不正や汚職に気づき、上部に警告を与えようとするくだりがあるのだが、それは私生活でも数多くのチャリティーの支援者であり、社会活動家でもあるローラの意向なのかと思う。シーズン2の製作がすでに決まっているが、エイミーが何か大きな革命を起こしそうな予感。脚本・演出・演技と三拍子揃って優れているこのドラマの新展開が、今から待ち遠しい。