尾崎英二郎が斬る! 『24』のジャックと『TOUCH』のマーティン実際のキーファーに近いのは...?

2014年1月8日(水)からDVDがリリースされる『TOUCH/タッチ』。世界のあちこちで起きている全く無関係のようにみえる出来事が、見えない赤い糸で徐々に繋がっていく――壮大なテーマを描いた本作に出演した俳優の尾崎英二郎さんに、本作の魅力や共演者の印象、日本人俳優として肌で感じることなど、たっぷり伺いました。

――今回の『TOUCH/タッチ』という作品は、放送開始当時は『24 ‐TWENTY FOUR‐』という世界的ヒット作で注目を浴びたキーファー・サザーランド主演の新作ドラマだったわけですが、放送前の段階での本国アメリカではどのような反響がありましたか?

放送前も、放送後もですけど、キーファー・サザーランドっていうと、もうアメリカ国内でも『24』で完全にアイコンなんですよね。海外ドラマの象徴でもあるので、彼が帰ってくるっていうことは、まずやっぱりニュースなんですよ。

よく向こうでは、映画のビッグ・スクリーンに対して、(TVのことを)スモール・スクリーンという言い方をするんですけど...。ネガティブな意味ではなくて。そこ(スモール・スクリーン)に、「キーファーが帰って来た!」ということは、凄く歓迎されて いましたね。

あと、やっぱりもう1つはクリエーターが、ティム・クリングだということ。(クリングが)『HEROES/ヒーローズ』を作り上げたっていうことをファンはちゃんと知っています。『24』のキーファーと『HEROES』のティム・クリングで、「どんなものができるんだろう」という期待感が大きかったですね。2011年に撮影して、向こうでは2012年のミッド・シーズンにプレミア放送でしたけど、FOXのその年の一番の目玉であったことは、間違いないです。

それで、第1話だけは2か月くらい、先だって、先行放送というのをやったんですよ。3月から本放送は始まったんですけど、第1話だけを1月の終わりに。そこに向けて宣伝して、『アメリカン・アイドル』っていう人気番組の直後にぶつけて。その作戦も功を奏していたと思うんですが、第1話は1,200万人が観ました。相当な記録だったはずです...。当然、キーファーのファンやドラマファンは「待ってました!」っていう、そんな「熱」を感じましたね。

あとは、加えていえば、世界中に『24』ファン、そして『HEROES』ファンがいますから、もう、マーケットができていると。だから、日本はちょっと違う公開プロセスでしたけど、ほぼ世界同時公開で、だいたい3月にほとんどの国で放送されているんですよね。で、同時に、それこそTwitterであるとか、そういうところで感想も言えるっていうようなね。それが可能であったのは...。普通のドラマであれば、例えば1つのシーズンがヒットして、収益があがって、じゃぁセカンド・シーズンにゴーサインっていうことになっていくと思うんです。それで初めて世界中に浸透していくシステムがあるんだと思うんですけどね。この作品に関しては、(放送前から)もう、あまりにも大きな期待度とファン層が世界中にあるっていうことで、同時公開に踏み切るビジネス展開のコストって言うか、そういう決断がしやすかったんじゃないのかなと思います。まぁ、僕は、俳優として関わる部分しか垣間みれないんですけれども...。スケールの大きい放送/配信の戦略を可能にしたっていう、その面もかなりニュースになりました。

――役者として、そういった注目を浴びている作品の、しかも第1話に出演されるということにプレッシャーなどは感じられましたか?

プレッシャーはですね、悪い意味でのプレッシャーは、実は、そんなになかったんです。オーディションの情報って、俳優には届くのが大抵の場合、オーディションの前日なんです。台本数ページが、例えば夕方に届いて、「英二郎、明日の10時オーディションだ」って言われます。それで、(台本は)英語なわけですよ、当然。これを一晩で叩き込んで、演技を作り込んでいくんです。
でも、『TOUCH』の第1話に関しては、僕は日本語で演じることができたんで、その部分は有利だったんです。それは、精神的にも。台本は英語で書かれているんですけど、大体オーディションっていうのは、自分で訳して行って大丈夫なんですね。

――そうなんですか!?

ええ。もっと詳しく言うと、キャスティング・ディレクターの方はアメリカ人なんで、完全には日本語がわからないっていうことが多いです。だから、ちょっと強気で...。「どうせわからないから大丈夫だろう」っていう意味じゃなく、こっちが「日本人って、こういう感じで、こういう表現をするんですよ!」っていうのを、むしろ見せてあげて、「あ、そうなんだ!」って、思わせるくらいじゃないとダメなんですね。「役を下さい」とか、「雇ってもらえませんか?」って、全部お伺いを立てている姿勢だと、安心してもらえないんですよ。プロとして。

僕は、この役は、ボリュームは少なくても面白い!って思ったんです。「ああ、こういう役、めったにやらせて貰えないからな」って思っていて。今まで、日本にいるときでも、まぁアメリカでもそうかもしれないですけど、まじめな役柄とかが多かったので。(『TOUCH』での役柄は)ちょっと一癖あるんでね。凄く楽しく演じたんですよ、実は。

プレッシャーはですね...、オーディション情報が来たときに、もうすでに人気のあるシリーズの番組だと、やっぱり誰もがちょっと色めきたっちゃうんです。僕だけじゃなくて、他の俳優も。みんな、競争心を持って会場に来ますから、そういう意味では、なんとなくピリピリッとするんですよね。でも、この作品に関しては、僕自身は「あ、これティム・クリングだ」と。そしてキーファー・サザーランドの名前もプロデューサーの中に、もう入っていましたし、「あ、これ(キーファーの)復帰作なんだ」と思って。ただティム・クリングさんは、『HEROES』の時から「ひょっとしたら、もう一回仕事ができるのか」という期待があったので。「うわ、ついに来た!」と思って...。(この役が)取れるかどうか?って、ドキドキするというよりは、「もう一回仕事できるかもしれない」という期待感の方が大きかったですかね。

オーディションに行ったら、キャスティング・ディレクターが『HEROES』の方だったんですよ! そこで、初めて、僕、4年越しにお礼が言えたんですね。トップのキャスティング・ディレクターに。そういう嬉しい繋がりもあったりして。『TOUCH』のテーマじゃないですが、「繋がり」が、もの凄く大事なんですよ、人生。僕、わりと台本に凄く共感しました。「ここと、ここと、ここが繋がって」っていうことに。

そういう意味では、嫌な重圧は本当になかったですね。楽しみながらやりました!

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――先ほど、放送後もアメリカ本国では凄く評判が良かったとおっしゃっていましたが、業界内や尾崎さんの役者仲間などの間での反響はいかがでしたか?

そうですね。ドラマの第1話としては、大方、高い評価だったと思いますね。

一つは、やっぱり期待を裏切らない作りだったし...。あと、キーファー個人への賛辞も、批評家の間では結構多かったですよね。『24』と同様、父親という役柄の共通点はあるけれども、性格的な表現は凄く違う...。無敵の父親、どこに行っても負けないっていう、そういうキャラクターから一転、今度は子供とのコミュニケーションが難しいっていう、本当に繊細な役どころだったので。ある意味、キーファーの一人芝居ですよね。『24』とは違う意味で。そういう点については「ああ、やっぱり彼は流石だね」っていう感覚はあったと思いますね。

仲間の俳優や、いろんな業界内でも、玄人好みの作風でもあるので反応はよかったと思います。映像も深みがありますからね! 僕自身も、現場でセットを見たときもそうでしたし、放送を観ても、「凄く美しいな!」って、「映画並みだな!」と思ったので。そういう部分は、評価良かったと思いますよ。

――今もおっしゃっていたように、『24』のジャック(・バウアー)と今回のマーティン(・ボーム)では、似ている部分もあるのですが、タフな戦う父親と、傷ついていて繊細、葛藤を抱えている父親という正反対な面を持っていますよね。尾崎さんからご覧になって、どちらのほうが実際のキーファーに近いと思いますか?

僕は、この第1話のエピソードの中で、キーファー・サザーランドさん とはシーンで共演をしていないので、直接はお会いしてないんですよ。なので、断言はできないんですけど(笑)。ただ、番組がスタートする時に、彼はいろんなインタビューとか、(メディアに)露出していましたよね。そういうのを聞いていると、人柄の感じですけど...。日本に来た時なんかも、もの凄く丁寧じゃないですか。だから、「どっちかっていうとマーティンに近いんじゃないのかな?」という感じは受けますけどね。優しそうですよね!

――他のメインキャストの方などで、作品の中の役柄と実際の本人が「一番似ているな」あるいは「まったく違うな」と思われる方はいらっしゃいますか?

「同じだな」というよりは、「いろいろな面を持っているんだ な」と思ったのは、タイタス・ウェリバーさんっていう、最初の第1話で宝くじを買っている、凄くキーになる役を演じている俳優さんです。僕は、最初は彼のことをそんなに存じ上げていなかったんですよ。そしたら、「やっぱり、力のある俳優さんだな」と。放送を見ていて、「渋いなこの人!」と思って。もちろん上手ですし...。そしたら、もちろん僕が知らなかっただけであって、『アルゴ』なんかにも出ていますし、今も新ドラマとかに出ていたりするんですよね。ちょっとコミカルな役柄とかも演じられるし、1回、彼が出演したある映画の舞台挨拶みたいなものを見に行ったことがあるんですけれども、一見、強面な感じじゃないですか?だけど、凄く気さくで明るい。まぁ、アメリカ人はだいたいみんなそうなんですけど。アメリカの俳優たちは本当に、みんな常に冗談を言っているし。だから(タイタスのことも)「あ、こんななんだ! いい人じゃん!」と思って。第1話なんかでは、キーファーとちょっとぶつかり合う部分もあるじゃないですか? 「あの、いかつい感じが味だな」と思いますけど、やっぱり、さすがに上手い俳優さんっていろんな面を持っているんだなぁ、と。

――(タイタスは)他の海外ドラマシリーズにも、よく出演されていて、いつもは"ちょっと嫌なやつ"という感じのキャラクターを演じることが多いイメージですよね。

多いですよね。いや、上手いですよ。あの、目つきがいいですよね。

後は、役柄じゃない んですけど...、ドラマの中の人物の才能を持ち合わせているのが、クリエーターのティム・クリングさん。今回、もちろんキーファー・サザーランド主演ですけれども、ジェイク(・ボーム)の物語じゃないですか? 子役(デヴィッド・マズーズ)のね。あのジェイクという存在が、無言症で、本当にコミュニケーションがとれないっていう役どころですけれども...。いろんなことを繋げて、数字を繋げて、世の中の現象を見ることができて、っていう、人と違うものが見える部分。僕も、あるスタッフの方がティムさんの人柄について話していたのを聞いて「あ、そうだよね!」と納得したんですけど、ティム・クリングさんがそういう、人とは違うものが見えている!異なるレベルの洞察力を持っている!って感じさせる人なんです。

――そうなんですか!?

そういう、天才肌、と思わせる方なんです。

世の中には、何か越えるべき壁を持ってる人が、他の部分で天才的な一面を見せたりもするじゃないですか?ティム・クリングさんは、そういう才気あふれた、底知れぬ頭脳をもった、それでいて凄く大人しい感じの、静かな、語り口もやさしい方なんですよ。

僕、初めてお会いしたんです、今回の現場で。『HEROES』の時は、お会いできなかったんですよ。それも、心残りだったんです。今回初めてお会いしたら、とても良い方で、この人が、今回もですけど、緻密な群像劇、場合によっては激しいシーンも当然あるわけで、そういった作品を作っているわけですよね。「この人の頭はどうなってるんだ?」って。1話目の台本を最初に読んだときに、かなり難しいんですよ、当然ね。自然界の現象や科学的な用語も混じってくるから複雑じゃないですか? いろんな言葉が混ざっていて、いろんなところに繋がっていて...。でも緻密な内容でありながら、一気に読まされる面白さがあったんで...。「本当にどうなっているんだろう? この人天才だな!」って、思って。だから、出演者ではないですけど、ジェイクが持っている才能は、実は彼(クリング)自身が持っている才能でもあるのかなっていう。

――(他の人には見えていない)全貌が見えているという感じでしょうか?

そうですね。普通の人とは違うっていう。とても素敵な方だったんですよ。

――また今度、一緒にお仕事がしたいと思われますか?

思いますね!本当に!

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――それでは、これから『TOUCH』をご覧になる方に向けて見所と、様々 な海外ドラマシリーズに出演されている尾崎さんから見たほかのドラマと『TOUCH』はここが違うと思う魅力を教えてください。

何点かあるんですけど、一つ言えるのは...映像がもの凄く優れているとか、編集が優れている、音楽が優れている、俳優さんが優れているっていうのは、もちろん他のドラマでもたくさんあるんですけど...、「特色」として『TOUCH』がちょっと際立つのは、TVドラマって毎週ひきつけなきゃいけないし、たった45分の中で、キャッチーで劇的なシーンをいくつも生まなきゃいけないじゃないですか。コマーシャル直前に、事件がバンッ!と起きる。ドラマチックなことがね。そうやって作られている。

近年、どちらかといえば、例えば超常現象みたいに、『HEROES』もそうですけど、いろんな能力を持っているとか、アメリカン・コミックを題材にして、とかも大人気ですし...。例えば、爆発がある、カー・チェイスがある、銃撃戦がある。そういうのが、もう当たり前じゃないですか。医療ドラマなんかでも、もの凄い「うわ!」って見ていられないような手術シーンとか、結構ダイナミックに造ってありますよね。そういうドラマも、面白いものたくさんあって、僕も大好きなんですけど、ずっとそれを観つづけていても、「もう、爆発シーンはいいや」って思う時もあるじゃないですか、例えば ね。「血みどろは嫌!」と思う方もいると思うんですよ。

『TOUCH』は批評家の言葉でも表現されていましたけど、「feel good drama」だと。見終わった時に何とも言えない癒しがある。最後に、いろんな数字が組み合わさって、いろんな人の人生が絡み合っていて、見ていると、キーファー・サザーランドと一緒にパズルを紐解いていっているような、ちょっと快感があって、知的欲求も凄く満たされるものですよね。なおかつ、過去のドラマとかを反省して、今はどんどん、どんどん、作りが上手くなっていると思うんですけど、何か1つの陰謀がありながら、話は一話、一話完結していくという。『TOUCH』が凄いのは、だいたいゲスト・スターって、お話のゲストって1人だったりしますけど、何人かが出てきて、全部が絡み合ったりして、いくつかの伏線が、最後に全部温かな感じで解決したりしますよね。それは、なかなか珍しいんじゃないのかな。というのが1点。

あと、日頃、天才子役、天才子役って、わりと"天才"っていう言葉は容易に使われがちじゃないですか。ジェイクを演じている、デヴィッド・マズーズくんが天才なのかどうかは別として、アメリカはオーディションで、やっぱり何百人、ものによっては数千人オーディションをして、選んでいったりするので、本当に役にピッタリな子が選ばれるわけですよね。冒頭、彼の語りで始まったりしますけど、彼は、あんなに若いのに、子どもなのに、非常に味もあるし...。何が重要かって、「彼が無言症の子である」というのが信じられるということなんですよね。天才子役っていう表現で、お芝居が上手いっていう子はいろいろいると思うんです、もちろん。だけど、お芝居が上手いのと、僕、これ、アメリカ演劇界とか、TV界・映画界のキーだと思うんですけど、お芝居が上手いんじゃなくて、そういう人に見えないとダメっていう点が大事だと思います。ジェイクが、リアリティで満たされていないと、マーティンの辛さ、父親の葛藤は生きないじゃないですか?

どんなに素晴らしいキーファー・サザーランドを、作品のスター、中心にして持ってきても、ジェイクが本当に良い素材じゃないと、成り立たない...。そういう意味では、日本の方々にも「こんなドラマもあるんだ!」ということを伝えたいです。

だって、凄く難しいと思うんですよ。一言もしゃべらないって...。演技ってね、しゃべっている時の方が楽だっていうのはあるんですよ。演じている人間にとって。しゃべっている人は、台詞も決まっているし、練習もできるじゃないですか。難しいのは、聞いている側の演技。台本に書いてないわけですよ。だから、全部自然にリアクションしていかなきゃいけないし、計算していかなきゃいけないし、って言うのがあるわけで... 。

でも、彼いいですよね! やっぱり。存在感なんかも...。

――本当に繊細で、気をつけて接しなければいけないジェイクの雰囲気が凄く伝わりますよね。

そう!あの辺は、本当に感心しましたね。「良い子、見つけてくれれるなぁ」って。しかも上手いし。

――ジェイクは冒頭シーンではしゃべっていますけど、(演じているデヴィッド君は)本当にしゃべらない子なのかな? って思ってしまいますよね。

そうそう! 「そういう子を見つけてきたの?」って思わされるようなね! そこが、キャスティングの妙ですよね。アメリカの映画とかTVの核だと思っていて、向こうは絶対、まず脚本と配役でほ ぼ決まると。作品の方向性が。そこに懸けている、象徴みたいな作品ですよね、『TOUCH』は。

だって、結構なリスクだと思うんですよ。主役の1人が無言症の子どもっていうね。例えば、スペシャルドラマ的なものであれば、不治の病にかかった子どもの話とか、若者の話とかありそうですけど...。これで、1シーズンひっぱっていくっていう、「どうなるの?どう展開するの?」って思わされる。

――ともすれば、重いストーリーになってしまいそうな設定ですからね。

ところが、重くなっちゃうのかな、と思いきやエンディングに「ウワっ!」とね。爽快感さえあるときもありますから。その構築する力って凄いなって思いましたね。見所はその2つですかね。(後編に続く)


『TOUCH/タッチ』
2014年1月8日 Vol.01&DVDコレクターズ BOX1 リリース
2014年2月5日 DVDコレクターズ BOX2 リリース

Photo:(c)Kaoru Suzuki
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