『ヴァイキング~海の覇者たち~』が伝えてくれる! ヴァイキングとは何だったのか...!

中世ヨーロッパ。スカンディナヴィア半島周辺に住み、北欧を中心に活動していた北方ゲルマン民族は《ヴァイキング》と呼ばれた。

 

イングランドの古代史を記した『アングロサクソン年代記』によれば、ノルウェーヴァイキングの最初の襲撃は787年もしくは789年。だが、最もショッキングだったのは793年6月9日に北部イングランドのノーサンブリア王国で起きた「リンディスファーン(リンデスファーン)修道院襲撃」。この事件で本格的な《ヴァイキングの時代》が到来したとされ、ドラマ『ヴァイキング~海の覇者たち~』でも象徴的な出来事として描かれている。

ヴァイキング・エイジは8世紀末からの約250年。彼らが歴史の表舞台に立っていたのは2世紀半と短いが、当時の世界に与えた影響は大きかった。
しかし、ヴァイキングの「素顔」については未だ不明な点が多い上、誤解も少なくない。

その最たるものが、彼らの服装だ。

懐かしの"小さなバイキング"、ビッケのトレードマーク「ツノがついたヘルメット」は、実のところ誰もかぶっていなかった。革や鉄・青銅の兜はあったが水牛のような角はついてなかったし、《ヴァイキング》と聞いて多くの人が思い描く、毛皮のベストや編み上げブーツという「いかにも」な格好もしていない。
男性の定番スタイルは、「ブロク」と呼ばれるゆったりしたウール製ズボンと太もも~膝ぐらいまでの長さのチュニック。トップスの上から革のベルトでウエストマークしたり、寒ければ革や毛織物のマントを羽織って手にミトンをはめる。ブーツは一枚革で作られ、海水が中に入りにくいようになっていた。実用的。

●ヴァイキング=「海賊」???

《ヴァイキング(ヴィーキング)》の語源について、かつては「ヴィーク(古いノルド語で「入り江」の意)を拠点に略奪を繰り返す輩」との説が主流だったが、現在は「ヴィクス(ラテン語で「商業・交易地」の意)を転々とする人」だとする説が有力。
つまり、ヴァイキングは海賊行為が専門の「略奪者」ではなく、交易をメインの目的とする「商人」だった。

 

地元で毛織物・毛皮・海獣の牙・鉱石・木材などを積み込み、遠征先で自分たちが欲しい物や別の土地で高く売れる物と交換したり、銀貨や金貨と引き換えたりして利益を得る。
ヴァイキングが海の向こうを目指すのは「商売で富を増やして豊かになって戻り、家族を養うため」。そうなると、海賊というよりは「出稼ぎ」。サラリーマンの海外出張や単身赴任と変わらない。

●基本は陸上生活

海と密接に関わっていたヴァイキングだが、いつも海上で暮らしていたわけではなかった。そもそも船は小さいし、生活に適しているとは言い難い。
普段は自分の土地で農業・牧畜・狩猟・漁業を営み、海が比較的穏やかな夏(現在の暦で6月ごろ)に出航。サガなど中世の書物には「ヴァイキングに行く」「ヴァイキングから戻る」といった記述があり、船で一時的に遠征すること自体を《ヴァイキング》と呼んでいた。一度のヴァイキングは数週間か長くて2~3カ月で、冬が始まる前には帰宅する。
彼らにとってヴァイキングを行うことは「夏の年中行事」のようなもの。

航海から戻ると、家族総出で干し草作りや穀物の収穫。夏の終わりは、間もなく訪れる長く暗い冬を越す準備に費やされる。魚や肉で保存食を作り、宴会のためのビールやベリーワインを仕込み、壊れた建物を修繕したり、燃料となる木や泥炭を集めたり。
そして冬は「ものづくり」のシーズン。老若男女が屋内仕事に精を出す。刈った羊毛で布を織って裁縫や刺繍を施したり、木や金属で武具や船具を作ったりする職人仕事がはかどるのもこの時期。冬の間に作られた工芸品は、夏の交易の商品にもなった。

彼らは豪胆なようで、実際は意外と質素で堅実な暮らしぶりだったといえる。

●《ヴァイキング像》を歪めた「異教徒」への偏見

交易が第一の目的だったヴァイキングが暴力的になるのは、ほとんどが、理不尽なことをされたり逆に襲われたりなどの「不利益をこうむりそうになった場合」やひどく抵抗されたとき。通常、武力は命や財産を守るための最後の手段だった。
もちろん強奪や殺人はあったが、遠征先の人々と常に敵対していたワケでもないらしい。そこで得た知識や暮らしの知恵を吸収して故郷で応用する一方、その土地に航海の道具や技術を伝えたり、植民地や交易地・経由地として開拓し、新たな利益をもたらすケースもあった。

「野蛮な略奪者」というヴァイキング像は、襲われた側、主にキリスト教徒の固定観念にすぎない。
ヴァイキングは、口伝えや石と少しの羊皮にルーン文字を刻む程度にしか自分たちの文章を残さなかった。被害者サイドが書物として記録するうちに想像と被害妄想が膨らみ、ヴァイキング像はデフォルメされていったと思われる。

確かにヴァイキングは人々をさらったが、当時は奴隷の需要が高く、各地でいい値段がついた。そのため「人間狩り」的行為をしていたのは彼らだけではなかったはず。なのに、ヴァイキングだけをことさら「悪魔」呼ばわりしたのは、彼らがよくわからない言葉を話し、得体の知れない神々を信じる「異教徒」だったからだろう。
いきなり海からナゾの男たちが奇妙な船でやってきて聖なる場所を荒らし、また海の向こうへ去っていく――間違いなく怖かったと思う。それがあまりに衝撃的だったために伝説化し、「粗野で残虐で不道徳な乱暴者」というイメージを植え付けてしまったのかもしれない。

●『ヴァイキング ~海の覇者たち~』の描写

ドラマの主人公:ラグナル・ロズブロークのモデルは、竜を退治し、イングランドを攻略したとされるデンマークの英雄。神話の時代から中世までのデンマーク史『デンマーク人の事績』には、デンマークとスウェーデンの王になったとの記述も。
有名な『ウォルスング家のサガ』に続く『ラグナル・ロドブロク(ロズブローク)のサガ』では、「凛々しい顔立ちの切れ者で、家族と友人思いだが敵には容赦ない人物」として描かれているラグナル。竜退治の折に返り血を浴びないよう、松脂で加工した毛皮のズボンと鎖帷子を着たことから「ロドブロク(毛皮のズボン)」と呼ばれたという。

 

サガにあるような、「竜を倒し」たり「神の意に反した行為の結果、骨のない息子が生まれた」りなどの非現実的エピソードは『ヴァイキング ~海の覇者たち~』には盛り込まれていない。エッダやサガをベースに様々な伝承や史実を組み合わせ、神話・伝説上の存在というよりも激動の時代を生きたひとりの人間としてラグナルを位置づけている。
勝利の神で主神のオーディン、オーディンの手下のカラス=フギンとムニン、戦死した英雄をヴァルハラに集めるヴァルキュリヤなど北欧神話のモチーフも散りばめながら、伝説的な逸話はよりリアルに・史実はより劇的に描く。まさにヒストリーチャンネルの面目躍如といったところ。

また、これまでさんざん出回ってきた「ステレオタイプなヴァイキング像」ではなく、彼らの「本当の姿」に迫ろうとしているのも興味深い。

ヴァイキングは一人の首長を中心とする小さいグループに分かれて生活し、定期的に開かれる民会(シング)で法の制定・裁判・次の遠征計画・縁談・商談・金の貸し借りなど、集団に関わる全てのことが決められた。出席者の全員一致が原則で、誰でも自由に発言することが許されていたという。そんなシングの様子は第1話から描かれている。

 

西方のイングランドどころか、イベリア半島をぐるっと回って地中海、陸路と河川路で黒海やカスピ海、大西洋を渡って北米にまで到達していたヴァイキング。羅針盤の発明以前でも正しい航路をとれた理由のひとつは、曇りでも太陽の位置がわかる「太陽石(サンストーン)」があったからといわれているが、本作でもラグナルがこうした航海用具を使うシーンが登場。

沿岸や小島づたいに行ける東方より、大海を越えなければいけない西方遠征のほうがずっと危険だったはず。しかも、最初に行った者たちにとっては死を覚悟した船旅だったに違いない。
航路を知る者が優遇されるヴァイキングの世界。西へのヴァイキングの第一人者となって力をつけていくラグナルとそれをよく思わない首長のハラルドソン、二人の確執も見逃せない。

 

さらに、ラグナルの妻:ラゲルサや子供たち、兄:ロロとの関係を通して
何よりも家族の名誉を重んじ、仲間からの信頼と尊敬を一番の誇りとする民族だったこと
荒くれ者ばかりの男社会かと思いきや、女性もかなり強く、妻や母としての権利が保障されていたこと
子だくさんが普通だったこと
・・・など、あまり知られていないヴァイキング社会の特性もうかがい知ることができる。

そして物語が進むにつれ、キリスト教世界とヴァイキング文化の違い・衝突、そして融合(スカンディナヴィアのキリスト教化がヴァイキング衰退の大きな原因といわれるのだが)についても、連れ去られた修道士:アセルスタンの視点から描かれていくことになるはず。こちらの展開にも注目だ。

 

『ヴァイキング~海の覇者たち~』は、ヒストリーチャンネルにて、2月22日(日)21:00より日本独占初放送!
・全9話
・毎週日曜21:00~22:00
※2月22日(日)のみ21:00~23:00第1・2話連続放送

参考文献:レジス・ボワイエ著「ヴァイキングの暮らしと文化」熊野聰監修:持田智子訳(白水社)/ヴィルヘルム・グレンベック著「北欧神話と伝説」山室静訳(講談社)/イヴ・コア著「ヴァイキング 海の王とその神話」谷口幸男監修(創元社) 【海外ドラマNAVI 】


Photo:『ヴァイキング~海の覇者たち~』
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