もはや、視覚では感知できない!? 本当に優秀な「CG」効果の実力<前編>

あなたの眼は、完全にダマされている!!!
(もちろん、良い意味で)

今回テーマに取り上げるのは

《視覚効果》

言葉で描写するのが実に困難であるので、今まで触れることはなかったが、
この分野がどれほど進歩を遂げ、いかなる成果を生んでいるか、
良い時期なので当コラムで語ってみようと思う。

VFX(Visual Effects)と呼ばれるこの分野。映画やテレビの賞などでも
"視覚効果賞" という部門があるのでお馴染みだろう。

よく巷で、

「ハリウッド映画なんて、CGとかばっかりじゃん!」

というようなご意見や論調を耳にする。しかし、こういう言葉を安易に
放つ人ほど、

まずハリウッドの近年の作品群をまともに見ていない...
もしくは見ていたとしても完全にその人の眼はダマされている...

と断言することができる。
確かに、"ばっかり"かもしれない。しかし、きっと見ている箇所と
見えていない箇所が違うのだ

結論から言おう。

あなたがハリウッドやその他の国々の映画やドラマを見ていて、

「なんだよこのCG、(視覚的に)バレバレで物語に入りこめないよぉ...」

と思っているCGは、一回見て意識的に "気づくことができてしまう" CGだけである。
あるいはCGのクオリティーが低過ぎて、誰の眼にも不自然に映っているCGだけだ。

本当に時間と予算をかけた、驚異的な技と仕事量を注ぎ込んだ、見事な仕上がりの
CGには、あなたはもしかしたら気づいていない

「CG」と聞いて、皆さんは通常どんな絵面を思い浮かべるだろうか?

何年か前までの視覚効果の話なら、SF映画などのロボット、ヒーローや
怪獣や恐竜たち、竜巻や巨大な波、宇宙船や惑星の爆破シーン...
というものが一般的だったのではないだろうか?

もちろんそれらも正解。フルCG(Computer Graphics/コンピューター・グラフィックス)
"架空の物体や現象" をコンピューターによる画で表現する映像は、
ここ数十年の映像エンターテインメントには欠かせない大切な要素となった。

しかし今や、CGI(Computer Generated Imagery/コンピューターによって生成された心象・結像)
として作れる物や合成技術で見せることができる画は、いわゆる "SFや特撮モノ" とはまったく限らない。

ホームドラマ、恋愛モノ、刑事モノ、医療モノ、コメディ、ミュージカル、ありとあらゆる作品で
必ずと言っていいほど、なんらかのシーンやショットでCGIが合成されていると思って間違いない

作り出しているのは、宇宙船や異星人だけではない。
車、建物、床、家具、光、雪、火、煙、雨、雲、波、葉、毛、羽...
本当に何でも描ける。
決して、子供向けの3Dアニメーションだけの話ではなく、写実的な映像の現時点の話だ

 

建物どころか、街全体だって描ける。
例えば、人気ドラマ『THE FLASH/フラッシュ』(CW)の中で、
フラッシュが超高速で都会を疾走するシーン。
「きっと撮影のカメラを車上に積んで、車道を走りながら撮影し、撮った映像を早回ししたりする
んだろうなぁ...」
と思いきや、道路やビル群のすべてがCGIで創られたショットであったりする。
速さや動体によるブレまでを計算して描かれているし、僕らは主人公の表情を注視しているので
周囲の建物や車や空や通行人までがCGIだとは考えない。それらはほとんど気にならないのだ。

ドラマや映画で、走っている車の窓の外の景色やビルの外の情景がCGIとの合成であることは
今や日常茶飯事だ。撮影隊がロケ地に行かずとも、昼間や夜間の眺めが再現できる。
経済的であるし落ち着いての撮影も可能になり、
映像のすべてがコントロールできるというメリットがある。

昨年のアカデミー賞を賑わせた、デヴィッド・フィンチャー監督の映画『ゴーン・ガール』では、
主人公の夫婦がNYからミズーリ州の田舎に移り住むところから事件が始まっていくのだが、
この田舎の一戸建ての家での撮影のほとんどが映画スタジオ内のセットで撮影され、
ベン・アフレックやロザムンド・パイクが出入りする玄関、
あるいは窓から見える外の芝生や木々や道路や空の多くの景色が、実は合成で作られていた。
この映画を一度見ただけで、いったいどれだけの人がその視覚効果を見破ることができただろう?
僕には、判らなかった。圧巻のCGI合成技術が、ごく普通の生活場面にも活かされているのだ
優れたCGIのシーンというのは、物質の質感はもちろん、その光や影が、俳優や美術セットとも
馴染むように一級の照明技術も駆使されているので、まったく自然に見えてしまう。

真に素晴らしい、世界のトップ級の職人技/映像技術者のレベルというのは、
もう一般の人々の認識を遥かに超えているのだ

言葉で説明してもなかなか伝わり難いと思うので、
CGIの効果にご興味のある方は、是非下記のリンクで
約7分間のクリップを見て頂きたい。

参考資料:Why CG Sucks (Except It Doesn"t)

『Why CG Sucks/なぜCGはヒドいのか?』というタイトルは洒落。
このクリップが真に伝えているのは、
『映画やドラマのCGをヒドいと思っている人、あなたが見ているのはきっと
ヒドいCGだけなんですよ!』
という盲点である。非常によくできた技術解説で、
2015年の夏に米国エンターテインメント誌のウェブサイトなどでも紹介された面白いクリップだ。

ここでは様々な映画やドラマの合成がいかに洗練された形で観客や視聴者に提示
されているかが判る(※ 質の低いCG例も多少紹介されているのでご注意を!)。

VFX(視覚効果)には、わかり易く大きく分けると、

◆Practical Effects(セットや小道具や人形や特殊メイクなど、実際に物体を撮影して生む効果)
◆CG Effects(コンピューターでデジタルの画で作った効果)

の両者がある。どちらも頻繁に使用される、重要な効果だ。

 

本当に優れたCGIは、重さ、大きさ、速さ、質感、輝き方、動き方などが、物理の法則に沿って
しっかりと生み出されるので、そこに在る、そこに居る、そこで動いているようにしか見えない。
実に見事と言うしかない。
サンドラ・ブロックが主演した映画『ゼロ・グラビティ』では宇宙空間だけでなく、宇宙船の
船内や、さらにはサンドラが着ているはずの宇宙服やヘルメットまでもがCGIで生成され、実際は
何も着ていないで撮影されたショットも多々あった...。このタネ明かしには驚かされる。

もっと言えば、サンドラが船外に放り出され、回転したり、破損した部品などにぶつかりながら
複雑に遊泳しているシーンの中の"サンドラその人"がCGIとしてモデル化された画だったりもするのだ。
それでも僕らは「なんだ、あの宇宙飛行士の姿、CGじゃん!」と思いながら観てはいない。
よっぽど専門的な眼を持っていない限り、すっかり物語に感情移入し、飛行士の運命に
ハラハラドキドキしていたはずなのだ(少なくとも、劇場で大音響と共に初めて観た時は)。

それでも、

「いや、やっぱり、Practical Effects(実物を使用した効果)には敵わないよ、CGじゃ嘘っぽい
からねぇ...」

という議論はもちろん起こる。僕もそう感じる時は多々ある。

振り返れば、少年時代に劇場で虜になった70年代の『ジョーズ』(スティーヴン・スピルバーグ監督)は、
完全なるPractical Effectsによる映画だった。あの身の毛がよだつ人食いザメは、機械仕掛けの
ロボットだった。あの時代にCGI技術など存在しない。

90年代には、同監督が『ジュラシック・パーク』でPractical Effectsによるパペットや
アニマトロニクス(機会仕掛けの動物)の恐竜やCGIの恐竜を場面やショット毎に組み合わせ、
これも見事な効果を生んだ。
それでも、当時はPracticalな効果とCGI効果の見分けがなんとなく僕ら映画ファンの眼でも判別できたものだ。

しかし21世紀の今では、昨年の『ジュラシック・ワールド』(コリン・トレボロウ監督)の
中の恐竜に至っては、もはやどこまでがCGIでどこまでがパペットやアニマトロ二クスなのかさえ
識別できない域にまで達している。

ハリウッドの作品だけではない。2012年のノルウェー映画で、アカデミー賞の外国語映画部門に
ノミネートされた『コン ・ティキ』(ヨアヒム・ローニング/エスペン・サンドベリ監督)は、
Practicalに海で実際に撮影した迫力のある画の重要性を訴えつつも、
その映画の中の生きたサメのショットの多くがCGIで創り出されたものである。
その生々しさ、皮膚の濡れ具合、色、つや、暴れ方、どれをとっても、まさかそれらが
CGで処理されたものだとは到底信じられない。それほどに素晴らしい。

昨年の傑作大型アクション『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(ジョージ・ミラー監督)や、
一昨年の話題作『インターステラー』(クリストファー・ノーラン監督)のように、
実物大のトレーラーや宇宙船を作り、極力現実的なセットをロケ地に組んで
俳優たちやスタントマンたちに生身でアクションとリアクションの演技をさせ、
ギリギリまで臨場感を生み出す作風やこだわりのスタイルの作品には、それだけの説得力が生まれる。
しかし、それら空前のスケールでPracticalな効果を狙ったことが伝説となっている作品にも、
大掛かりな自然の情景から砂や埃(ほこり)の小さな粒に至るまで、
CGIのショットは数えきれないほど使われているのである。

Practical とCGI の長所が絶妙にブレンドされ、
リアルな、あるいはややデフォルメされた効果が生まれた時、
あなたの眼は完全に、劇的にダマされるのだ。

〜後編に続く〜

Photo:
『THE FLASH/フラッシュ』 (C)2015 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『ゼロ・グラビティ』 (c) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.