あのデイビッド・E・ケリーがクリエイター/ライターを務めるドラマがこのほど、米Amazonのストリーミングで公開されました。デイビッド・E・ケリーといえば、1990年代に一世を風靡した『アリーmyラブ』や『ザ・プラクティス』などの法廷ドラマで知られるプロデューサー/ライターで、これまでにエミー賞を10回も受賞している大御所。
しかし近年は、精力的にドラマをプロデュースするも、1シーズン止まりとか数話で打ち切られるといった作品が続き、あまりパッとしませんでした。ロビン・ウィリアムズとサラ・ミシェル・ゲラーの起用で話題になったものの、1シーズンで終了したシットコム『The Crazy Ones』(2013~2014年)以来、約2年ぶりとなる新作『Goliath』は、そんな低迷期から復活した会心作です。
タイトル『Goliath』は、英語でゴライアスと発音します。日本ではゴリアテといった方がピンとくるかもしれませんね。名作アニメ『天空の城ラピュタ』に出てくる巨大飛行戦艦の名前もゴリアテでした。旧約聖書を知る人なら、これが意味深なタイトルだと気づいたはず。ゴリアテとは、旧約聖書「サムエル記」に登場する、身の丈3メートル近くもある巨人の兵士で、羊飼いの少年ダビデ(イスラエル王国ののちのダビデ王)との一騎打ちで殺されるという有名な故事があります。「ダビデとゴリアテ」は、現代ではこの故事にちなみ、弱小な者が強力な相手と戦うことを例えるのによく使われています。
物語の舞台はロサンゼルス。過去に名を馳せるも現在は法廷よりもバーで過ごす時間の方が長い、落ちぶれた弁護士ビリー・マックブライドが、ある不審な死亡事故の訴訟を依頼される。ビリーはいやいや引き受けるが、自殺とされた事故の背後には、きな臭い巨大な軍事企業があり、その企業こそ、かつて共同で設立したが追い出され、今や何十人も弁護士を抱える大組織となったローファーム最大のクライアントだった。ビリーと人一倍気合いはあるが空回りしがちな新米弁護士や元コールガールのアシスタントからなる弱小チームは、強大な敵が仕掛けてくる執拗な嫌がらせや陰謀をふり切り、正義を勝ち取ることができるのか...。
主役の弁護士ビリー・マックブライドを演じるのは、ビリー・ボブ・ソーントン。TVドラマ『FARGO/ファーゴ』のシーズン1で彼が演じたあの役にはぞぉーっとさせられましたが、こちらはもっと親しみやすいキャラです。アル中だったり、接近禁止令のため別れた奥さんに近づけなかったり、クライアントとできちゃったりするダメダメな男なんだけど、どこかセクシーで愛嬌があり、当の事故の真相を突き止めるために、狡猾な一面ものぞかせます。クリエイターで脚本も手がけるデイビッド・E・ケリーとジョナサン・シャピロが、当て書きしたんじゃないかと思うほど、ビリー・ボブさんはこのはみ出し者的なキャラにこの上なくハマっているんです。つくづくすごい俳優だと感服しました。
かつて親友だったビリー・マックブライドをひどく憎む、敵のローファームの経営者をウィリアム・ハートが怪演していて、これがとっても不気味。今や敵同士である二人の緊迫した対決に思わず目を奪われます。この演技派二人のキャスティングがドラマの成功の大きな部分を占めていると言えるでしょう。また、ビリーの別れた妻をマリア・ベロ(『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『TOUCH/タッチ』)、勝つためには手段を選ばない、敵方の無慈悲な弁護士をモリー・パーカー(『ザ・ファーム 法律事務所』『ハウス・オブ・カード 野望の階段』)、ビリーとチームを組むコミックリリーフ的な若手弁護士をニナ・アリアンダ(『ミッドナイト・イン・パリ』『ハンニバル』)が演じており、実力ある女優たちがドラマを華やかにしています。
その世界にはパワハラ、嫉妬、野望、陰謀、性差別、性的誘惑といったネガティブな要素が渦巻いているのですが、ドロドロした人間模様が面白い。さすがデイビッド・E・ケリー、ともするとソープ・オペラになってしまいかねないそのドロドロを巧く描いています。ツッコミたくなるところはなきにしもあらずですが、それらをカバーするに十分な求心力があり、イッキ見の誘惑には抗えません。
ケリーは10月にネットで公開されたインタビューで、ブロードキャスト・ネットワークでのドラマ制作は、コマーシャルがあるため41分の尺に収めなければならないし、市場主導のために様々な制約があったけど、ストリーミングではもっと自由にストーリーやキャラクターを掘り下げて描くことができると、ストリーミングやケーブルのプラットフォームでのドラマ制作にポジティブで意欲的なコメントをしていました。
また彼は、最近観て良かったTVドラマに、HBOのクライム・サスペンス『The Night Of 』と今年のエミー賞を総なめにした『アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件』を挙げていました。大いに納得。やっぱりこのジャンルのものをチェックしているんですね!
自身も弁護士をしていたケリーが放つ新たな法廷サスペンス『Goliath』は、久々に彼の持ち味が光るパワフルな"大型"ドラマです。
Photo:
デイビッド・E・ケリー (C)Megumi Torii/www.HollywoodNewsWire.net
ビリー・ボブ・ソーントン (C)Megumi Torii/www.HollywoodNewsWire.net
ウィリアム・ハート (C)Ima Kuroda/www.HollywoodNewsWire.net
マリア・ベロ (C)Mayuka Ishikawa/www.HollywoodNewsWire.net