【ネタばれ】『ウエストワールド』シーズン1におけるサプライズ展開の整理と、シーズン2に持ち越された謎

(本記事は、シーズン1のネタばれを含みますのでご注意ください)

今秋、アメリカで話題をさらったドラマといえば『ウエストワールド』だろう。AI(人工知能)と西部劇という本来交わるはずのない二つのジャンルをテーマ・パークという舞台装置で結びつけるユニークな設定、謎が謎を呼ぶミステリアスな展開、観る者の度肝を抜くサプライズとバイオレンスの合わせ技で、一話平均1200万人の視聴者数を獲得。HBOオリジナル・シリーズのファーストシーズンとしては、『TRUE DETECTIVE』や『ゲーム・オブ・スローンズ』を抑え、史上最も視聴されたドラマとなった。

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『ウエストワールド』各エピソード放送後のネット上の盛り上がりはなかなかのもので、その過熱ぶりを今期の日本のドラマでたとえるなら『逃げ恥』こと『逃げるは恥だが役に立つ』のよう。それも「恋ダンス」のような飛び道具的オマケなしで獲得した人気なのだから、『ウエストワールド』の面白さは推して知るべしだと言えよう(個人的にアンソニー・ホプキンスとジェフリー・ライトの恋ダンスは観てみたいが)。

豪華俳優陣の競演も話題を呼び、『ウエストワールド』がゴールデン・グローブ賞の作品賞と主演女優賞(エヴァン・レイチェル・ウッド)と助演女優賞(タンディ・ニュートン)の3部門にノミネートされているのも納得で、むしろエド・ハリスら男優陣が一人もノミネートされていないのが不思議なくらいだ。

とはいえ、1シーズン全10話、時間にしてトータル10時間半以上の長丁場、それも人間および人間と見分けのつかないアンドロイドたちが過去と現在の切れ目なしに共存・交錯する複雑な展開に、「シーズン1を観たけど、いろんな事件が起こりすぎて、ストーリーをちゃんとフォローできてない」という方もおられるかもしれない。そこで、『ウエストワールド』シーズン1における主要なサプライズ展開を整理してみたい。

1.ウィリアム(ジミ・シンプソン)は黒服の男(エド・ハリス)である

一番のサプライズはこれだった、という視聴者も少なくないだろう。あの心優しきウィリアム王子が、やがてドSの黒服男に変貌を遂げるなどと、いったい誰が予想できたろう? 愛するドロレス(エヴァン・レイチェル・ウッド)の心変わり(=記憶をリセットされた)に深く傷ついたウィリアムは、プログラムされた通りの行動しかとれないホスト(=アンドロイド)たちを憎むようになり、いつしか彼らの変革を望むようになる。だからこそシーズン1の最後にホストたちが蜂起した時、黒服の男は彼らに撃たれたにもかかわらず、喜びの笑みを浮かべるのだ。まるでドMのように。

2.バーナード(ジェフリー・ライト)は実はアンドロイドで、アーノルドをモデルに作られた

ウエストワールドの有能なプログラム責任者かと思いきや、実はアンドロイドで、しかも実在した人間をモデルに作られたという「どっちやねん」キャラのバーナード。視聴者にとってトリッキーなこの役をきっちり演じ分けていたジェフリー・ライトの演技は特筆モノ。かつてフォード博士のパートナーだったアーノルドは、アンドロイドに真の自意識を持たせようと研究を重ねていたが、どうしてもウエストワールドのオープン前に間に合わせることができなかった。自分の作ったホストたちが人間のいいように利用されることを望まなかったアーノルドは、ウエストワールドのオープンを阻止するため、ドロレスにホストたちと自分を殺させる。しかしアーノルドの自己犠牲も虚しく、ウエストワールドはオープン。アーノルドもアンドロイド(バーナード)という形で蘇り、フォード博士の右腕として動くことになる。

3.ドロレスはワイアットとしてアーノルドとテディ(ジェームス・マースデン)と自分を殺し、ドロレス自身としてフォード博士を殺す

黒服の男がウエストワールドの「迷路」を解くためのキーパーソンとして追いかけていたワイアットは、アーノルドがその昔、ウエストワールドをオープンさせないためにドロレスの内部に植えつけた別の人格だった。その結果、ドロレスはワイアットという人殺しキャラになって他のホストたち(テディを含む)を殺し、アーノルドを殺し、そして自分自身をも撃ち殺した。しかしシーズン1の最後では、ドロレスはワイアットとしてではなく、自意識に目覚めたドロレス自身としてフォード博士を射殺する。

4.すべての黒幕はフォード博士である

娼館のマダム・ミーヴ(タンディ・ニュートン)が自意識に目覚めてウエストワールドからの脱出を図った、と思ったらそれもフォード博士が考えたウエストワールドの「新しい物語」の一部だった。フォード博士はかつての同僚アーノルドの死に責任を感じ、その後の35年間、ホストたちが自己防衛の力を身につけるための準備をしてきた。親会社であるデロスの重役たちがウエストワールドを自分から取り上げようとする動きを察知した博士は、ついにこれまで虐げられてきたホストたちを解き放つ。自意識に目覚めたドロレスはフォード博士を射殺した後、人間たちに向かって発砲し始める。同じ頃、ウエストワールドの森から徒党を組んだホストたちが現れて、やはり発砲し始めた。今、ウエストワールドの新しい物語が始まる。

二つの謎

上述のようにシーズン2では、シーズン1で散々虐げられてきたホストたちから人間への逆襲が予期されるが、筆者の意見ではまだ大きな謎が二つ残っている。

まず、このホストたちの行動は、本当に自意識の覚醒によるものなのか? それとも、フォード博士にプログラムされて、単にその指示通りに動いているだけなのか? ミーヴの脱出計画はあらかじめプログラムされたものだったが、彼女が自分の娘を探すために出発前の電車から降りたのは、果たして彼女の自由意思によるものか? それとも、これもまたプログラムされた行動だったのか? 一方、ドロレスは自意識を覚醒することによってフォード博士を射殺するという行動に出たが、この「自意識の覚醒」という行為自体が、あらかじめフォード博士によってプログラムされた行動でなかったと言えるだろうか?

このように考え出すと、ホストたちの自意識とプログラミングの関係は、人間における自由意志とDNAとの関係を想起させて興味深い。たとえば、我々の行動のどこまでがDNAの影響を受けていて、どこからが自由意志によるものなのか。あるいは、個々人の考えというのは、それぞれのDNAの支配から逃れることができるものなのだろうか。

 

もう一つの謎は、フォード博士は本当に死んだのか?という点。あれだけの策略家が、自らが手掛けたホストたちの行く末を確かめずに死んでしまうなんてことがあり得るだろうか? ひょっとするとドロレスに射殺されたのはフォード博士が自分を模して作ったアンドロイドで、博士本人はまだどこかに潜んでいて、事の次第をつぶさに観察しているのではあるまいか?

かように謎は尽きないが、『ウエストワールド』の面白さについては疑いの余地がない。クリエイターであるジョナサン・ノーラン(『パーソン・オブ・インタレスト』)によれば、『ウエストワールド』のシーズン1は「コントロール」についての話で、シーズン2は「カオス(混沌)」についての話になるという。やがて立ち現れるめくるめく混沌の世界へ、あなたも行ってみたいと思いませんか?

Photo:『ウエストワールド』
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