【お先見】現代版『オズの魔法使い』ダークで壮大な映像美に魅せられる『Emerald City』

『オズの魔法使い』という作品。おそらく誰もが一度は耳にしたことがあるタイトルだが、その有名な作品のリブート版として年明けから始まった新番組が『Emerald City(原題)』だ。

同作は、奇才ターセム・シン監督(『ザ・セル』『白雪姫と鏡の女王』)がシーズン1の全10話を手がけるだけあり、監督が得意とするダークでミステリアス、かつ壮大な世界観が表現されている大人向けファンタジーアドベンチャー。初回は、なんと2話連続放送のスペシャルプレミアでもあった。


それではまず、ストーリーを紹介しよう。

カンザスにある小さな町。嵐の中、赤子を抱えた女性がとあるぼろ家に助けを求めて入っていった。時が過ぎ、舞台は20年後に。病院で看護師として勤務する優しい女性、ドロシー。手に負えない患者も彼女にかかれば、笑顔になる。だがドロシーは、同居している叔母のために、病院の薬をこっそり盗んでいるという一面も持っている。

そして、まるで20年前のあの日と同じようなある嵐の日。ドロシーはたまたま居合わせた警察官の背後に巨大な竜巻が接近しているのを見て危険を感じ、パトカーの中に逃げ込む。その直後、パトカーごと竜巻に巻き上げられていく。宙を舞って再び地上に戻ったドロシー。車から降りてみると目の前には赤い衣装をまとった女性の死体が。そこに突如現れた子どもの集団に手を引かれて行き着いた先には、言葉の通じない種族たちが何かの儀式をしていた。そこには、なんと先ほどの赤い衣装の女性の死体が祀られてあり、思わず彼女について尋ねてしまう。

その後、ドロシーはカンザスに戻りたいと思う一心で旅に出る。旅路では、記憶喪失のハンサムな男性(のちにドロシーがルーカスと命名)や、ある家に隔離されていた少年と出会う。一方、各々のテリトリーを守る魔女らがいる土地では、竜巻出現にともない騒がしくなる。不思議な人間や魔力、まだ見えない人間関係のしがらみにドロシーらは巻き込まれていく。そして魔女でさえも恐れる「The Beast Forever」とは一体何なのか?

プレミアの時点では、登場人物それぞれがどのような存在、人間関係なのか、また、これからどのようにそれぞれが関わっていくのかは不透明だ。その謎の部分が今後のドロシーの冒険を面白くしていくのだろう。

また、『ゲーム・オブ・スローンズ』『グリム』のような世界観を基本としながらも、合間に微笑ましいセリフやシーンがあることで、ダークな世界に光をもたらす粋な演出も見逃せない。

例えば、自分が見知らぬ土地にいる事実に気がついたドロシーが「絶対ここはカンザスじゃないわ(Definitely not Kansas)」とつぶやくシーンは、原作からきている有名なセリフをコミカルに再現したものだ。また、エメラルド・シティの指導者、魔法使いウィザードが、オヤジ的コミカルな行動に出るシーンがある。もしかするとこれには実は理由があるのかもしれないが、あまりこの手のドラマでは見ないシーンのように思う。

また、背景映像が素晴らしいのはロケ地が理由だ。アメリカやカナダではなく、なんとスペインクロアチア、そしてハンガリーとヨーロッパの美しいとされる国々で撮影されているのだ。青い海に古城、歴史を積み重ねた建物や石畳は、魔女や怪しい種族がいそうな世界にぴったりだ。

次に、キャストを見てみよう。メイクと奇抜な衣装のせいで、一瞬気がつかないかもしれないが、実は海外ドラマでお馴染みのベテラン俳優たちもこの作品には出演している。また、独特の雰囲気と演技力で新風を巻き起こしそうな出演者にも注目したい。

■ドロシー・ゲイル(アドリア・アルホナ)
カンザスに住む心優しい看護師。出生に秘密が?竜巻に巻き込まれ、見知らぬ土地にたどり着き、カンザスに戻る旅を始める。

プエルトリコ生まれでメキシコとアメリカ育ちのアドリアは、有名なシンガーソングライターの父を持つ。幼少期は、父について世界ツアーに同行していた。本作のオーディションの話が来た時、最初は「受けない」と断ったらしい。理由は「私はヒスパニック、ラテン系だから。ラテン系のドロシーなんて絶対選ばれるわけないから」と。自分は不利だ、と思いつつも結局オーディションに挑み、人種は関係ない、いい演技をすればいいだけだ、と思って臨んだら合格したとのこと。『TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ』『パーソン・オブ・インタレスト』や『ナルコス 狂気の麻薬王エスコバル』にも出演している。

■ルーカス(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)
ドロシーが旅の途中で出会う男性。名前も何も覚えていないために、ドロシーから「ルーカス」と名付けられる。原作でいう「かかし」にあたる。

イギリス人のオリヴァーは、15歳でイギリスのドラマに出演。その後も花屋でアルバイトをしながらオーディションを受け、『セリフリッジ 英国百貨店』やドリュー・バリモア主演の『遠距離恋愛 彼女の決断』など数多くの作品に出演。フランス語も堪能で、本人曰く、自身の英語はフランス語訛りだとのこと。

■グリンダ(ジョエリー・リチャードソン)
原作でも有名な魔女のグリンダ。北の魔女と呼ばれている。

ベテラン俳優1! 『NIP/TUCKマイアミ整形外科医』のジュリアナ・マクナマラ役で2度ゴールデン・グローブ賞にノミネートされたジョエリー。なんと彼女はイギリスで19世紀から5世代も続く芸能一家の一人。本作では、白髪に豪華な白い衣装に身を包み、いかにも魔女という雰囲気を醸し出している。

■ウェスト(アナ・ウラル)
西の魔女。原作で有名な悪い魔女。

注目俳優! ルーマニア人のアナは、『インフェルノ』『アナコンダ4』などに出演。鋭い目力にアクセントのある英語とハスキーボイスが悪い魔女にぴったり。グリンダとは対照的に、全身真っ黒な衣装だ。実はキーパーソンになるのでは?と思えるような個性的な魔女を演じており、惹きつけられる魅力がある。今後が楽しみな俳優だ。

■魔法使ウィザード(ヴィンセント・ドノフリオ)
かの有名なエメラルド・シティの指導者、魔法使い。グリンダやウェストなど魔女たちとの関係に長い歴史があるよう。

ベテラン俳優2! ニューヨークのアクターズ・スタジオ出身の演技派俳優ヴィンセントは、ブロードウェイで数々の舞台に上がり、のちに10年者間、主演を務めた『LAW & ORDER クリミナル・インテント』で俳優としての確固たる地位を築き上げる。実はミュージシャンとしても活躍しており、アルバムまで出している。本作では見事な髭面を披露しており、一見誰だかわからない。新たなヴィンセントの一面がとても魅力的に映る。

原作のファンが世界中にいるだけに、本作への期待は大きいものと思われるが、初回2話では原作の概念を越え、奇妙で奇抜かつユニークな世界に視聴者を引き込んでいる。 真っ青な海や白い雪景色、一面黄色の道に巨大な古城と、シーンごとに変わる美しい背景に目を奪われつつ、視聴者の私たちも現代のドロシーとともに、 新たな冒険の旅へと出たようだ。

Photo:
アドリア・アルホナ ©Sipa USA/amanaimages
オリヴァー・ジャクソン=コーエン ©Megumi Torii / www.HollywoodNewsWire.net
ジョエリー・リチャードソン ©Kazuki Hirata / www.HollywoodNewsWire.net
アナ・ウラル © Sipa Press/amanaimages
ヴィンセント・ドノフリオ ©Jun Matsuda / www.HollywoodNewsWire.net